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『吉野先輩を守る会』  作者: 虹色
第四章 茜
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吉野先輩は人気者?(8)


4月23日、月曜日。

雨が降って、バスで登校。

お兄ちゃんから、雨の日はバスが時間どおりに来ないと聞いて、いつもより早く家を出る。


奈々は次のバス停から乗って来るはず。

お兄ちゃんは朝練があるから、もう行った。

混んでいるバスに一人で乗るのはちょっと不安・・・。


バス停に着いて少し待っただけでバスが来た。よかった。

やっぱり混んでいたけど、なんとか中ほどまで進む。

立っている人の隙間を進んでいたら、「茜ちゃん」と声をかけられた。

声の方を見ると、すぐ前で吊り革につかまった吉野先輩がにこにこと小さく手を振っている。


「おはよう。」


「おはようございます。」


もぞもぞと先輩の方に近付いてあいさつをする。


「お、藤野の妹か?」


吉野先輩の隣の人?

あれ?

岡田先輩・・・だよね?


「おはようございます。」


あたしに応えてにやりと笑った顔は、目も鼻も口も大きくてハンサムとはいえないけど、親しみやすい雰囲気。

肩幅が大きくて背が高いから、吉野先輩の横に立っていると、まるで壁のよう。


「朝練に遅刻したのがばれちゃったな。」


と笑う。

あ、こういう笑顔、好きだな。


「やっぱり遅刻の時間?」


そう言って、吉野先輩もくすくすと笑う。

本当に仲が良さそう。


次のバス停で、奈々は乗って来なかった。

その分、吉野先輩と岡田先輩があれこれ話してくれて、不安だったバス登校も一安心。

お兄ちゃんと一緒の思い出も聞けたし。


あれ?

もしかして、岡田先輩、吉野先輩をガードしてる?


バスの吊り革は、つかまっていてもけっこう揺れて安定感がない。

吉野先輩の隣で天井の棒につかまっている岡田先輩が、よろける吉野先輩を支えているのだ。

吉野先輩は支えられるたびに「ごめんね。」とか「ありがとう。」とか言って。

それに、吉野先輩が周りの人に押されないように、岡田先輩が盾になっている。


まるでお姫さまと騎士(ナイト)みたい。

お互いに、守るのと守られるのが当たり前みたいに。


なんだか、うらやましい。


でも・・・。

お兄ちゃんがこの二人の様子を見たら、どう思うんだろう?


ああ、そうか。

二人があたしの前で何とも思ってないってことは、お兄ちゃんに対してもやましいことがないってことなんだ。

お兄ちゃんが気にしないってわかってるんだ。


学校前のバス停で降りると、岡田先輩は急いで朝練に。

それを見送って、吉野先輩が笑いながら、去年のできごとを話してくれた。


「朝、バスに乗ったらものすごく混んでて、通路の真ん中に立ってるしかなかったの。あたしは背が小さいから天井の棒には届かなくて、カバンを下げたまま、バランスを取ってるしかなかったんだよね。」


たしかに吉野先輩は小さい。

あたしより10cm以上小さいよね。


「そのバスが途中で急ブレーキをかけてね、あたしは隣の人のバッグが床に置いてあって足を動かせなくて、転びそうになっちゃったの。」


「うわ。転んだら恥ずかしいですよね。」


「そうでしょ? で、あたしも必死になって、前に立ってた人が背負ってたバットの袋につかまったら、それが岡田くんだったの。」


先輩がそのときの行動を再現しながら話して、思い出して吹き出した。


あたしはびっくり。

それは可笑しいけど、自分がそんなことになったら笑ってる場合じゃない。


「本当にびっくりしたよ。それまで同じクラスだったけど、岡田くんとは話したことがなかったから。で、 “しまった!” って思って手を放したら、また転びそうになっちゃってね、それを岡田くんが引っぱって助けてくれたの。」


なんだか、運命的な出会い、みたいな・・・。


「そのときはあんまり恥ずかしくて、お礼を言うことしかできなかったんだけど、それから岡田くんと話すようになってね、今は仲良しなんだ。人間関係って、何がきっかけになるかわからないよね?」


「本当ですね・・・。」


吉野先輩のその体験は、かなり衝撃的ですけど・・・。




昇降口で靴を履き替えて、先輩と並んで階段に向かう。

その途中で、うしろから聞き覚えのある声。


「陽菜子〜! おはよう!」


「あ。」


と吉野先輩が言った瞬間、がばっと後ろから先輩に覆いかぶさる黒い学生服姿。


先輩の胸なんかに触ってないでしょうね、早瀬?!


早瀬の手元を確認し、ジロリと顔を睨んでやる。

あたしの視線を受けて、一瞬ひるんだものの、早瀬は先輩を抱き締めたままふてぶてしく笑った。


ふん。

こっちには切り札があるんだから。


「響希、やめなさい。」


吉野先輩が落ち着いて諌める。

慣れてるなあ・・・。


早瀬が先輩を放して、話しかけようとしたタイミングを見計らってあたしが割り込む。


「おはよう、早瀬くん。真悟くんは元気?」


「真悟?」


吉野先輩がその名前に反応し、早瀬が思いっきり驚いた顔をする。


ざまあみろ!


「あ、ああ、吉田のこと? うん。げ、元気。」


「奈々がゴールデンウィークのことを相談するって言ってたけど、何か聞いてる?」


「え? あ、いや、俺は何も・・・。」


「そう。真悟くんって恥ずかしがり屋みたいだから、あたしたちとは会いたくないのかもね。」


「ど・・・どうかなあ。訊いておくよ。じゃあ。」


早瀬、退場。


あの慌てた顔!

いやー、気持ちいい!


「ねえ、真悟って言った?」


「あ、はい。早瀬くんのお友達です。この前、偶然。」


「ふうん。うちの弟も真悟っていうんだけど。」


「そうなんですか? 名字は吉田って聞きましたよ。」


「そう。真悟って、珍しくない名前だもんね。それに、恥ずかしがり屋? あり得ない! 別人か。」


こんなに素直に納得するなんて、吉野先輩って、人を疑うってことを知らないのかな?

そういうところも、かわいいけど。


「ねえ、その子とお出かけするの?」


「えっ?」


先輩。

ちゃんと話を聞いていたんですね。


「響希も一緒なの?」


「あの、ま、まあ・・・。」


「奈々ちゃんと茜ちゃんと?」


「はあ・・・。」


そんなに興味を持たなくても!

もしかして、あたしが困っていることを勘違いしてますか?!


さらに声をひそめて、先輩が。


「茜ちゃんはどっちがお気に入りなの?」


「すみません、先輩。あたしは奈々の付き添いなんです・・・。」


「え〜。なーんだ。・・・で、奈々ちゃんはどっちが?」


早瀬除けの真悟くんの話題は両刃の剣だ・・・。




教室で机に荷物を置いていると、早瀬が振り向いた。


「お前、わざとか?」


「わざとって、何が?」


とぼけている方が、まだしばらくは効果がありそうだよね。

・・・両刃の剣ではあるけど。


「真悟のこと。」


「真悟くん? 何かあるの?」


早瀬が疑り深い顔であたしを見る。

あたしは無邪気な顔・・・のつもり。


「・・・べつに。」


早瀬はさっさと教室を出て行ってしまった。


勝った!!


あたしたちにウソをついたりするから、余計に面倒なことになるんだよ。

吉野先輩みたいに、何でも正直に言うようにした方がいいよ!









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