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『吉野先輩を守る会』  作者: 虹色
第四章 茜
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吉野先輩は人気者?(7)



吉野先輩を送って帰って来たお兄ちゃんをつかまえて、岡田先輩のことを訊いてみた。

どうして岡田先輩には、吉野先輩があんなに遠慮しないで話せるのか。


「岡田はちょっと特別なんだ。去年、俺たち3人でよく一緒にいたから。」


「3人で一緒に?」


「吉野にとって、岡田は仲良しの友達なんだ。俺の次・・・っていうか、俺以外では唯一、だな。それ以外は、話はできるけど、男はあんまり得意じゃないから。」


ああ、だから東先輩たちのときはあんなに緊張してたのか。


「ねえ。もしかして、吉野先輩って人気がある?」


「どうしてそんなこと訊く?」


「だって・・・先輩のこと、『ぴいちゃん』って呼ぶ人が・・・。」


「ああ、それか。」


お兄ちゃんがにやりと笑う。


「べつに、そう呼ぶからみんなっていうわけじゃないだろうけど、吉野は人気があるんだぞ。まあ、『ぴいちゃん』って呼ぶだけなら野球部に5、6人いるし、それ以外も同じくらいいるな。天文部だってそうだろう?」


「うん。3年の先輩はみんな。」


それで17、8人か。

近藤くんたち野球部の1年にもファンはいる。


「ほかにも、彼女のバイト先の近くの高校でも人気があって、そこでは『吉野ちゃん』で通ってるんだ。去年の文化祭には、K高生が10人くらい吉野に会いに来たんだぜ。それに、天文部の1年生はどうなんだ? 吉野目当てで集まってるらしいけど?」


「あれ? 知ってるの?」


「今日、早瀬が大慌てで謝りに来てたからな。」


そうか。

同じクラスなんだっけ。


お兄ちゃんがちょっと恐い顔をしてあたしを見る。


「長谷川の話だと、お前もからんでるらしいな?」


しまった!


「そ、それは、もう吉野先輩に謝ったよ。」


吉野先輩って、他校の生徒からも注目されてるのか。

おとなしい人なのにすごいね。


「人見知りなのに、どうしてそんなに人気があるんだろう? 恥ずかしがってるところが可愛いからかな?」


首をかしげるあたしに、お兄ちゃんが呆れた顔をする。


「吉野が苦手なのは対人関係だけなんだぞ。勉強も、将来のことも、毎日の生活も、俺たちよりしっかり考えてるし、努力してるんだ。人見知りだって、少しずつでも直そうとしてるし。そういうところを見たら、誰だって応援したくなるだろう?」 


・・・ふうん。


感心しながら考え込んでいたら、階段を上って行くお兄ちゃんの笑い声が聞こえた。


あれ?

もしかして、今、自慢された?


お兄ちゃんだって、早瀬やあたしと変わりないじゃん!




部屋に戻って、ハンガーに下げた制服に手をかけたら・・・ポケットに何か?


笹本先輩の名刺。

携帯の番号と携帯とパソコンのメールアドレス。パソコンで印刷したもの?


『何か心配事なら、相談に乗るよ。』


先輩の声を思い出す。

まさか、心配事の原因に相談するわけにはいきません・・・。


あれ?

たいへん!


お兄ちゃん!

吉野先輩が安心できる人って、岡田先輩以外にもう一人いるよ!


お兄ちゃんは知らないみたいだけど・・・。




お風呂からあがったら、携帯にメールが来ていた。


真悟くんだ。


『ゴールデンウィークにどこか行かない? バイトの日程を調整するから連絡ください。吉田真悟』


名前を見て、思わず笑ってしまった。

いったい、吉野先輩の前でどんな顔をしているんだろう?

やっぱり全然照れ屋じゃないし。


それにしても・・・これ、どうしよう?

ああ。

奈々から連絡してもらえばいいか!


『どうしたの? 宿題のことなら、あたしに訊いても・・・。』


電話に出た奈々はちょっと警戒気味。

あたしが普段、授業についていけないと愚痴ってるから。


「やだなあ、違うよ。今まで、勉強のことで奈々に電話したりしなかったでしょ?」


『そうだね。じゃあ、なあに?』


「あのさあ、ゴールデンウィークのことなんだけど、真悟くんから・・・」


『あ! そうだよね! 1回くらい出かけなくちゃ! あーちゃんの予定はどう?』


あれ?

奈々には連絡行ってなかった?


「あたしは今のところ、何もないよ。空手教室はゴールデンウィークは自由参加だから。」


『OK、わかった。あたしから連絡しとくね。』


「ねえ。もしよかったら、奈々と真悟くん、2人だけで出かけてもいいよ。」


だって・・・、なんとなく・・・。


『どうして? あーちゃんから言い出したのに?』


う・・・。

あたしからじゃないんだよね・・・。

でも、そんなこと言えないな。


「あ・・・あの、だって、早瀬と一緒っていうのがちょっと。それに、お邪魔でしょ?」


『邪魔なんかじゃないよ。まだ1回話しただけだから、人数が多い方が気楽だもん。それに、早瀬くんだって、そんなに意地悪な人じゃないよ。』


「まあ、そうだけど・・・。」


『あ。それとも笹本先輩以外と出かけるのは嫌だとか?』


「は?! なんで急に笹本先輩?!」


『今日の帰り、見てたよ。笹本先輩から連絡先もらってたでしょう?』


「え? べつに・・・いいじゃん、同じ部活なんだから、緊急の連絡もあるし。」


『でも、笹本先輩、あたしにはくれなかったよ。あーちゃんより一緒に帰る時間が長いのに。』


そんなこと言われても・・・!


『それに、部の緊急連絡網はもらったのに、わざわざ手渡しで連絡先くれるなんて。』


「奈々! それは。」


あたしが元気がないからって、先輩が心配して・・・。


だめ。

深呼吸、ひとつ。


「奈々。もしかしてヤキモチ? 本当はまだ笹本先輩が好きなんじゃないの?」


攻守逆転・・・のつもり。


『そりゃあ、笹本先輩はかっこいいって今でも思うけど、真悟くんの方が本気。先輩は憧れの人。』


全然効いてないや。


「じゃあ、とにかく真悟くんのこと、頑張ってよ。あたしはダシでも何でも協力するからさ。」


『うん! ありがと♪ じゃあ、早速電話しようっと! 決まったら連絡するね!』


・・・疲れた。


笹本先輩の連絡先をもらったことで、あんなに言われるなんて。

奈々、やっぱり妬いてるんじゃないの?


笹本先輩はいつも吉野先輩を見て・・・そういえば。


去年から、吉野先輩が部活に出たときには、笹本先輩と一緒に帰ってたんだよね?

でも、帰りにどこかに寄ったりはしてなかったんだ。

だって、さっきアイスを食べに寄ったとき、吉野先輩はあたしの質問に不思議そうな顔で、


『笹本くんとは、もっと前でバイバイだけど?』


って言った。


じゃあ、笹本先輩と吉野先輩って、本当に部活仲間っていうだけの間柄なの?

でも、あの信頼感は?


あれ?

だけど、あたしはおととい誘われたよね?


あれ?


連絡先も、奈々はもらわなかった?


いや!

それは、奈々が悩んでなかったからだよ!


うん、そうだよ。


吉野先輩は家が遠いから、帰りに誘われたりしなかった。

お兄ちゃんだってそうしてるし。

しかも、誘われたって言ったって、単にコンビニでアイス食べるだけの話。

部活帰りに、友達同士で普通にやるよね?


連絡先をくれたのは、たまたま、あたしがぼんやりしてるのに気付いたから。


奈々にあんなこと言われたからって、余計なこと考えないようにしなくちゃ!

あくまでも、あたしの役目は、笹本先輩を吉野先輩から引き離すことなんだから!









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