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『吉野先輩を守る会』  作者: 虹色
第四章 茜
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吉野先輩は人気者?(6)



奈々と笹本先輩を見送った交差点で、吉野先輩が楽しそうにあたしを見た。


「ねえ、茜ちゃん。そこのコンビニで何か食べて帰らない?」


「いいんですか? 先輩、おうちが遠いのに。」


「大丈夫。今日は早く終わったから。」


吉野先輩の楽しそうな様子にあたしもウキウキしてきた。

さっきまでの心配事も消えてしまう。


そう。

吉野先輩には後ろめたいことなんて何もないんだ。

そして、笹本先輩にも。



コンビニの入り口前に自転車を停めて中へ。


「今は肉まんの季節じゃないよね・・・。アイスかな?」


楽しそうにあたしに話しかけながら、アイスの冷凍庫へ進む先輩。本当に楽しそう。


「先輩、よく帰りに寄るんですか?」


「ううん。実は、高校に入ってからまだ3回目。」


3回目?

今まで2度しか、こういうことをしたことがなかったの?

ずいぶん真面目な高校生活・・・。


『よかったらアイスでも食べて行く?』


おとといの笹本先輩の声がよみがえる。

まさか、吉野先輩が一緒に来たのって、


「もしかして笹本先輩と一緒とか・・・?」


「笹本くん? 笹本くんとは、もっと前でバイバイだけど?」


吉野先輩、不思議そうな顔。

なんか・・・ほっとした。


「そっ、そうですよね! ってことは誰と・・・?」


「え? あれ? 訊くの? あの、えっと・・・。」


しまった!

この反応は。


「・・・・・藤野くん、です。」


聞こえないくらいの声。


「すみません! 余計なこと訊いちゃって!」


思いっきり頭を下げる。

それに、疑っちゃって・・・。


いいんだよ、と慌てる先輩。

本当にごめんなさい!

でも・・・お兄ちゃんとは肉まんだったんですね。



2人ともソフトクリーム型のアイスを選んで外に出る。

お店の横のベンチには先客がいて、あたしたちは自分たちの自転車の荷台に腰かけた。

道路から丸見え!

でも、そんなことも笑って済ませるのが高校生ってことで。


「部活の前に響希が来てね。」


今日の部活の様子を笑ったあと、吉野先輩が話し始める。


「大慌てで教室まで走り込んで来て、いきなり『ごめん!』って言うからびっくりしちゃった。理由を訊いたら、自分のせいで天文部に興味半分の生徒が集まってるって言って、落ち込んじゃっててね。なぐさめるのが大変だったよ。」


早瀬にもそんなところがあるのか・・・。


「響希をなぐさめながら、まーちゃんにも昨日までの様子を訊いて、どうしたらいいか相談したの。結局、一気にあいさつしちゃうことしか思い付かなかったんだけどね。」


あいさつのときのことを思い出したのか、吉野先輩がくすくすと笑う。


「笹本くんに相談してみたら、じゃあ、みんなが揃ったころに来ればいいよって言ってくれたから、そうしたの。」


みんな笹本先輩に相談するんだな・・・。


「響希が帰ったあと、まーちゃんが『響希があんなに落ち込んだところ見たの、久しぶりだ。』って言って大笑いしちゃって。いつも生意気なことばっかり言ってるからね。」


吉野先輩はやさしい顔をしてる。

早瀬のことを考えているのかな。

弟みたいってことは、かわいがって、心配するってことなんだ。


・・・お兄ちゃんがあたしをそう思ってるかどうかは疑問だけど。


そうだ!


「あの、三浦さんたちのことは、あたしのせいなんです。すみません。」


「え?」


「早瀬、くんが先輩のことを話したのは男子だけで、三浦さんたちは、あたしが先輩のことを自慢したせいで集まって来ちゃって。」


あたしの話に吉野先輩がくくっと笑った。


「自慢って、何を材料にしたのかわからないけど、どうもありがとう。大丈夫だよ。新しい雰囲気にもだんだん慣れると思うし、みんなも落ち着いてくるだろうから。それにね、」


先輩はくすくす笑い続けながら言う。


「女子が増えたら、合宿のきもだめしが安心してできるようになるもんね。」


合宿のきもだめし・・・?

ああ!

長谷川先輩が教えてくれた、あれか!

去年、うちのお兄ちゃんに叱られたっていう。


「1年の男の子たちには、絶対に言っちゃダメだからね。」


吉野先輩が念を押す。


なるほどね。

合宿が楽しみ!!





「あれ? ぴいちゃん?」


コンビニの前に自転車を停めた学生服姿の2人。

お兄ちゃんじゃない。

テニスラケットが自転車のかごに入っている。


「あ、東くん。」


「あれ? 俺のことは忘れちゃった?」


吉野先輩が一人の名前しか呼ばなかったのをからかうように、もう一人が言う。

2人ともよく日焼けしてて、さわやかな感じの人。


「・・・と、内田くん、です。」


吉野先輩、笑顔だけど、ちょっと緊張してる?

なんとなく困った様子。

大丈夫かな?


「茜ちゃん、同じクラスの東くんと、どこかのクラスの内田くん。2人とも藤野くんのお友達だよ。」


へえ。

お兄ちゃんの知り合いか。

でも、「どこかのクラス」って・・・吉野先輩、適当過ぎない?


「茜ちゃん? 3年じゃないよね?」


内田先輩が吉野先輩に問いかける。


「うん。1年生の藤野茜ちゃん。藤野くんの妹さんなの。」


先輩、ちょっと得意気?

あたしが吉野先輩に自慢されるって、なんとなく変な感じがするけど。


「藤野の妹?! こんなにかわいいのに?!」


かわいいだって!

男の人に言われたら、お世辞でも嬉しいな!


「ぴいちゃんがこんなところにいるの、珍しいよね?」


と、東先輩。

さっきから「ぴいちゃん」って呼んでる。


「今日は部活が早く終わったし、茜ちゃんが一緒にいるから。」


「じゃあ、ぴいちゃん、今度、うちの部が早く終わったら一緒にアイス食べようよ。」


あれ?

内田先輩も「ぴいちゃん」なの?


吉野先輩がくすくす笑いながら答える。


「あたしはバイトであんまり部活は出られないの。今日は特別。それに、運動部が早く終わることなんてないでしょう?」


やんわりとお断りか。


「じゃあ、せっかく特別な日に会ったんだから、たくさん話そうっと!」


「そうだよな。教室じゃ、藤野が見張ってるから。」


「え? あの。」


吉野先輩の困惑をよそに、2人の先輩は次々と話題を持ち出す。

2人とも明るくて楽しい人で、あたしにも気軽に話しかけてくれる。

吉野先輩は笑顔で聞いてはいるけど、タイミング良く笑ったり、「うん。」とか「そうなの?」とか言うだけで、自分からは話さない。

礼儀正しく話を合わせてるだけ。

少し緊張してるみたいだし。


大丈夫かな・・・?


「あれ? ぴいちゃん?」


また?!

男の人だよね?

これで3人目だよ?!


「あ! 岡田くん!」


あ。

吉野先輩、ほっとした顔してる?

・・・野球部の先輩だ。


「吉野? あれ? 茜もか?」


お兄ちゃんも?

よかった!


「残念。本命登場か。」


「東くん、内田くん、ありがとう。またね。行こう、茜ちゃん。」


「は、はい。失礼します。」


2人の先輩に頭を下げて、急いで吉野先輩と一緒に自転車を出す。


「じゃあねー♪」


先輩たちはあたしたちの態度に動じることなく、機嫌良く手を振っている。

めげない人たち・・・。


「よかった、2人が通りかかってくれて。帰るって言うタイミングが見つからなくて。」


お兄ちゃんたちに近付くと、吉野先輩が小声で言った。


「あの2人相手なら、気を遣わないでビシッと言っても平気だぞ。」


「岡田くんなら言えるかもしれないけど・・・。」


「ぴいちゃんの苦手なタイプだな、あいつらは。」


やっぱり「ぴいちゃん」だ。


「誰?」


自転車で走りだしたあと、大きな先輩・・・岡田先輩? があたしに向かって訊く。


「ええと、藤野茜です。あの、」


「うちの妹。」


お兄ちゃんが横から付け加える。


「藤野の妹?! うちの生徒?! そんなの初めて聞いたぞ!」


驚いた声も大きいな。


「そうだっけ?」


「ぴいちゃんも知り合いか?」


「部活が一緒なの。」


吉野先輩、さっきよりずっとリラックスしてる。

岡田先輩は、吉野先輩にとって安心できる相手なんだ。


「藤野。今日は俺がぴいちゃんを送って行く! 久しぶりなんだから、いいだろ?」


え?

送って行くって?

久しぶりって?


「だめ。行くのはいいけど、俺も一緒。」


「お前、妹を連れて帰れよ。」


「茜は大丈夫。」


「いや、危ないかもしれないぞ。」


「じゃあ、岡田が送って行けば。」


「藤野と帰る場所が一緒なのに、なんで俺が送るんだよ?」


2人のやりとりがなんとなく笑える。

吉野先輩も笑ってるし。

一応、お兄ちゃんのために、ひとこと言わなくちゃ。


「あの、大丈夫です。空手がありますから。」


「空手?」


「はい。小学生からずっと。」


「空手かあ・・・。これ以上言っても無理か。まあ、いいや。ぴいちゃん、久しぶりに一緒に帰ろうね〜。」


明るい先輩だなあ・・・。


吉野先輩は楽しそう。

お兄ちゃんの前でこういうことを言われても大丈夫な人ってこと?

お兄ちゃんも気にしてないみたいだし。


「岡田くんて、おもしろい人でしょう? ずっとああなんだよ。すごく美人の彼女がいるのに。」


「彼女がいるんですか?」


「うん。あたしと仲良しなの。岡田くんはその前からのお友達なんだけど。」


へえ。

いろんな関係があるんだなあ。

吉野先輩の男のお友達か・・・。




分かれ道のところで3人を振り返ったら、冗談を言い合って、すごく楽しそうだった。


お兄ちゃんと吉野先輩に混ざっても大丈夫な人。

岡田先輩って、ほかの人とは違う存在なんだ。


でも。

岡田先輩、吉野先輩のこと好きみたいだけど・・・。

彼女がいるのにあんなにおおらかに言うなんて、なんか笑っちゃう。

好きっていうか、ファンみたいなもの?


そういえば、内田先輩も東先輩も、そんな感じだったな。

彼氏であるお兄ちゃんが来ても、平気な顔してたし。


吉野先輩って、もしかして3年生のあいだでも人気があるのかな?









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