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『吉野先輩を守る会』  作者: 虹色
第四章 茜
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吉野先輩は人気者?(4)



「こんにちは。」


月曜日の放課後、理科室の戸を開けると、ちょうど出て来ようとしたらしい吉野先輩が目の前に。


「あ、茜ちゃんと奈々ちゃん、いらっしゃい。あたしはちょっと寄っただけなの。またね。」


いつものとおりにこにこと微笑んで、あたしたちに手を振りながら帰って行く。

今日もお兄ちゃんと話す時間がなかったのでは・・・?

先輩に「さよなら。」と頭を下げて、理科室に入ると・・・笹本先輩が一人。

吉野先輩と二人きりだった?


「こんにちは。」


「やあ。いつも仲良しだね。」


あたしたちにやさしい笑顔を向けてそう言うと、テーブルに広げてあった紙を片付け始めた。


「どうしたんですか?」


「うん。ぴいちゃんが、先週の記録を間違えたような気がするって言うから、一緒に調べてたんだよ。大丈夫だったんだけどね。」


「長谷川先輩は・・・?」


「日直ですぐには来られないって。」


そう言ったあと、笹本先輩は顔を上げずにちょっと笑った。

・・・なに?


「今日は先週の子たち、来るのかなあ。」


「三浦さんたちですか?」


「うん。どうやらぴいちゃんに会いたかったらしいね?」


楽しげな顔をして笹本先輩が言う。


「そうなんです・・・。」


あたしと早瀬の言葉が原因で・・・とは、申し訳なくて言えない。


「あのウワサのせいかな?」


「ウワサ? 笹本先輩も聞いたんですか?」


「聞いたよ。ぴいちゃんには1年生の許婚がいるらしいって。」


あらら。

3年生にはそんなふうに広まってるんだ。

どっちも、自分たちに関係が深い方の名前だけが知れ渡ってるってことか。


「ぴいちゃんのことを知ってる生徒は、そんなウワサが流れてきても信じないと思うけど。」


「そうですか?」


「うん。ぴいちゃんが藤野を騙してるとは誰も思わないよ。どっちかっていうと、ぴいちゃんにふられたヤツが腹いせに流したって思う生徒が多いんじゃないかな。」


なるほどね。

本人を見てれば、本当のことは自然とわかるってことか。

・・・ちょっと理由は違うけど。


「先輩。メガネが。」


奈々が首をかしげながら言う。


「ああ、気が付いた?」


「はい。この前は黒いフレームのでしたよね?」


あたしも先輩のメガネを見る。

そういえば、今日は透き通った紺色だ。

これも似合うね・・・。


「そんなに見られたら恥ずかしいな。」


そう言って照れたように笑う先輩・・・なんとなくかわいい。


「4つ持ってるんだよ。あとは透明のと琥珀色の。」


「おしゃれですねえ。」


「メガネだけちょっとね。服は適当だけど。」


「こんにちはー!」


ドヤドヤと入り口に足音がして、三浦さんたち5人が元気にやって来た。その後ろから2年の先輩たちも。

2年の先輩たち、なんとなく嬉しそう。

女子が増えるとやっぱりにぎやかで、華やかな感じになるもんね。


「あーちゃん、奈々ちゃん、元気?」


そう言いながら、隣に来る三浦さん。


「三浦さん、今日も? 吉野先輩は水曜日って・・・。」


小声で尋ねると、三浦さんがくすくす笑いながら小声で答える。


「いいの。長谷川先輩も凛々しくてかっこいいから。」


そうなのか。


「ねえ、あたしのことは 『ミュウ』って呼んでくれる? 『三浦さん』じゃ、長いから。」


「あ、ああ、うん、わかった。あの・・・、入部するの?」


「うん。そのつもり。」


「5人全員?」


「そう。みんな、ここの部に気に入ったキャラがいるって。」


「キャラ?」


「あたしたちね、小説仲間なの。」


「小説・・・?」


「小説って言ってもオタク系のなんだけど。ほら、個性的なキャラが決め手の。」


「え?! か、書くの?!」


「ううん。あたしたちは読むだけ。で、『あの人、いいよねー!』とか話して楽しむわけ!」


「で・・・、この部にはそういうキャラの本物が・・・?」


「まあ、小説の中ほどの人はいるわけないけど、モデルとしていい感じだと想像のし甲斐があるっていうか・・・。」


想像・・・って、どんな?

あたしの理解の範囲を超えている・・・。

奈々も目を丸くしているし。


ふと横を見ると、ミュウと一緒に来たうちの2人が、笹本先輩とメガネの話題で盛り上がっている。

あとの2人は川村先輩たちと楽しげに話してる。

ミュウに視線を戻すと、ミュウは「ね?」というようににっこりした。


身近にそんな世界を持つ人が現れるとは思わなかった・・・けど、書かない人たちでよかった!

毎日、どんなことを書かれてるのかとビクビクしながら過ごすのはいやだ。


1年の男子部員がにぎやかな部室に驚いた顔をして入って来る。

その少しあとに、うちのクラスの男子が2人・・・まさか、また?


「相沢くんと中野くんだ。」


奈々も2人に気付いてつぶやく。


笹本先輩が2人に近付いて話しかける。

少しやりとりがあってから、先輩が2人をあたしたちのところに連れて来て言った。


「今日は茜ちゃんたちのやることを見ていてもらうから。」


相沢くんたちは笹本先輩が行ってしまうと、あたしと奈々に尋ねた。


「吉野先輩って、どの人?」


やっぱり・・・。


「今日はいないよ。吉野先輩を見に来ただけなの?」


けっこう迷惑なんだけど。


「そうなんだけど・・・。みんな部員?」


この部屋にいる人のこと?

・・・ミュウたちが入部するってことは、


「そうだよ。」


よく考えたら、ずいぶん雰囲気が変わりそう。


「ふうん・・・。」


「あー、ごめんね、遅くなって・・・。うわ。どうしたの、これ?」


長谷川先輩がやって来て、いつもと違うにぎやかさに驚く。

笹本先輩と話したあと、あたしたちのところに来ると、しみじみと言った。


「まさか、うちの部がこんなに華やかな雰囲気になるとは思わなかったよ・・・。」


そうですよね。

女子の声が響き渡ってますもんね・・・。


視線を前に戻すと、相沢くんと中野くんがぼんやりと長谷川先輩を見ていた。


「見学だって? あたし、副部長の長谷川。よろしくね。」


2人にさわやかに笑いかけて、長谷川先輩はノートを取りに行ってしまった。


「かっこいい・・・。」


相沢くんが長谷川先輩の後ろ姿を見送りながらつぶやく。


「綺麗な人・・・。」


中野くんも同様。

そして、2人で顔を見合わせて。


「「来てよかったな!」」


ああ・・・ホントによかったね。




帰りのグループも人数が増えた。

今日は同じ方向に帰るのは5人。牧村先輩はやっぱり休みで、あたしたちのほかに1年女子が2人いる。ミュウと一緒に入部した里佳と真琴。

笹本先輩は里佳たちと話していたけど、2人は途中で別な方向にわかれて、先輩と奈々とあたし、いつもの3人が残った。


「今日はにぎやかだったねえ。いつもと勝手が違うと疲れるなあ。」


笹本先輩が笑いながら言う。


疲れたのはたぶん、テンションの高い女の子たちにつきまとわれていたせいだと思いますよ。

先輩がひとこと解説するたびに、あんなにきゃあきゃあ喜んだりして・・・。


・・・先輩、にこにこしていたけど、やっぱり女の子に囲まれて嬉しかったのかな?

あたしは、あんなふうに女の子らしくできない。


あれ?

べつに、比べる必要ないよね?


『あーちゃんが頑張ったらいいよ。』


急に、おとといの奈々の言葉がよみがえって、顔が熱くなる。


『たぶん、吉野先輩の次にあーちゃんのこと好きだよ。』


もう!

あんなこといきなり言うから、びっくりしちゃうじゃん!

無責任にもほどがあるよ!


「あーちゃん、また明日ね。」


奈々の声が聞こえて後ろを振り返ると、奈々が道路を渡る信号待ちで止まって手を振っていた。

手を振り返し・・・奈々、一人? ってことは・・・。


「さ、笹本先輩。今日はどちらまで?」


声が裏返りそうになるほど慌てている自分に、ますます慌てる。


「そこのコンビニ。」


ああ、もう少し先にあるところか。

ちょっと安心した。


「お買い物ですか?」


無言でいることが気詰まりな気がして、急いで話題を作る。


「うん、ちょっとね。」


「コンビニがあると便利ですよね。」


何言ってんのあたし?!

便利だから “コンビニエンス” って、そんな当たり前のことを!!

先輩、笑ってるよ・・・。


「よかったらアイスでも食べて行く?」


な?!

誘われた?!

うそ?!


『吉野先輩の次にあーちゃんのこと好きだよ。』


またしても奈々の声が・・・。


「いっ、いえ、夕飯の手伝いがあるので! お疲れさまでしたっ!」


やだ!

もう!

なんで、こんなにドキドキするの〜!!

アイスを一緒に食べるくらい、普通のことなのに!!









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