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『吉野先輩を守る会』  作者: 虹色
第四章 茜
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吉野先輩は人気者?(3)



「あーちゃん。真悟くんと電話で話しちゃった!」


月曜日の朝、学校に行く待ち合わせ場所で会った奈々の一言目がこれ。

本当に嬉しそう。

笑顔が輝いている。


「よかったね。いつ?」


「昨日の夜。おとといのお礼を言って、いろいろ話して、最後に『真悟くん』って呼んでもいいかって訊いたら、『どうぞ。』って!」


「へえ。奈々、頑張ってるね。」


「うん! だって、離れてて会えないんだから、忘れられないようにマメに連絡しないと。」


「話してるあいだ、間違えて『吉野くん』とか言わなかった?」


「気をつけてたよ。でも、夢中になってたから間違えたかもしれない。真悟くんは何も言ってなかったけど。」


「向こうも気付かなかったのかもね。『吉野くん』の方が呼ばれ慣れてるはずだから。」


「そうだね。」


そう言ってにこにこしている奈々。

もう笹本先輩のことはどこかに飛んで行っちゃったんだね・・・。




早瀬が教室に入って来たとき、奈々が小走りに近付いて話しかけた。


離れていたから会話は聞こえなかったけど、土曜日のお礼を言っているらしい。

たしかに奈々から頼んだんだけど・・・あたしは偽名を使われたことがどうしても引っかかってる。


席に着いたとき、早瀬が何か尻尾を出さないかと思って、ひとこと訊いてみようと思った。


「おとといは奈々が急にごめんね。吉・・田、くん、困ってなかった?」


奈々は「真悟くん」って呼んでるけど、あたしはまだ言いにくい。

でも、「吉田」も「吉野」も似ててめんどくさいな。


早瀬は一瞬、言葉に詰まった。

それから。


「うん。女子と知り合いになれて楽しかったみたい。」


そう言って、さっさと前を向いてしまった。

しらじらしい答えだな、ばれてるとも知らないで。


でも・・・。


偽名を使ってまで奈々の頼みに応じたのはどうして? 単なる親切心?

・・・もしかして、向こうも奈々を気に入ってるのかも。

それなら話は簡単じゃん!


次の休み時間にあたしの推測を話すと、奈々は嬉しそうにあたしをバンバン叩いた。・・・痛いよ。


「えー? やだー♪ そうかなあ?!」


「だって、困るなら断ればよかったのに、そうしなかったでしょ? 偽名まで使うなんて、何か目的があるとしか思えないよ。」


「その目的があたし・・・? きゃー! どうしよう?!」


「まあ、あくまでも推測だけどね。」


あんまり都合のよくない言葉は、奈々の耳には入らないらしい。

ほんのりと頬を染めて、うっとりとした表情をしている。

こんなに本気にされちゃうと、違ってたときのことが心配になっちゃう。

言わない方がよかったかな?




「お前って、野球部の藤野先輩の妹だったよな?」


「うん、そうだけど?」


うちのクラスの野球部の近藤くん。

真面目な雰囲気はお兄ちゃんとちょっと似てる。・・・けど、今はなんだか浮かれてる?


「昨日さ、藤野先輩の彼女、見たよ。」


「吉野先輩? うちの学校の生徒だもん、そんなに珍しくはないと思うけど。」


「違うよ。吉野先輩のバイト姿。超カワイイんだぜ!」


「は?」


そういえば、昨日は日曜だ。

バイト姿って・・・?


「昨日、俺たち練習試合でK高に行ったんだけど、そこってその吉野先輩の家の近くらしくてさ。」


ああ。

お兄ちゃん、遠征だって言ってたっけ。


「練習のあと、先輩たちが吉野先輩がバイトしてる店にパンを買いに行くっていうから、俺たち1年も何人かついて行ったんだよ。」


みんな物好きだな。

他人の彼女なのに。


「そしたらさ、その店の制服がまたキュートでさあ! 帽子までついてるんだぜ! それがすっげえ似合ってて・・・ほら!」


そう言いながら見せてくれた携帯の画面には、襟元に赤いリボンのついた紺のワンピースとベレー帽に白いエプロンをかけた吉野先輩の姿。


たしかにかわいい。

ちょっと斜めにかぶってる帽子のせいか、先輩の大きな目が印象的に見える。

だけど。


「どうしたの、この写真?」


あの恥ずかしがり屋の先輩が承知したとは思えない!

こっちを向いてないってことは、きっと先輩は知らなかったんだ。


「へへへ・・・。俺たちで店がごった返してたから、その隙に1年の一人が撮った。」


「隠し撮りなんて、吉野先輩、嫌がると思うよ。」


お兄ちゃんだって!


「わかってるよ。大丈夫。俺たち以外には見せないってことにしてるから。」


「あたしに見せてるじゃん。」


「あれ? そうか。でも、藤野は吉野先輩の身内みたいなものだろ?」


吉野先輩じゃなくて、その彼氏であるお兄ちゃんの身内なんだけど?


「それに、俺たちも吉野先輩にイヤな思いはさせたくないもん。この写真のことは秘密。」


ホントに大丈夫なのかな・・・。


「もしも、その写真をあんたたち以外の人が持ってるのを見たら、お兄ちゃんに言うからね。」


「心配するなって。あー、でも、そのうち吉野先輩と話したいなあ・・・。」


「お店で話したんじゃないの?」


「レジでやりとりしただけだよ。それがさ、ちょっと恥ずかしそうなところがまた可愛くて! こう、目が合うかな、と思うとスッとそらされちゃったり。」


ああ、やっぱりそこか。

あたしだって、恥ずかしがってる先輩はかわいいと思うもんね。


「藤野先輩がすぐそばにいるのに、もう少しで『俺がついてます。』とか言いそうになったよ。」


「危なかったね。」


べつに、お兄ちゃんは笑うだけなんじゃないかな。

・・・一発食らうかもしれないけど。


「あの恥ずかしげな笑顔で『近藤くん』とか呼んでもらえたら、超嬉しいんだけど。」


「そのくらいなら、いつかチャンスがあるかもよ。」


「握手会とかあったら、絶対行く。」


それはあり得ないよ! アイドルじゃないんだから。


だけど、すごいなあ。

こんなに目を輝かせて語れるなんて・・・。


「とにかく。その写真、取り扱いは厳重にしといてよね。」


「わかってるって!」


近藤くん、黙っていられなかったんだ。

よっぽど・・・って、あたしもか。

金曜日に荒木さんに言ったことで、天文部に三浦さんたちが来ちゃったんだもんね。

他人のことなんて言えないや。




でも、吉野先輩に、そんなにいきなりファンができちゃうなんて、ちょっとびっくり。

第一印象はけっこう地味な感じなんだけど。


やっぱりあのバイトの制服のせい?

あと、恥ずかしがり屋ってところ?


ちゃんと見れば、吉野先輩はたしかに可愛いよね。

でも、飛びぬけてっていうわけじゃない。(先輩、ごめんなさい。)

髪は長いけど、ただ伸ばして編んでいるだけ。

制服はきちんと着てる。

おしゃれとはあんまり言えない・・・。


ああ、目は印象的だな。

ぱっちりした二重で、黒目が大きい。

やっぱり目の効果って大きいのかな?


うーん、ちょっとうらやましい。


せっかく高校生になったんだから、あたしもやっぱりいい恋がしたいなあ。

人気の原因が恥ずかしがり屋ってことだと、あたしは人気者にはなれそうもない。


・・・べつに人気者にならなくてもいいんだよね、ちゃんと彼氏が一人できれば。


彼氏か・・・。

どんな?


優しい人がいいな。

あたしが辛いときに支えてくれる人。

前からそう思ってた。


あたしを振ったあの人は、一緒にいると楽しかったけど、支えてくれる人ではなかったな。

2つも年上なのに、あたしがフォローしてばっかりだった。

別れられてよかったかもね!



そういえば、近藤くんたち、本当に大丈夫なのかなあ・・・。


吉野先輩に何かあるようなら、『守る会』会長としては、気にしていた方がいいのかも。

まあ、さっきの様子だと、特に害があるようには見えなかったけどね。









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