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『吉野先輩を守る会』  作者: 虹色
第三章 響希
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俺が陽菜子と結婚する!(2)



『陽菜子ガーディアン』は、俺たちが中学1年のときに考えた、秘密のユニット名だ。


俺たちが中1になったとき、3年生の陽菜子の様子が家とはあまりにも違っていて、俺たちはひどくショックを受けた。

親友の気の強い長谷川先輩の陰に隠れて、笑顔も自信がなさそうで、まるで何かに怯えているようだった。

原因は前の年のいじめだった。


それまで陽菜子とは、普通の姉弟と同じように暮らしてきた。

いたずらもしたし、悪口も言った。けんかもした。

真悟と同じように姉としか思ってなかった。

・・・いや、思ってないと思っていた。


だけど、そのときに違うって気付いた。



俺は陽菜子の笑顔を守りたい。

いつも俺のそばで笑っていてほしい。



気付いたら黙っているのがつらくなって、真悟に打ち明けた。

真悟は初めは驚いたけど、それからずっと、俺のために協力してくれている。


陽菜子を守ること。

それが『陽菜子ガーディアン』の使命。


真悟と俺は暇があれば、陽菜子のクラスに顔を出すようにした。

いじめの相手がわかったときは、陽菜子には内緒で仕返しをした。

陽菜子はだんだん落ち着いてきたけど、もとのように元気に笑っている姿を学校で見ることはできないまま卒業して行った。

それからも、真悟と俺は、いつも陽菜子を守り続けている。





「あれ?」


ハンバーガー屋の2階席で真悟と話している途中、後ろから声がした。振り返ると・・・あいつの妹。

会いたくなかった。こんなところで。


それは向こうも同じらしい。

一瞬、「うわ。」って顔をして、連れの窪田と一緒に俺たちとは反対側の席に向かった。


「誰?」


真悟の方に向き直ると、真悟が彼女たちを見つめたまま尋ねた。


「同じクラスの女子。」


「名前。」


「・・・どっち?」


「背が高い方。」


「え?」


なんか、イヤな予感。


「・・・藤野茜。」


「・・・藤野? 聞き覚えがあるな。・・・それって、もしかして陽菜子と関係ある?」


「大ありだな。あいつの妹だから。」


「あいつって・・・?」


「藤野青。」


「そんなぁ!」


「真悟。どうしたんだ?」


「わからない・・・。」


真悟が呆然とした様子でつぶやく。


「なんだか、すごく話しかけたい気分なんだけど?」


「藤野茜に?」


もしかして・・・、一目惚れってやつ?

本当にあるのか?

今まで、こんなこと一度もなかったのに!


「俺、行ってきていい?」


「え?! 本気か?」


「だって、家は遠いし、学校も違うんだぞ! 今しかチャンスがないじゃないか!」


超積極的!

いきなり過ぎないか?!

ちょっと待て!


「ひ、陽菜子を通せばいくらでもチャンスはあるだろう? あいつ、藤野・・先輩の妹ってだけじゃなくて、陽菜子と同じ天文部だぜ!」


「陽菜子を通すなんて、まどろっこしいじゃないか! だいたい陽菜子にそんなこと頼んだら、あとあとまで冷やかされて大変だぞ!」


「そんな! 俺の立場が。」


「響希? なんでお前が関係あるんだよ? お前も彼女が好きなのか?」


「そうじゃないだろ! 俺が好きなのは陽菜子だよ。あいつは俺のライバルの妹だ!」


「んん・・・?」


「真悟が藤野茜に近付くなら、陽菜子と藤野・・先輩のことを認めなくちゃだめだってことになる。お前は好きな相手の兄貴の邪魔をしたりできないだろう?」


「ああ・・・そうかもな。」


「お前、俺を裏切るのか?!」


こんなふうに脅すなんて、俺、何やってるんだ?

でも、とりあえず、真悟に冷静になってもらわないと。


真悟はまだぼんやりした様子で考え込んでいる。

たぶん、理屈が混乱してるんだ。

俺だってよくわからないまま言ってるんだから、当たり前だ。


「はあ・・・。」


真悟が大きなため息をついた。


「まるで、『ロミオとジュリエット』みたいだ・・・。」


べつに、家同士が仲が悪いわけじゃないだろ?

はっきり言って、その逆だ。


「なあ、響希。お前、間に入ってくれよ。」


「まさか!」


自分が言ってること、わかってるのか?


「じゃあ、やっぱり自分で。」


「いや、ちょっと待て。少し考えるから。」


立ち上がりかけた真悟を引きとめて、頭をフル回転させる。

真悟が藤野茜に近付いたらどうなる?


A 真悟は、陽菜子と藤野・・先輩の邪魔はしなくなる。

B 藤野・・先輩の情報が手に入りやすくなる。

C 俺の情報を藤野茜に流してしまう。


ここで俺が止めたら?


D 俺が藤野茜に真悟を紹介するまで、しつこく言われる。


・・・めんどくせえな!!


よく考えてみると、Aはもともと真悟にはあんまり関係ないか。

陽菜子は真悟に何を言われても気にしないだろうからな。


問題はBとCだ。


「・・・わかった。行ってきてもいいけど、俺のことを藤野茜には絶対に話さないって約束しろ。」


「そうは言っても、響希の友達だって知られてるけど?」


「俺の計画とか、弱味とか。」


「ああ、そういうことか! それはOK! だって親友だぜ? そんなこと・・・。」


調子が良すぎる。

信用できない気がする。


「あと、お前、陽菜子の弟だって名乗るのか?」


「え? その方がチャンスが大きそうだけど?」


「でも、俺と一緒にいるところを見られてるんだぞ? 陽菜子のことをスパイしてると思われるかも。」


それを聞いて、真悟は困った顔をした。


「じゃあ・・・、どうすればいい?」


「偽名でいけ。でなければ、名字は名乗らないとか。」


「謎の男か・・・。怪しいな。絶対、友達になってもらえないだろうな。」


そりゃそうか。


「早瀬くん。」


テーブルをはさんで額を寄せ合って相談していた俺のうしろから、おずおずと声がかかる。

真悟が先に顔をあげて、驚いた表情をした。

俺も振り向くと、すぐ後ろに窪田が立っている。そのうしろに、不機嫌な顔をした藤野茜が。


「早瀬くん、ちょっといい?」


どうやら真悟には聞かれたくない話らしい。

仕方なく、二人のあとについて部屋のすみへ。


「お願い、あの人、紹介して!」


え? こっちもか?!


「紹介って?」


時間稼ぎに訊き返す。


「一目惚れなの! お願い!」


「えーと、窪田が?」


一応、確認。


「うん。」


何度もうなずきながら答える。


どうしたらいいんだ、これは?!

めんどくさくて、頭が痛くなってきた・・・。


ちらりと窪田のうしろに立っている藤野茜を見ると、俺と目が合った瞬間、肩をすくめてみせた。


俺次第ってことか・・・。


だけど、真悟が知り合いたいのは窪田じゃなくて藤野茜だ。


うーーーーん、・・・・しょうがない!

今までたくさん俺に協力してくれた親友の真悟のために、俺も少しは犠牲を払わないと。


「ええと、あいつ、1対1じゃ無理だと思う・・・。」


「そんな。どうして?」


「て、照れ屋なんだ、・・・ものすごく。」


俺の言葉に窪田が考え込む。

うまく行くだろうか?


「じゃあ、あーちゃんと早瀬くんも含めてのお友達ってことなら?」


よし!

うまくいった!


「奈々! あたしは関係ないよ!」


「いいじゃん、ただのお友達なんだから。」


藤野茜の手前、俺も一応、気が進まない顔をしてみせる。

・・・半分は本心だけど。


「ねえ、お願い!」


窪田が手を合わせる。

一目惚れって、すごいな・・・。


「わかった。あいつに訊いてくるから、席で待ってて。」


あくまでも不承不承という態度を崩さずに、真悟のところへ戻る。

真悟は・・・ポーカーフェイスを保っていられなかった。目を輝かせて待っている。

これじゃ、 “ものすごい照れ屋” が出まかせだってすぐにばれてしまう。


「藤野茜じゃない方が、紹介してくれって。」


真悟には正直に話した方が簡単そうだ。


「なんだ!」


あきらかにがっかりした顔。

向こうに見られたら困らないか?


「条件を出した。」


「条件?」


「お前が照れ屋で1対1では無理だって言った。」


真悟が意味がわからないという顔をする。


「向こうは藤野茜も含めての友達ならいいかって訊いてる。」


さらに俺も含めてだけど。


「響希! お前っていいヤツだな!」


そう言って、真悟がいきなり俺の手を握って来た。


「そんなにはっきり嬉しそうにしたら、 “照れ屋” を疑われるぞ。」


「あ、そうか。」


真悟には照れ屋の部分なんて全然ない。

でも、親しくなってしまえば、そんなことはどうにでも言い訳できるだろう。


「じゃあ、OK?」


「もちろん!」


その満面笑顔、どうにかならないか?



真悟を伴って向こうのテーブルに行くと、窪田が勢いよく立ち上がって自己紹介。

藤野茜は座ったまま、あんまり乗り気じゃない様子で。


俺は真悟を紹介しようとして(一応、照れ屋だから。)


「こいつは」


まで行ったところで言葉が詰まった。


・・・吉野真悟って言っても大丈夫か?


すると、真悟が


「吉田真悟です。よろしく。」


と。


偽名で行くんだな。


俺はいつも「真悟」と呼んでるし、真悟は学校も家もここから遠い。

こっちに来ることも少ないから、中学時代の友達からばれる心配もいらないだろう。


俺たちが藤野茜たちの隣のテーブルに移って、少し話をしてから別れた。

話しているあいだ、はしゃいでいたのは窪田と真悟。

俺は真悟のテンションが上がっているのが心配で気が気じゃなかった。

藤野茜は真悟に話しかけられると愛想よく返事をしていたけど、たぶん俺と一緒にいなくちゃいけなくなったことが気に入らないんだ。自分からは、あまり話さなかった。




「直くんのことはまかせろ!」


力強く約束して帰って行く真悟を見送りながら、これからどうなるのかと不安が心をよぎった。









響希編はここまでです。

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