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『吉野先輩を守る会』  作者: 虹色
第二章 藤野 青
16/95

ぴいちゃんの彼氏は俺なんだけど・・・。(8)

携帯がメールの着信を知らせて光る。

ぴいちゃんだ。


そういえば、去年はぴいちゃんから先にメールを送ってくることなんてなかった。

いつも俺が出したメールに返事をくれるだけで。

今でも電話は俺からかけなくちゃダメだけど、たいしたことのない話題でメールをくれるようになったぴいちゃんのことを思うと、彼女にとって自分が特別なんだと思えて幸せな気分になる。

岡田との写真も、まあ、どうでも・・・いや、やっぱり悔しい!



『ふーじーのーくん♪』


なんて可愛いんだろう!

ベッドに仰向けに倒れ込む。

気になっていたことも、みんな消え失せる。


どうしてぴいちゃんは俺がこんなに、どうしようもなくへろへろ・・・いや、メロメロっていうのか? になってしまうような言葉を知ってるんだ?

それとも女の子って、みんなそうなのか? でなければ、俺が特に弱いのか・・・。

目から入る文字が、彼女の声になって聞こえる・・・。


『まだ起きてるかな? 今日は練習試合、お疲れさまでした。それから、将太の相手をしてくれてありがとう。将太から、藤野くんが試合で活躍してとてもかっこよかったって聞きました。私もバイトに入る前にちょっと見に行けばよかったかな・・・なんて、ちらっと思いました。』


そうだよ!

来てくれればよかったのに!


『それから、パン屋さんに寄ってくれてありがとう。でも、お話しできなくて残念。顔を見たのに話せないと、ちょっとさびしいです。藤野くんはそんなことないのかもしれないけど。』


え?

あれ?

これって、俺の電話を待ってるってこと?


ぴいちゃんはたまに、こんな遠回しな表現をする。

“遠慮” とか “気遣い” の裏に、本当のメッセージを隠しているんだ。

彼女は他人に「こうしてほしい」と要求することに慣れていないから。(それとも、恥ずかしくて言葉にできないのか。)

俺は、彼女の言葉の裏に本当の気持ちがちらりと見えると、ますます彼女が愛しくなってしまう。


こんなときは。


大急ぎで残りを読んで(『明日は月曜日。また学校でね! おやすみなさい。』)、彼女の電話番号を選択!



1回、2回、3回・・・。



『はい。吉野です。』


ぴいちゃんの声が笑いを含んでいるのがわかる。

嬉しそう。


ああ・・・、幸せ。


「まだ寝てないよ。」


『うん。よかった。』


「俺たちが店に行ったとき、うるさくなかった?」


『ちょうど、ほかのお客さんがいなかったから大丈夫。そういえば、藤野くんが来る前に直くんが来てたんだけど、見た?』


あれ?

ぴいちゃんの方からその話題を出すの?


「見たよ。将太くんが教えてくれた。」


『俳優さんみたいでしょう? 近所の塾で講師のバイトをするからって、あいさつに来たの。もしかしたら藤野くんが心配してるんじゃないかなー、なんて。』


お見通しか・・・。


『バイトする塾は今まで直くんが通ってた予備校の中学生コースで、第一志望に合格した直くんを見込んで頼まれたらしいよ。見込まれたのは、学力だけじゃなくて見た目もじゃないかと思うけど。直くんみたいな先生がいたら、女子中学生が大量に集まりそうだもんね。フフフ。』


ぴいちゃんの楽しげな説明の声を聞いていたら、自分が心配していたことが馬鹿らしくなってきた。

結局、ぴいちゃんが好きなのは俺だけってこと!


・・・でも、やっぱり気になるよ。


「あのさ・・・、一つだけ訊いてもいい?」


『なあに?』


「あの人に、何て言って断ったのか。」


自分に自信がないから、知りたい。


『あら。』


彼女はきっと、駄々っ子の相手をするような顔をしているんだろうな。


『あのね、勘違いだと思うって言ったの。』


「勘違い?」


『そう。直くんは受験勉強で疲れていて、そういうときに幼馴染みに会ったから、懐かしいのを勘違いしてるんだよって。』


「それだけ? それで納得したの?」


俺のことは?


『え? あと・・・、ええと、あの・・・、好きな人がいるって・・・。そう言ったら、ちゃんと分かって・・・。』


よかったー!


それに、この恥ずかしそうな様子が・・・!

ぴいちゃん、大好きだよ!


『あ、あの、だから藤野くん。ヤキモチ妬かないで。』


あ、立ち直った?

しかも、ヤキモチ妬いてることバレバレだし。


あ!

どうしよう? あのこと・・・。


「ええと、実は、ちょっと・・・。」


『どうしたの?』


質問にきちんと答えてくれたぴいちゃんを思うと、俺が黙っているわけにはいかないな。


「今日、将太くんと・・・。」


将太くんが直くんのことを報告してくれるという取り決めをぴいちゃんに話すと、ぴいちゃんが「なーんだ。」と言って笑った。


『将太がやたらと話しかけてくると思ったの。気にしないで、それは口実なんだから。本当は将太が携帯を使いたいだけなの。』


「携帯?」


『中学生になったから、将太も携帯を買ってもらったの。でね、今、アドレス帳の人数を増やしたり、メールとか電話を使いたくて仕方がないんだよね。』


なるほど。

そういうことか。


『でも、藤野くん、話してくれてありがとう。そういうこと、隠れてされたらやっぱり悲しいもの。』


「うん。」


話してよかった。

自分が彼女を悲しませるなんて、耐えられない。


あ。

そうだ、もう一つあった!


「ぴいちゃん、写真。」


またヤキモチだと思うと、ちょっと情けない声になってしまう。


『写真?』


「岡田と2ショットの。」


『ああ。撮ったよ。里緒に見せるからって頼まれて。見たの?』


「うん。」


『岡田くん、約束破った。里緒以外には見せないって言ったのに。』


ぴいちゃんのちょっと怒った声。

こんなのはきっとポーズに決まってるけど。


「俺と映司は別枠だと思ったんじゃないか?」


『梶山くんにも? 約束違反だよ!』


「約束を破ったらどうするつもりだったのかな?」


『あたしが持ってる写真を他人に見せるの。』


「ぴいちゃんが持ってる写真? 岡田の?」


そう尋ねると、ぴいちゃんが吹き出した。

ちょっとのあいだ、笑って話せなくなる。


『ご、ごめんね。あのね、岡田くんだけの写真じゃないの。藤野くんも写ってる写真。あははは!』


まさか・・・あれか?


『あのね、去年の文化祭で撮ったやつ。藤野くんと岡田くんのラブラブ2ショット! あはは!』


やっぱり!

岡田と俺が仲良く居眠りしてる写真だ。

そこにぴいちゃんが「ラブラブ〜」と文字を入れて。


「ダメだよ! 絶対!」


いくら岡田が約束を破ったからって、自分の彼氏のそういう写真を、ぴいちゃんは誰に見せるつもりなんだ?!


・・・あ!

岡田のヤツ、ぴいちゃんがそんなことしないって最初からわかってたな!

俺と一緒に写ってる写真じゃ・・・いや。

ぴいちゃんならやるかもしれない。

面白いことが好きだから。


・・・ちがう!


俺はこんなことを問題にしたいんじゃなくて。


「俺はぴいちゃんと一緒に写ってる写真はないけど?!」


そう!

そこが問題なんだよ!


『え? あるじゃない。』


「あったっけ?」


『文化祭のとき、クラスの廊下でなっちゃんに撮ってもらった・・・。』


「それは、岡田も一緒に写ってる写真だろ?」


『藤野くんも一緒に・・・ああ、あたしたち二人だけでってこと?』


「当たり前だよ。集合写真じゃなくて。」


『そうだね。じゃあ、そのうちね。』


「そのうちって・・・?」


『だって、今じゃ撮れないし。』


またとぼけたことを。


『プッ・・・。もし今、藤野くんがそっちで自分の写真を撮って、そこにあたしが写ってたら恐いよねー! くくくく・・・!』


ぴいちゃんは笑ってるけど、本当に恐いな。

ちょっと寒気が・・・。

でも、ぴいちゃんなら・・・、やっぱり恐いや。


「もういいよ、そのうちで。」


いつになるかわからないな・・・。


『あ、そうだ。』


「何?」


『あのね、藤野くんの野球やってるところの写真がいいな。』


「え?」


ちょっとおねだりの口調?

めったにないことだ。

ぴいちゃんの姿が目に浮かぶ。

たぶん、首をちょっと傾げて・・・かわいい!


『去年、真っ白いユニフォーム来てるところ見たけど、制服より似合ってたよ。』


ああ、もう!

そんなこと、さらっと言ってくれるなんて嬉しいよ!

だけどね!


「白いのは練習着だから、できれば正式なユニフォームが似合うって言ってほしいな。」


『あ、そうなの? でも、白いのでもいいよ。』


なんか、適当?


「野球をやってるところは自分で撮れないけど?」


『ああ! じゃあ、あたしがストーカーみたいに・・・。』


できるわけないよね? ぴいちゃんの性格じゃ。

本当に冗談ばっかり言うんだから。

教室にいるときとは大違いだ。


「いつでもどうぞ。・・・じゃあ、また明日。」


『うん。また明日ね。おやすみなさい。』


「おやすみ。ぴいちゃん。」




お気に入りの「おやすみ」のあいさつの余韻に浸りながら携帯のフォルダを開く。


ぴいちゃんと二人の写真。

実は1枚だけ持っている。


去年、体育祭の応援合戦のリハーサルで、女装する俺にぴいちゃんが浴衣を着せているところ。

離れたところで見ていた先輩が、俺たちが知らないあいだにおもしろがって撮った。


緊張して立っている俺に浴衣を整えるための紐を巻こうと、俺の体に腕をまわしているぴいちゃん。

まるで抱きついているような。

この写真を見ると、あのときのどうにも恥ずかしい気持ちがよみがえって、今でも胸がドキドキしてしまう。


ぴいちゃんには言ってない。

俺だけのヒミツ。









藤野くんの章はここでいったん終了です。

次は響希編です。

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