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『吉野先輩を守る会』  作者: 虹色
第二章 藤野 青
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ぴいちゃんの彼氏は俺なんだけど・・・。(7)



「直くん、髪型変えたんだね。一瞬わからなかった。」


ぴいちゃんのバイト先の店から出て来た直くんに、将太くんが話しかけている。


「そう。大学生になったから、ちょっとね。ヒナちゃんに会いに来たのか?」


大人っぽくて落ち着いた直くんは、声までが俺たちとは違うような気がする。

それに、 “ヒナちゃん” っていうのは、もしかして。


「うん、まあね。直くんは?」


「俺、今度、この先の塾でバイトすることになったんだよ。今日は研修。そうだ! 中学生対象の塾だから、将太もそのうち来れば?」


「うーん、考えとく。」


「ははは! 頼むよ。じゃあな。」


直くんは去り際もさわやかだ・・・。


「将太くん、あの人、知ってるのか?」


後藤が将太くんに訊いている。


「うん。ずっと前に近所に住んでた人で、この前の冬に何年振りかで会ったんだよ。俺はあんまり覚えてなかったけど、兄ちゃんと姉ちゃんは仲良しだったらしいよ。お正月に遊びに来たし。」


「へえ・・・。藤野。あの人、山口先輩だ。うちの学校の有名人だよ。もう卒業したけど。」


きっと、学校中の注目の的だったんだろうな・・・。


「バスケ部の部長であの外見だから、女子には大人気で。でも、先輩はいつも男子の先輩とつるんでて、彼女がいるとは聞いたことなかったな。もしかして、吉野ちゃんがお目当て・・・?」


いや!

彼女は断ったんだ。

だけど・・・?


店の中に目を向けると、すでに岡田たちが中にいた。

ぴいちゃんは、前回よりもずっとリラックスした様子で何か答えて笑ってる。


「あー! 吉野ちゃんが笑いながら話してる! あんなこと、俺たちにはなかったのに!」


「岡田は俺の次に吉野と仲がいいからな。」


あくまでも俺が一番!


でも。

さっきは直くんと一緒に、同じように笑ってた・・・。


K高の部員たちが、ぴいちゃんと話せるチャンスを無駄にするものかと、大急ぎで店に入って行く。

それほど広くない店の中は、あっという間に男子高校生でいっぱい。


「ねえ、藤野くん。もしかして、心配してる?」


ちょんちょんと腕をつつかれて、横を見たら将太くんだった。


「え? 何を?」


「直くんのこと。」


鋭い!

中1なのに!


「い、いや、べつに。」


「そう? それならいいけど。」


いや・・・本当はもう少し詳しくしりたいんだけど?


「・・・将太くんも仲がいいのかな?」


「そうだなあ。俺がっていうか、家族同士が仲がいいんだよね。」


「え? そうなのか?」


「うん。正月に直くんが来たときも、母ちゃんとお祖母ちゃんが呼んだようなものだし、この前は直くんの家族と一緒にお花見に行ったよ。」


ああ。お花見の話は聞いたな。

知り合いの家族と一緒に行ったって。

“直くんの” 家族とは言ってなかったけど・・・。


そういうつながりがあったら、ぴいちゃんがいくら断ったって、顔を合わせるのは仕方ない。

彼女が直くんを断ったことは間違いない。

だけど、相手は?

わざわざこの近所でバイトするっていうのは、やっぱり・・・。



パンを買い終わった何人かが店から出てきて、俺と将太くんが中に入る。

ぴいちゃんが俺に気付いて、微笑みかけてくれた。

その微笑みは本物だ。彼女はウソをつけるような性格じゃないから。

でも・・・いつまで?


ぴいちゃんは、今は俺を好きでいてくれるけど、あんな人が近くにいたら、いつか・・・。


あーあ。

俺って、どうしてこんなに自信がないんだろう?




駅前の公園でパンをワイワイと食べて、腹ごなしに将太くんとキャッチボールをした。

岡田や篠崎やほかにも何人かが、将太くんに得意技を自慢しようとして、みんなに笑われている。

そんななごやかな時間のあいだも、さっき見た光景が頭から離れない。


改札口まで俺たちについて来た将太くんが、別れ際に小声で言った。


「俺、藤野くんに、直くんのこと知らせてあげようか?」


「え?」


いきなり、なんで?


「心配なんだろ? 姉ちゃんのこと。」


「いや。そんなことは・・・。」


「遠慮しなくていいよ。藤野くん、店に行ったあと、元気なかったよ。」


中学生にまでわかっちゃうほど?!


「何かあったら知らせてあげるからさ、携帯のアドレス教えてよ。」


いいんだろうか、こんなことして・・・?


まあいいか。

緊急のときに使えるかも知れないし。


「べつに、無理に探りだしたりしなくていいからな。」


「わかってる。まかせてよ!」


改札口を抜けて振り返ると、将太くんが得意げな顔で携帯電話を振って合図していた。

やっぱり、少し心配かも。




「藤野。これ見て〜。」


電車の中で、岡田が携帯の画面を開いて自慢げに差し出す。

写真?


・・・うそだろ?!


「どうしたんだよ、これ?!」


岡田が、携帯を取り上げようとした俺の手を払いのけながらご機嫌で答える。


「ぴいちゃんに頼んで撮らせてもらった♪」


店の制服姿のぴいちゃんと岡田の2ショット写真。

しかも、ぴいちゃんが笑顔で!

信じられない!!


「なんで?!」


「藤野が店の前でのろのろしてる間にさっさと行って頼んだ。小暮にしか見せないっていう約束で。へっへっへ!」


・・・俺にも見せてるじゃないか。

ぴいちゃんと小暮はたしかに仲良しだけど・・・。


「でも、岡田と一緒に写る必要ないのに!」


しかも笑顔で!


「何言ってんだよ。ぴいちゃん一人だけの写真を俺が持ってる方が怪しいだろ。」


う・・・。

それは、そうかも・・・。

いや!

どっちも怪しくないか?!


「心配するな! 俺以外はみんな断ってやったから!」


「断って “やった” って・・・。」


「俺が撮ってるのを見てほかにも希望者が出たんだけど、『俺は特別だ。』って言って断ってやった。だから心配するな!」


岡田の得意げな様子に、隣で聞いていた映司が吹き出した。


「特別なのは岡田じゃなくて藤野のはずなのに! はははは!」


そうだよ!

ぴいちゃん、どうして?





夜9時ごろ、将太くんからメールが来た。


『報告1.夕飯のとき、姉ちゃんに直くんと何を話したのかきいてみた。大学とかバイトのことだって。』


・・・張り切ってるな。


『報告2.兄ちゃんが響希兄ちゃんと電話しているのを盗聴。作戦がどうとか言ってた。』


盗聴って、つまり単に盗み聞きのことだろうけど、こんな調子で本当に大丈夫なのか?

そのうち見つかって、怒られるんじゃないだろうか・・・。


『俺は藤野くんの味方だよ。藤野くんは学校で響希兄ちゃんの邪魔をするんだよね?』


え? 今のところはまだ様子を見てるところだけど・・・。


『俺は直くんの邪魔をするから、藤野くんと俺で「お守り隊」ってことにしない? 姉ちゃんを危険から守るから “お守り” みたいだよね?』


「プッ!」


可笑しい!

やっぱりまだ中1だよな。

考えることがかわいい。


でも、将太くんが張り切ってエスカレートしないように気をつけないと。


『報告ありがとう。「お守り隊」はおもしろい思い付きだと思う。でも、盗み聞きまではしなくていいよ。そんなことしていたら、真悟くんやお姉さんに、信用してもらえなくなっちゃうから。』


こう返信すると、すぐに返事が返って来た。


『わかった! じゃあ、「お守り隊」結成だね! 次の報告を待っててね!』


本当にわかったのか?

不安だ・・・。




なんだか今日は心配になるようなことが重なった気がする。


直くんの登場。

将太くんの張り切り具合。

それに・・・やっぱり、ぴいちゃんと岡田の写真が!


岡田が小暮とうまくいってるのは知ってる。

一緒にいるところをよく見かけるし、岡田の野球部のバッグには『みーくん』と刺繍の入った手作りのお守りが下がっている。(岡田の下の名前が「瑞貴(みずき)」だから。あのでっかい岡田をそんなかわいい名前で呼ぶのは小暮だけだ。)

ぴいちゃんが岡田に心を許しているのは去年からずっとで、それは俺もわかってる。


だけど!









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