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『吉野先輩を守る会』  作者: 虹色
第一章 茜
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吉野先輩はお兄ちゃんの彼女だよ!(1)

『ぴいちゃん日記』の続編ですが、こちらだけでも楽しんでいただけるように書いたつもりです。前作では学校名を決めていませんでしたが、今回、「県立N高」ということにしました。


「あーちゃん、その髪型、すごく似合うよ。」


4月5日、木曜日。

県立N高の入学式に向かうバスの中で、親友の奈々がほめてくれた。


せっかく高校生になるからイメチェンしようと思って、半年前から伸ばしていた髪を肩にかかるくらいの長さで整えてもらった。

今までよりも大人っぽく見えるように。

身長が168cmあるし、新しい制服 ―― ブレザーもスカートも紺一色、ワイシャツにはリボンもない、地味な制服は中学のよりも落ち着いたデザインだから、鏡でチェックした感じでは満足してる。


今日から高校生!

中学生よりも大人。でも、世間から見たらまだ子ども。

中途半端だけど、だから楽しみ!


「奈々だって、色が白いから紺の制服が似合うじゃん。」


奈々はほっぺがふっくらした、色白でちょっとくせのあるやわらかい髪と明るい茶色の目の、ふんわりした印象の女の子。

でも、性格はけっこう辛口。


「サンキュ。これで笹本先輩が振り向いてくれるといいんだけど。」


奈々は同じ中学出身の先輩にずっと憧れていて、その先輩がいるこの学校を選んだ。

あたしは・・・去年、あたしを振った人を見返してやるため。


小さいころから通っている空手教室の2つ上の先輩。

一年前、約1年付き合った末に、ほかに好きな人ができたと言われた。学校の同級生だって。


もともと向こうから申し込んできたのに!

腹が立って、“絶対に見返してやる!” って思った。

でも、 “どうやって?” って思ったときに、勉強しか思い付かなかった。

だから、その人よりもいい学校ってことで、ここを選んだ。


N高はそこそこレベルの高い学校だから、あたしはこの一年、必死で勉強した。

先生に無謀だと言われ、両親はすべり止めの高校に入学するものだと決めていたようだけど、運が味方してくれたみたい。


中学までは徒歩通学だったから、こうやってバスで学校に行くっていうのも、高校生っぽくていい。

明日からは自転車通学で、それも楽しみ。

帰りに友達とどこかに寄ったりとか。


この学校にはお兄ちゃんが通ってる。

2つ上で、今年は3年生。

あたしが同じ学校に入るのはイヤみたいだったけど、べつに、学校でお兄ちゃんと顔を合わせても、どうってことはないと思う。

でも、お兄ちゃんの彼女とはどうだろう?


バスの窓越しに春の明るい景色がどんどん流れていく。

3年間、楽しく過ごしたいな。




学校に着いて、中庭でクラス分けの名簿をもらう。

奈々とあたし、2人とも1組。

勉強面で不安が大きいあたしとしては、仲良しが同じクラスにいてくれてほっとする。


教室は5階の一番はじっこ。

毎日5階まで階段で上るのはちょっと大変かも。

この学校では1年、2年、3年と、5階から順番に下の階に移っていく。

慣れたころには1階分楽なところに変わるのだ。


奈々と話しながら階段を上る。

今日は2、3年生はいない。

あたしたちの周りはみんな、新しい制服、真っ白な上履きばかり。


教室に着いて、出席番号順に指定された席へ。

あたしは “藤野” だから後半。 窓から2列目の前から2番目。

奈々は “窪田” だから前半。 廊下から2列目の一番後ろ。


先生はいなくて、とりあえず荷物を置こうと自分の席に向かう。

教室にいる人数は全体の半分くらい?

席に着いている人もいるし、何人かでまとまって話している人もいる。

みんな、教室を用心深く見まわしている感じ。


あたしの前の席には男の子が座ってた。

真新しい学生服は黒の色がくっきりしていて、お兄ちゃんが着てるのとは別な服みたいにパリッとしてる。

あたしが椅子を引いた音に気付いて、その男の子が後ろを向いた。



・・・外国の人?

ちょっと彫が深い顔立ち。

襟足が長めの髪は真っ黒で、少しクセがあるのかな?

目も真っ黒に見えるくらい濃い色だ。


女子が騒ぎそう。



「よろしく。藤野茜です。」


一応、あいさつしておかないとね。

同じクラスなんだから。


でも。

その子はにこりともしない・・・っていうか、睨まれてる?


「お前、3年に兄貴がいるか?」


「え?」


急に尋ねられて戸惑う。

お兄ちゃんの知り合いなの?


「いるけど・・・。」


「野球部の?」


「ああ、うん。そう。」


野球関係の知り合い?

昔、少年野球でいっしょだったとか?


「やっぱりそうか。」


そう言って、また一睨みして、その子は前を向いてしまった。

なんか、ヤな感じ。


名簿を見たら、「早瀬響希」? ・・・「ひびき」って読むのかな?

気障な名前!


荷物を置いて、奈々の席に向かう。

奈々と話しているあいだも、さっきの早瀬の態度が気になってしまう。

夜に、お兄ちゃんに訊いてみよう。


入学式の前に、一人ずつ立って自己紹介をした。

全部で35人。

早瀬が立ち上がって後ろを向いたら、クラス中から “ほうっ” とため息がもれた。

やっぱり、誰が見てもかっこいいんだな・・・。

でも、性格は悪そうだよ。




入学式が滞りなく終わり、クラス写真を撮り、教室に戻ってこれからの日程確認、その他もろもろ・・・。

プリントがたくさん配られたけど、それをあたしに回すたびに、早瀬はあたしのことを睨んだ。

なんか、ものすごく腹が立つ!

本当にイヤなヤツ!!


教科書で重くなったカバンを肩に担いで帰りながら、奈々がうらやましそうに言った。


「あーちゃん、早瀬くんの近くでうらやましい! もう話した?」


奈々はかっこいい人が大好き。

あたしもいつもならこういう話に乗るけど、あいつの話はしたくない。

不愉快だ。


「話なんかしない。何度も睨まれた。ものすごく性格悪いんじゃないかな。」


「そうなの? あーちゃん、何かしたんじゃないの?」


「ちがう!! したとすれば、お兄ちゃんだよ!」


お兄ちゃんに文句言ってやる!


「ああ、そういえば、明日の部活紹介って、あーちゃんのお兄さん、出るの?」


そうだった・・・。

お兄ちゃん、部長だから出なくちゃならないって言ってたな。

みんなに家族を見られるのって、やっぱり、なんとなく恥ずかしいかも。


「出るって言ってたよ。あんまりない名前だから、あたしと兄妹だってわかっちゃうよね、きっと・・・。」


「たまにコンビニとかで見かけるけど、高校に入ってからかっこよくなったよね。」


「え?! そう?」


全然気付かなかったけど・・・?


「たしかに背は伸びたけどね。」


高校に入ってから10cm以上かな?

中学のころは、あたしが追いつくんじゃないかと思ったけど、今はたぶん180cm近くありそう。

ママが、制服の丈を直さなくちゃって言っていた。


「そういえば、性格がね、優しくなったっていうか、考え深くなったっていうか・・・落ち着いたっていうか。前は、あたしやママがふざけて言った言葉に怒ってつっかかってきたけど、今は “また言ってるよ” みたいな感じであきれた顔をするだけなんだよね。」


「へえ。」


「口数が少なくなったのは確かだけど、仲が悪くなったわけじゃなくて、お兄ちゃんに余裕が生まれたみたいな?」


「大人になったってことなのかな? 今日見たクラスの男子とは違うみたいだね。」


「ああ、ほんと、そうだね。」


2人で今日の出来事を思い出してちょっと笑う。


あたしたちのクラスでは、今日、さっそくケンカしそうになった男子がいた。

初日でなめられちゃいけないと思ったのか、どっちも退かないで友達に止められてた。

そういうのって、女子から見るとちょっと子どもっぽい感じがする。


あたしは、今のお兄ちゃんはけっこう好きだ。

でも、頭は相変わらずの野球部カットだし、かっこいいかどうかは・・・?



お兄ちゃんには、最近できた彼女がいる。

ちゃんと話してはくれないけど、先月、近所で目撃されている。

学校帰りに一緒にいるところを駅やコンビニで見たって、何人かの友達に言われた。(地元の学校に通うっていうのはそういうことだ。)

そのあと、彼女の家に夕食に呼ばれてた。だけど、うちには恥ずかしがって連れてこない。


あたしは彼女が「ぴいちゃん」って呼ばれてるのは知ってる。お兄ちゃんが電話で話してるのが聞こえちゃったから。

本当の名前は知らない。

髪が長いってことは、友達から聞いた。

どんな人だろう?



「ねえ、明日は笹本先輩も見られるよね?!」


「え? ああ、そうだったね。」


奈々は笹本先輩が天文部だと知ってから、入学したら天文部に入ると決めている。

笹本先輩は、今は部長をやっているらしい。

あたしも一緒に入部するつもり。奈々と一緒にいると、何をやっても楽しいから。


「明日からすぐに見学に行く?」


「あたりまえだよ! 一日でも早く、笹本先輩に会わなくちゃ!」


「ねえ、でも、もう彼女がいるかもよ?」


「それでもいいの。近くで見ていられれば。」


「ふうん。」


奈々には言ってないけど、笹本先輩とは何度か話したことがある。

あたしが中1のころ、同じ塾に通ってたし、先輩とお兄ちゃんが同じクラスだったから。

勉強がよくできて、でも、それを鼻にかけない、やさしい先輩だった。

先輩が高校生になってからは、文化祭でちらっと見かけただけだけど。


あたしのこと、覚えているかな?








今回も、「楽しく、HAPPYに。」を目指してがんばります!

どうぞよろしくお願いします。

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