第8話:感情の複線ドリフト、発生
昼休み。
のぞみは、今日も教室の隅で時刻表を広げていた。
「今日の感情ダイヤは、複線ドリフト中。
並走区間、延伸中ね」
(迂闊の“好きかも駅”はまだ建設中。
でも転校生の“鉄道直通ホーム”は、すでに営業開始してる気がする……。
こんなに早く“直通”されるなんて、想定外すぎる)
そこへ、転校生の北斗がやってくる。
「速杉さん、よかったらこれ……僕が作った“関東圏・感情に効くローカル線MAP”です」
「えっ……これ、手書き!?しかも、乗り鉄目線で感情分類されてる……!」
(やばい……この人、私の鉄道脳に完全に乗り入れてきてる……!
理解されるって、こんなに胸が温かくなるんだっけ……?)
「ちなみに、“恋の予感”は八高線、“こじらせ期”は久留里線、“感情の迷子”は鶴見線で表現してます」
「……その分類、わかりすぎる自分が怖い……」
「僕、のぞみさんのダイヤは“時刻表じゃなくて詩”だと思ってます」
「……ちょ、待って! 詩って……それで私のダイヤに韻踏んでくるの困るって!?
私の感情の動力源は電気かディーゼルの二択なのよ!
五・七・五じゃ動かないから!
あ、それは俳句か。
ていうか、今、心拍数が短歌のビート刻んでるんだけど……!」
迂闊が、のぞみの後ろから顔を出す。
「なあ、のぞみ。俺の“好きかも駅”、まだ工事中だけどさ……。
北斗っつったっけ……あの転校生?
あいつも勝手に特急停めてね?」
「ち、違う!あれは……臨時停車!しかも、乗り換え案内に載ってない非公式ルート!」
「じゃあ、俺も臨時列車出すわ。“のぞみ急行・手つなぎ号”」
「やめて!その列車、車両点検中だから!」
迂闊の声が、いつもより少しだけ低く聞こえた。
(焦り……なのかな?)
放課後。
のぞみは、転校生と一緒に鉄道研究会の部室へ向かっていた。
迂闊は、なぜか後ろからついてきている。
「おい、のぞみ。俺も鉄道研究会、入っていい?」
「えっ!?迂闊くん、鉄道興味ないでしょ?」
「いや、のぞみに興味あるから。
俺、時刻表は紙の無駄って思ってたけど……、
お前の時刻表なら、読んでみたいって思った」
(え、え〜!? やばい……迂闊、天然で複線ドリフトしてくる……!
こいつの“まっすぐさ”は、時刻表じゃ測れない)
そこへ……転校生がやってきて言う。
「じゃあ、僕が“のぞみダイヤ”の特集号、作りますよ。
“こじらせ鉄道女子の感情運行史”ってタイトルで」
「やめて!それ、誤乗誘発するから!」
帰り道。
のぞみは、迂闊と転校生、ふたりに挟まれるかたちで歩いていた。
「俺の路線、のぞみの隣を並走するように設計してるからな」
「並走って……あんたの路線、私の感情に無断で接続してるでしょ。
しかも、勝手に車内アナウンス流してるし……“次は好きかも駅〜”とか……!」
「え、マジで流れてた?
俺、ただの独り言のつもりだったんだけど……。
でもさ、のぞみの感情って、時刻表に載ってないからさ。
俺、車内アナウンスで探すしかないんだよ」
その言葉が、なぜか胸の奥に優しく刺さった。
感情の複線ドリフトは、並走中。
でも、どちらの線路も、まだ終着駅は見えていない。
(私の感情……どっちの路線に乗るべきなのかな……?
でも、まだ定期券は発行してない。今は……並走でいい。
どちらの景色も、少しだけ惹かれてしまう自分がいる)
【今週の鉄道豆知識】路線にも性格がある?
今回のお話にあった「恋の予感」「こじらせ期」「感情の迷子」、なんだか詩的だよね。
作者的には、こんなイメージで路線を選んでみました。
八高線: 都心に近いのに単線の区間も多く、どこか懐かしい雰囲気。この先どうなるんだろう?って、新しい恋の始まりに似てるかな、と。
久留里線: 千葉のローカル線で、終点に近づくにつれて本数が激減。ちょっと面倒だけど、それがたまらない……そんな「こじらせ期」の複雑な感情を表現してみたよ。
鶴見線: 工場地帯を走るこの路線は、終点の駅が複数あって、まるで自分の感情がどこに向かうかわからない、「感情の迷子」みたいに感じませんか?
こうやって、路線に性格をつけてみると、鉄道の旅ももっと楽しくなるかも!
ではまた次回!
次回予告
次回、「感情の信号、点滅中」
のぞみ、迂闊からの“天然爆弾”に心拍数急上昇!?
転校生の“鉄道的告白”が迫る中、感情の信号は赤か青か——!




