表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/70

第67話:拳の距離

「……俺がここにいる意味、言わなくてもわかるよな」


胸が締めつけられる。


陸は一歩近づき、低く続けた。


「のぞみ、泣いてたらしいぞ。

俺の彼女から聞いたんだよ。

お前らが小田原で話した後、泣いて電話してきたって」


心臓が跳ねた。


陸は歩み寄り、拳を握った。

その拳が俺の頬の横まで振り上がる。


俺は避けなかった。

避ける資格なんて、ない。


風を切る音。

拳が迫る。


──が、頬に触れる寸前で止まった。


陸の拳は震えていた。

怒りか、失望か、それとも──。


「……殴らねぇよ」


押し殺した声が落ちる。


「性根の腐った今のお前なんて、殴る価値もねえ」


心臓が殴られたみたいに痛んだ。


陸は拳を下ろし、俺の胸を指で軽く押した。


「『また旅か。逃げてるんじゃないだろうな』──

あのライン送った時点で、全部知ってたよ。

のぞみが泣いてた理由も、

お前が逃げた理由も、

全部、俺の彼女から聞いた」


俺は何も言えなかった。


陸は背を向け、歩き出す。


「……逃げんなよ、迂闊。

次のぞみを悲しませたら、今度こそお前を全力でボコす」


その背中は、昔と同じで、

でもどこか大人になっていた。


数歩進んだところで、陸は振り返らずに言った。


「行ってやれよ、迂闊」


喉が詰まる。


「ああ……陸」


陸が立ち去った後、

俺は全力で、のぞみの小さな背中を探した。




次回予告

次回、「大幅遅延、そのあとの始発駅」

【次回 第1部 完結】

「お疲れ様でした、余裕院さん」

その冷たい言葉に、迂闊は自分自身の「逃げ癖」を突きつけられる。

失った信頼、傷つけた心。取り戻すためのタイムリミットは、もうすぐそこまで迫っていた。

夜の横浜で叫んだ、なりふり構わぬ告白。

敬語の壁が壊れたその先に、のぞみが見せた表情とは──。

二人の旅路に刻まれる、忘れられない夜。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ