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第64話:夜の車窓、陸からの警告

※迂闊視点


「……んー、んんんっ!」

ひよりが、のぞみから分けてもらった鯛めしを頬張って、幸せそうに頬を押さえている。


北斗はそれを見て「ひよりちゃん、食べてる時だけは静かですね」と笑い、るいは黙々とかまぼこを咀嚼していた。


賑やかだった。

ガタンゴトンと小気味よいリズムを刻む列車の音に、友人たちの笑い声が混ざる。


本来なら、俺もその輪の中心にいたはずだった。

だが、俺の視線は、窓の外を流れる真っ暗な景色に吸い寄せられていた。


時折、街灯の光が矢のように通り過ぎ、ガラスに映る自分の情けない顔を照らし出す。


(余裕院さん、か……)

のぞみは今、ひよりと鉄道の路線の話で盛り上がっている。

彼女が楽しそうに喋れば喋るほど、俺という存在がこの空間から削り取られていくような感覚に陥る。

自業自得だ。

あの時、俺が「恋人だ」と、たった一言認めていれば。

恥ずかしさに負けて、彼女の勇気を「お前らしくない」なんて言葉で踏みにじらなければ。


その時、ポケットの中でスマホが短く、鋭く震えた。

のぞみからの連絡であってほしい。そんな淡い期待を抱きながら画面を開く。

だが、そこに表示された名前は、中学時代からの腐れ縁——山陽 陸だった。


『お前、また旅か。逃げてるんじゃないだろうな』


心臓の鼓動が、一気に速くなった。

陸の言葉は、いつも鋭利な刃物のように、俺が一番隠しておきたい場所を正確に突いてくる。


『逃げてねーよ』

震える指でそう返そうとして、動きが止まった。


……いや、逃げている。

のぞみの想いからも。

そして、自分が抱いている、到底「定刻通り」には進めないような大きな夢からも。


窓の外。闇の向こうに、中学時代の校庭の風景が重なって見えた。

あの日も、俺と陸は殴り合っていた。

正論という名の武器で、互いの痛みを矯正しようとしていた。

陸との約束。

「のぞみには言わない」と決めた、あの誓い。


「……っ」

不意に、車内の明かりが眩しく感じられた。

楽しげなひよりたちの声が遠のき、レールの音が重い心音へと変わっていく。


——逃げるな。

陸の声が、耳の奥で再生される。

俺はスマホを握りしめたまま、再び夜の闇へと意識を沈めていった。


次回予告

次回、第65話「痛みによる矯正」

中学時代。放課後の屋上。

「お前、今のあいつの言い草、何とも思わねーのかよ!」

陸の胸ぐらを掴んだ俺の拳。

それは、友情の証か、それとも自分勝手な正義か。

二人の夢と、隠し通すと決めた「誓約」の原点が明かされる──。


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