第59話:淡い期待と隠せない動揺
前回のあらすじ
連泊二日目の午後、澪・きらら・さつきの三人はホテルの和室で恒例の“はずかしい体験暴露大会”を開催。
年賀LINIの誤字、父親サンタの奇行、運転中の勘違い事件など、笑いが絶えない女子会の中で、澪はふと「クリスマスの予定」に話題を向けられる。
「誰かに取られちゃうかもよ?」という言葉に背中を押され、澪は勇気を出して、ある人にLINIを送る──。
笑いのあとに訪れる静かな決意。午後の光の中、澪の恋がそっと動き出す。
※迂闊視点
16時10分。
高崎駅を出た高崎線の車内は、かなり遅い昼食タイムのゆるやかな空気に包まれていた。
のぞみが広げた駅弁の包み紙には、鯛めし、釜めし、牛めし──まるで小説の登場人物みたいなラインナップ。
「ねえ、駅弁って人格あると思わない?」
あれから少し元気を取り戻したのぞみが箸を持ったまま、ふいに言った。
「鯛めしは絶対“品のある年上女子”でしょ、
釜めしは“無口な剣士”だね。
牛めしは“筋トレ命の熱血バカ”」
「のぞみ、それ“駅弁小説”にならないか?」
「でしょ!? 旅する弁当たちの群像劇!」
笑いがこぼれる。
車窓の向こうに広がる冬空は、どこまでも穏やかだった。
──そのとき。
ポケットの中でスマホが震えた。
何気なく取り出して画面を見た瞬間、心臓が跳ねた。
澪:
「12月24日、クリスマスイブだけど、午後に少しだけ
友達へのプレゼント選び手伝ってもらえないかな?」
……え?
一瞬、時間が止まったような感覚。
指先がじんわりと熱くなる。
目の前の駅弁が、急に遠く感じた。
澪から──誘われた。
しかも、クリスマスイブに。
「どうしたの?」
のぞみの声が、現実に引き戻す。
「いや、なんでもない」
そう言ってスマホを伏せたけれど、手のひらが汗ばんでいた。
──どうする。
──どうすればいい。
澪の誘いは、嬉しい。
正直、心が跳ねた。
でも、目の前にはのぞみがいる。
イブにはのぞみを誘おうと考えていた。
なのに──先に澪の誘いを受けてしまった。
しかも、のぞみには澪との関係を話していない。
「午後の予定は、もう埋まってる」
そう思い込もうとした。
そうしないと、心がぐちゃぐちゃになりそうだった。
でも──
「……ねえ、迂闊」
のぞみが、少しだけ声を低くした。
「ん?」
「さっきから、ちょっと挙動不審じゃない?」
「え、そうか?」
「スマホ見ながら、ニヤニヤしてキモいし。それになんか……動揺してる感じ」
ドキッとした。
顔に出てた?
いや、出てないはず──出てないと思いたい。
「いやいや、駅弁の人格設定が深すぎて、ちょっと考え込んでただけ」
笑ってごまかす。
でも、声が少しだけ裏返った。
のぞみは笑った。
けれど、目が全然笑ってない。
──バレたかもしれない。
いや、まだギリ大丈夫だ。
でも、これ以上は……。
スマホの画面をもう一度見た。
澪のメッセージが、そこに静かに浮かんでいた。
「午後に少しだけ」──その言葉が、やけに優しくて、
でも、やけに重たく感じた。
車内は、駅弁の香りと笑い声で満ちていた。
でも、俺の心は、クリスマスイブの予定で静かにざわめいていた。
次回予告
小田原城でテンション爆上がり!
のぞみの笑顔にホッとしたのも束の間──
“あの名前”が出て、空気が急変!?
次回、「夕方まで、ちゃんと待ってるから」
──その笑顔、本当に待ってる……だけ?




