第58話:午後の光と、少しの勇気
※下ネタが苦手な方向けに、第59話の冒頭に要約を載せています。
※澪視点
連泊の二日目の午後。
私たちが泊まるホテルの和室には、湯上がりの空気がゆるやかに漂っている。
畳の上に座って、湯呑みを両手で包みながら、私ときららとさつきの三人は恒例の暴露大会をはじめた。
「じゃあ……私からいくね」
湯呑みを置いて、私は小さく息を吸った。
「昔、年賀LINIを送ったとき……“はげましておめでとう”って打っちゃって……」
「えっ、それは……」
きららが口元を押さえる。
「誰に送ったの?」
さつきが食いつく。
「……好きな人」
「ぎゃああああああああああああ!!!」
二人の悲鳴が和室に響いた。
「しかも、“今年もよろしくね”のスタンプが、なぜか“土下座するネズミ”だったの……」
「それ、逆に印象残るやつ!」
笑いが収まらないまま、きららが湯呑みを持ち直す。
「じゃあ、私も……」
きららは少し照れながら話し始めた。
「小学生のとき、パパがサンタの格好してプレゼントくれたんだけど……」
「うんうん」
「その渡し方が、ちょっと……特殊で」
「特殊って?」
「パパ、プレゼントを……自分のズボンとパンツの隙間から出してきたの」
「は?」
「“チンから〜ホイ!”って言いながら……」
「ちょっと待って、パパ何者!?」
私は気になった。
「それ、サンタじゃなくて“サタン”じゃないか?」
と、さつき。
「しかもね、出てきたプレゼントが“イカ臭かった”の」
「イカ臭いって何!?」
「匂い嗅いだら、なんかもうイカ臭くて、いろいろとコングルーだった」
「どこぞの八百屋の息子でマッドサイエンティストの岡部ブタ郎さんだか
ゴリ郎さんだかしんないけどさ」
「そうそう、姉の星羅が“これは痴関の陰もうだ!”って叫んでた」
「星羅さんも、何者!?」
私は笑いすぎて湯呑みをこぼしそうになった。
「じゃあ、最後は私な」
さつきが腕を組んで、どこか遠くを見ながら語り始めた。
「この前、大阪の実家から戻るときに車で狭い道通ったら、前からクラウンが来てさ。クラクション鳴らしてくるのよ。ブッブー!って」
「うわ、怖っ」
「車から降りてきたのが、チャラそうなボーイ。“オバチャン、ここ一方通行っスよ?”って言われた」
「オバチャン!?」
「こっちはまだ二十代なのに!
で、“すまんすまん”って言ったら、“ごちゃごちゃ戯れ言言ってんじゃないっスよ!”って。語尾が頼りないのよ、いちいち!」
「その子、可愛いね」
「そいつ大人だっつーの……あ、でも頭は確かに子供か!」
「で、それからどうなったの?」
「それでな、“もうちょい寄せられますか?”って言うから、“もうちょい大丈夫やで”って言ったら、ブイイイーン!って思いっきり寄せて、ガッタン!って後輪落ちたのよ!」
「えええええ!!」
「“JAF呼ぶ?”って聞いたら、“JAF入ってないっス!”、“警察はダメっス!”って。
なんでやねんって聞いたら、“これから一生を左右する商談があるから遅れられないっス!”って、もう意味わからんのよ!」
「で、最終的に“お金あるっスか?”って聞かれて、“ない”って即答したら、“じゃあ……体で……”って言いかけて、“体は大丈夫っスか?”って言い直してきたの!」
回想
「あんちゃんは(運転)初めてなんか?」
「は、初めてっス! お姉さんは初めてっスか?」
「うちはちゃう。 バイトも入れて週に4回くらい(運転)してる。 それでも(運転)下手やけどな……」
「うっそぉぉ~!! バイトでも~!? それに……、週4回もしてるんスか!? 何人くらいっスか?」
「何人? (車に)人乗せたことないからいつも一人で(運転)するなぁ」
(お姉さんは一人の方が好きなのか……)
「どうして一人の方が好きなんスか?」
「なんでって、(車に)人乗せるのめんどくさいやん」
(なるほど~、 お姉さん程のベテランになると、一人でする方がいいんだな……)
「ところで、 お姉さんは経験が初めての男性はどう思うっスか?」
「男で(運転が)不慣れで下手くそなんは、 ウチ的には無しやな」
「ガ~ン!!」
「おい!? あんちゃん急にどないしたん!? ごっつ顔色悪いで!」
それで、そいつ……顔面蒼白になって逃げてったんだ、失礼な奴だろ?
「それ、完全に勘違いされてるやつだよ……」
三人の笑い声が、和室に響いた。
湯気の向こうで、少しだけ心がほどけていくのを感じた。
「ところで……クリスマス、もうすぐだね」
きららがぽつりとつぶやいた。
「うん。澪ちゃん……イブ、どうする? 誰かと過ごす予定ある?」
さつきが私の方を見て、にやっと笑う。
「……別に、まだ何も」
私は視線を落とした。
「えー、澪、チャンスじゃん。クリスマスって、告白とか誘いとか、自然にできる日だよ?」
さつきが身を乗り出す。
「そうそう。イベントの力、借りちゃえばいいよ」
きららも笑う。
私は黙ったまま、湯呑みの中を見つめた。
湯気がふわりと立ちのぼる。
その向こうに、あの人の顔が浮かんだ。
──迂闊くん。
あの夜、「またね」と言った。
でも、あれは本当に“また”があるって意味だったんだろうか。
私の気持ちは、ちゃんと届いていたんだろうか。
「……チャンス、か」
私は小さくつぶやいた。
「うん。澪が動かなきゃ、誰かに取られちゃうかもよ?」
さつきが笑いながら言う。
「……それは、やだな」
思わず、口からこぼれていた。
きららとさつきが、ふと顔を見合わせて、にっこり笑った。
私はスマホを手に取った。
指が少し震えていた。
でも、画面の向こうにいるあの人を思いながら──
私は、メッセージを打ち始めた。
澪:
12月24日、クリスマスイブだけど、午後に少しだけ
友達へのプレゼント選び手伝ってもらえないかな?
送信ボタンを押した瞬間、胸の奥がじんわりと熱くなった。
──これでいい。
ほんの少しでも、前に進めた気がした。
畳の上に、冬の光が静かに差し込んでいた。
その光が、私の背中をそっと押してくれた気がした。
次回予告
駅弁トークで笑ってたはずなのに!?
澪からの突然のメッセージに、迂闊の心がフルスロットル!
次回、「淡い期待と、隠せない動揺」
ときめきと焦りが入り混じる、予定のすれ違いラプソディ!




