表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/9

第5話:恋は回送列車……じゃない?

放課後。

のぞみは、教室の窓際で夕焼けを見ていた。


「今日の感情ダイヤは、乱れたまま。復旧見込み、未定……」


胸の奥が、ほんの少しだけざわつく。

昨日の“赤井駅”のドキドキが、まだ心のどこかで反響している。


(昨日の“赤井駅”……あれは、完全に信号トラブルだった。

でも……あの褒め方、各駅じゃなくて、特急だった気がする)


そこへ、迂闊がやってくる。


「のぞみ、今日も帰り一緒にいいか?」


「……うん。いいよ」


ふたりは並んで歩き、駅へ向かう。

夕焼けが、ホームをオレンジ色に染めていた。


電車を待つ間、迂闊がぽつりとつぶやく。


「なあ、のぞみ。俺、知りたいんだけどさ……

時刻表って、書き換えられるもんなの?」


「え?」


「いや、俺の人生、ずっと遅刻ばっかでさ。

でも、お前と一緒にいると、なんか……ちゃんと乗りたいって思うんだよな。

だから——俺、ちょっとずつでも、ダイヤ変えてみようかなって」


のぞみの心拍数が跳ねる。

胸の奥が、また小さく震えた。

——“遅れ”という言葉に反応する場所が、今は違う理由で揺れている。


(こいつ……私の感情ダイヤに、勝手に停車してくる。

でも……それって、もしかして……)


「し……しゅ……」


※しゅき(好き)ってこと?

と言おうとしてかんだ。


「ん?」


「しゅ……しゅんとしただけだから!

別に何か言いかけたわけじゃないし!

信号、赤だから!踏切、鳴ってるだけだから!」


迂闊は笑って言う。


「あははは!

ほっんと、のぞみ、おまえって面白いよな。

じゃあ、俺、遮断機の向こうで待ってるわ。

のぞみが通過するまで、ちゃんと見送るから」


「……迂闊くん、なんでそういうことだけ詩的なのよ……」


「え、俺、詩的だった?それマジ?

じゃあ次は“感情の乗り継ぎ案内”とか言ってみようか?」


「やめてよ。私の感情、乗り継ぎミスで迷子になるから」


「じゃあ、俺が駅員やるわ。

『次は“好きかも”駅〜』って案内する」


「やめてってば!その駅、まだ開業してない!」


「じゃあ、仮駅でいいじゃん。プレ開業。試運転中」


(ぐぬぬ……迂闊のくせに、言葉の乗り換えだけはスムーズなのなんか腹立つわ……)


「迂闊くん、それ……褒めてる?それとも積載オーバー?」


「……どっちでもない。運行妨害」


「ちょっと迂闊くん!

お尻とお腹抑えながらモゾモゾしながら言わないでよ!」


はははははは!


ふたりは笑いながら、電車に乗り込む。

車内は空いていて、並んで座る。


迂闊が窓の外を見ながら言う。


「なあ、のぞみ。俺さ……お前の話を聞いてると、電車って、ただの乗り物じゃないんだなって思う」


「……うん。私にとっては、記憶の保存装置みたいなものだから」


「保存装置?」


「うん。お母さんが亡くなる前、毎日“のぞみダイヤ”って手書きの時刻表作ってくれてたの。

起きる時間、食べる時間、遊ぶ時間……全部、私が書き込んで遊んだっけ」


その記憶を口にした瞬間、胸の奥が少しだけ痛む。

でも、今はその痛みが“懐かしさ”に近い。


「……それ、めっちゃいいじゃん。

俺なんて、朝起きる時間、毎日“未定”だったぞ」


「それはただのうっ……運行放棄!」


「あはは、まだ意識してやんの!!」


「うっさい!」


のぞみはぷいっと顔をそむけたが、耳の先がほんのり赤い。

強がりの裏に、照れと、少しの嬉しさが滲んでいた。


少し笑いすぎた空気が落ち着いて、ふたりの間にふわりと静けさが戻る。

脱線した会話を、迂闊がそっと本筋へと引き戻した。


「でもさ、今は違う。

お前と一緒にいると、なんか……ちゃんと乗りたいって思うんだよな」


のぞみは、窓の外の夕焼けを見ながら、そっと言う。

「……私も、最近ちょっとだけ……

“定刻外”の景色、悪くないなって思えてきた」


定刻外の景色も、案外悪くない──

そんな考えが胸をかすめたのは、初めてだった。


胸の奥の“影”が、ほんの少しだけ形を変える。

——まだ発車はしない。

でも、次の停車駅を探す旅は始まっている。


(感情の回送列車は、ゆっくりと……方向転換中)




【今週の鉄道豆知識】仮駅とプレ開業って?


今回出てきた「仮駅」や「プレ開業」って、聞き慣れない言葉だよね。

これは新しい路線や駅が正式にオープンするまでの、いわば「お試し期間」のことなんだ。

仮駅は、新しい駅が完成するまでの間に、一時的に設置される駅舎やホームのこと。

プレ開業は、一部区間だけを先に開通させて、本格的な運行を始める前に様子を見ること。

どちらも、鉄道がより安全で便利になるために、欠かせない準備なんだよ。

これで、君も立派な「鉄」だね! ではまた次回!



次回予告


次回、「乗車率120%の感情暴走」

のぞみの“こじらせ鉄道脳”が、ついに混雑警報発令!?

迂闊との距離が縮まりすぎて、感情の車内アナウンスが止まらない!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ