表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/58

第47話:澪のスリッパと押し花の裏側 ※澪視点

※第47話は再び澪視点になります。



──私が部屋に戻った瞬間、空気が変わった。


「ねえ澪ちゃん、

スリッパにふんどし絡まってるんだけど。

しかも誰かの使用済みっぽいし…え、何が起きてんの?」

きららが、浴衣姿で鏡の前から振り返るなり、声を上げた。


「……ごめん、ちょっと考えごとしてて」

私はぼんやりしたまま、真顔で答えた。


「いやいや、まず気づこうよ。

考えごとしてたって、どうやったらふんどし引きずってくるの?」

さつきがすかさずツッコむ。テンポが完全に漫才モード。


「てかさ、ふんどしの後ろにも何か連なってるんだけど……って、出たよ、バニーガール。

澪が引きずってきたのも意味わかんないけど、

そもそもこの旅館にバニーガールの衣装着る人いないでしょ?」

きららが困惑しながら言う。状況が謎すぎる。


「……え、これも私が引きずってきたの?」

足元を見て、ようやく気づく。


「ちょっと待って。“私が引きずってきたの?”って、

それ冷蔵庫のプリン誰の?って聞くときのテンションじゃないからね」

さつきのツッコミがさらに跳ねる。


「ねえ、あれ……そのうしろのやつ何?」

きららが私の背後を指差す。声が少し震えてる。


「あ、重いと思ったら、それだったんだ」

振り返って、ようやく気づく。


「それだったんだ、じゃないって。

……それ、ア○パンマンの胴体じゃない?」

さつきが言った瞬間、三人で恐る恐る確認する。

そして──


「ギャーーー!!」


部屋中に阿鼻叫喚が響いた。


そして、笑った。

もちろん──私も。

でも、私だけ少しだけタイミングを外していた。

声も、いつもより少しだけ小さかった。

口元は笑っていたけど、目元は動かなかった。


誰にも気づかれないように、座布団の上にそっと座った。

ノートはまだ手元にある。ページは閉じたまま。


「澪、なんかあった?」

さつきが、浴衣の裾をまくりながら真顔になる。


「いや……別に……」

私は、畳の目を指でなぞった。

その指先は、少しだけ力が入っていた。


「何? 人間? 幽霊?…… “元カレ”?」

きららが無邪気に言ったその一言で、私は一瞬だけ笑うのを忘れた。

口元はそのままなのに、目線が止まった。

目元だけが、ほんの少しだけ動いた。


「きらら、それ全部“ちょっとだけ”じゃ済まないやつだから」

さつきが、少しだけ声のトーンを落として言った。


「いまの澪ちゃん、顔が“ヒキガエル”のときよりシュールになってるよ」


「あのとき私……そんな難しい顔してたっけ?」


「うん、湿地帯で保湿した感じ」


「それ、私のことディスってるよね?」




──それから、私は彼と再会した時の言葉にできない感情を、

押し花のページにそっと閉じ込めた。


「……お風呂、先入ってきていいよ」

私はそう言って、ノートをそっと枕元に置いた。


さつきときららは顔を見合わせて、


「じゃあ、澪ガエルの喉が“乾燥”しないうちに行ってくるか」

と笑った。


──部屋に静けさが戻る。


私はノートを開けないまま、

押し花の表紙を見つめていた。


──“この恋に気づいて”──

その花言葉が、胸の奥でまた震えた。



次回予告

澪のノートに挟まれた“期待”の花が、再会の余韻を揺らす。

言えなかった言葉が、胸の奥で静かにくすぶる。

次回、「止まった時間と、言えない言葉」

しかし……“期待”の意味を、澪自身もまだ知らない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ