表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/55

第46話:缶の音と、止まった時間

※再び迂闊たちの三人称視点に戻ります。


越後湯沢駅の改札を抜けると、あたり一面が雪に覆われていた。

空気は澄んでいて、肌に触れると少し痛いくらいに冷たい。

駅前ロータリーには送迎バスが並び、案内係の制服が風に揺れている。


迂闊は、のぞみ・ひより・北斗・るいとともに、

エンゼルグランニア越後中里行きの無料送迎バスに乗り込んだ。


車内にはスキー場の案内や観光パンフレットがぎっしりと差し込まれていて、

窓の外には雪をかぶった山肌と、川沿いの細い道が続いていた。


「ねえ、あと何分で着くの?」

のぞみが運転席の方に声をかける。

運転手が「15分くらいですが、雪の影響で前後するかもしれませんね」と答えると、

のぞみはスマホを取り出して、「じゃあ着いたら、みんなで写メ撮ろうね!」と宣言した。


──そして、エンゼルグランニア越後中里に到着。


玄関前の広場には石畳が敷かれ、両脇に白いベンチと植え込みが並んでいる。

建物はリゾートホテルらしい曲線のある外観で、

ガラス張りのエントランスからは、ロビーの照明が柔らかく漏れていた。


のぞみは、玄関前の看板の前で「はい、ここで撮るよ!」と叫んだ。

「もうちょい右! 北斗、顔が暗い! はるい、笑って!」

まるで映画監督のように何度も撮り直しを要求するのぞみに、

迂闊は「もう11枚目だぞ……」と小声でつぶやいた。


撮影が終わると、全員でロビーに入り、チェックインを済ませる。

ロビーは広く、左手にフロントカウンター、右手にラウンジスペース。

奥には売店と自販機コーナーがあり、さらに奥にエレベーターが並んでいる。


男女それぞれ和室二部屋に分かれて荷物を置いたあと、夕食のバイキングまで自由行動となった。


「私とひよりちゃん、浴衣に着替えてくるね〜」

のぞみとひよりが部屋に戻ると、男性陣と女性陣で自然と別行動に。


「この後もしよろしければ、僕たち三人で館内をちょっと見て回りませんか?」

北斗が提案すると、るいが「わかりました。露天風呂の場所だけ確認したいですので……」と乗ってくる。


「俺はパス。ちょっと疲れたから……」

迂闊は断った。


部屋に一人残った迂闊は、電車の中で聞こえた女性の言葉を思い出す。


『私、ずっと待ってたんだよ。

ねえ、なんであの時、ちゃんと言ってくれなかったの?』


その声は、記憶の底から泡のように浮かび上がり、迂闊の意識に再び触れた。


(だから、あんた、だれだよ?)


『そうやってごまかさないで……。

まさか忘れたなんて言わせないよ。私は──』



──それから。

スマホの充電コードを忘れていたことを思い出し、フロントに借りに行くことにした。


カウンターでコードを借りたあと、

迂闊はロビーの奥、自販機コーナーへと足を向ける。


自販機は3台並んでいて、ジュース・お茶・コーヒーがそれぞれ別の機種に分かれていた。

迂闊は缶コーヒーのボタンを押す。

「ガコン」という音とともに、缶が落ちる。


その音が、なぜか妙に響いた気がした。


缶を取り出し、後ろを振り返る。


──そこに、彼女がいた。


浴衣姿で、静かなソファに腰を下ろしている。

ノートを開いて、何かを見つめている。


澪だった。


彼女が顔を上げ、立ち上がる。

その目が、迂闊を見た瞬間──

時間が、ほんの少しだけ止まった気がした。



次回予告

澪が部屋に戻った瞬間、空気が一変する。

騒がしい友人たちの声の中で、澪だけが少しだけ静かだった。

次回、「澪のスリッパと押し花の裏側」

そして──笑いの渦の裏で、澪の胸に揺れたものとは。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ