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第44話:ズボンと罠と、笑いの渦

──越後湯沢へ向かう電車内。

水上駅を過ぎ、話題は予約した旅館のことに移っていた。


のぞみが、ふと思い出したように体を揺らした。

「そういやさ、ホテル決めるの、めっちゃ揉めたよね〜」


「揉めたっていいますか、迂闊くんが異様にこだわっていましたよね」北斗が楽しそうに笑う。


「私は駅近で岩露天風呂がある『湯沢東宝ホテル』推しだったのにさ〜」

のぞみが釜めしの空容器を抱えながら、不満を込めて続ける。


「でも迂闊くん、『俺、温水プールがある方が絶対いい!』って一歩も引かなかったですよね」

北斗が冷静に補足した。


「……いや、俺は健康のためにだな……」

迂闊が蚊の鳴くような声で反論する。


「迂闊くんの心の健康のために、のぞみさんとひよりちゃんの水着姿を鑑賞したかった、ってことですか?」北斗が爆弾を投下した。


「ちょっ、違う!そういう意味じゃねぇよ!」

迂闊は飛び上がる。


「えー、でもさ、ショッピングモールでの水着選びのとき、迂闊だけやたら真剣だったよね?」

のぞみがニヤリと魔性の笑みを浮かべる。


「しかも、ひよりちゃんの水着を見て、『それはちょっと刺激が強すぎるかも……』ってたしか父親みたいなこと言ってましたよね?」

るいがさらに追い打ちをかける。


「あ、思い出した!あのときの!この間のスカート事件!あれ、絶対迂闊の黒歴史だよね〜!」


「やめろ……!その話はやめてくれ……!」

迂闊が小声で命乞いをする。



──回想は、ショッピングモールの試着室へと遡る。


「ねえ迂闊、まだー?」


「ま、待てよ!もうちょっとだ!」


迂闊一人が試着室に入り、他のメンバーがそれを待つという、異様な光景。


「迂闊さんが罰ゲームで女装って、どういう流れからでしたっけ?」

るいが笑いをこらえながら聞く。


「のぞみさんが『水着選びに真剣すぎる男は信用できない』って言い出して、『じゃあ女装してみろ』って流れになったんですよ」

北斗が冷静に、そして淡々と振り返った。



──そして、事件は起きた。


試着室の下の隙間から、迂闊が昨日穿きおろしたばかりの新品ズボンがはみ出ていた。

そこに偶然──どこかの母親の目を盗んだ赤ちゃんが音もなく忍び寄り──

「ズボン、ポイッ!」

と、フロアに豪快に投げた。


「えっ!? ちょ、俺のズボン!?

それ昨日買ったばっかのやつ!!」

迂闊が試着室の中で絶叫する。


「あっ、のぞみすまん。俺のズボンとってくれ!」


しかし──


「…………」

のぞみどころか、誰からも返事はない。


実はちょうどそのとき、のぞみがスマホをどこかに置いてきたらしく、迂闊以外の四人はテナントフロアの入口あたりで捜索の手がかりを話し合っていた。

さらに周囲の喧騒も加わり、迂闊の助けを求める声は届かない。


そのズボンを、後からのぞみが何の疑いもなく拾い──


「これ、マネキンの試着品かな?」

と、衣類コーナーの陳列棚に丁寧に戻してしまった。


そして、迂闊を一人残し、のぞみ達四人はのぞみのスマホ探しに店を出てしまう。


その頃──迂闊はスマホでのぞみと北斗に連絡を試みるが──

バッテリー切れだった。


「俺、詰んだわ……」


試着室に残されたのは、唯一、罰ゲーム用のスカート。


「……これしかないのか……?」

絶賛テンパり中の迂闊には、ボクサーパンツのままのほうがまだマシという冷静な判断はなかった。


何を血迷ったか、スカートを履いて試着室をそっと抜け出す。


他の客を接客中の店員の目を盗み、ズボンを探す迂闊の『メタルギアソリ○ド』が静かに始まった。



そこに、まさかのひよりが登場。

「んんん?」


迂闊は、慌てて試着室に戻る。

そして、上下に隙間の空いたドア上部から背伸びで顔を出すと、ボールペンを咥えてひよりにモールス信号で合図を送る。


「ポッ・ポポッ・キー……(ズボンを探してくれ)」

すると、ひよりはすぐに理解したらしく、店内をスルスルと静かに動き始めた。


しかし、試着室に長時間いる迂闊を不審に思った店員が、試着室の迂闊に向けてノックをして声をかける。

「すみません、お客様……そろそろお次の方が……」


──その瞬間!


「泥棒です──!」

ひよりが突然の大声で店員の注意を惹きつける。


「え?」

店員がひよりのほうを振り返っている隙に、迂闊は再びスカート姿のまま試着室を抜け出した。


棚の陰に身を潜め、店員の視線を避けながら、ズボンを探す『メタルギアソリ○ド』が再開する。


「……俺のズボン……どこだ……」


そのとき、無事にスマホを見つけたのぞみ・北斗・るいが安堵した顔で戻ってきた。


「ただいまー……って、え?」

のぞみが目を見開いた。

「ちょっと待って、迂闊……それ、スカートじゃない!?」


「違う!これは……その……緊急避難用の……!」


「え、てことは、さっきの試着室から……今までずっとほんとに女装してたってことですか!?」

北斗が堪えきれずに吹き出す!


「いや、違う!これは事故で!赤ちゃんが!ズボンを!」


「……うわ、ほんとに履いていますね……」

るいが満面の笑みでスマホを構え始める。


「やめろ!撮るな!SNSに上げるな!『#旅先で女装』とか絶対やめろ!」



そこへ、ひよりがポッキーを片手にスッと現れる。


その隣には、笑顔の女性店員。


ひよりはスマホを手にしていた。


「お探しのズボン、見つかりましたよ」

店員がにこやかに言いい、ひよりがスマホの画面を迂闊に見せる。


「監視カメラの映像に、赤ちゃんがズボンを投げる瞬間が映ってまして。棚の下に滑り込んでました」


「んんんっ(ナイス)」

ひよりが親指を立てる。


「えっ、ちょっとその映像見せて!」

のぞみが身を乗り出す。


──スマホの画面には、スカート姿で棚の陰を這い回る迂闊の姿が、高画質でしっかりと映っていた。


「え?……なにこれ……」

のぞみが口元を押さえる。


「これ、完全に潜入工作員……ですね」

北斗が涙目で吹き出す。


「『スカートのまま、敵地に潜入』って字幕つけたいですね……」

るいが腹を抱えてしゃがみこむ。


「みんなやめろ……!やめてくれ……!」

迂闊が顔を覆って崩れ落ちる。


女性店員も、くすくすと笑いをこらえながら言った。

「お似合いでしたよ。スカート」


──その瞬間、みんなの笑いが爆発した。


「不幸だー!」



次回予告──

澪が先輩二人と温泉旅行へ。

畳の匂いが、乾いた感情をそっと揺らす。

次回、「匂いが感情を揺らす午後」

そして缶コーヒーの前で──澪は、遂に出会ってしまう!


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