表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/55

第41話 :駅弁と鉄オタと、食の悲劇

──大宮駅を出発した車両は、ゆるやかに加速しながら高崎方面へと滑り出す。

車内はほどよく空いていて、五人は並んで座っていた。


のぞみはスマホをいじっていたが、突然パッと顔を上げた。


「さて!ここからは、私こと・のぞみ先生による駅弁講座を始めます!」


「……誰が頼んだ」


迂闊が即座にツッコむ。


「いやいや、これは鉄道旅の醍醐味でしょ?

駅弁を語らずして旅は語れないの!

わかった?」


「語らなくていいから、普通に食わせてくれ……」


「まずは高崎駅の名物、峠の釜めし!昭和33年から続く伝統の味で──」


「まだ高崎着いてないよな?」


「予習だよ予習!容器は益子焼でできてて、食べ終わったあと小物入れにする人もいるの!」


「……ひよりのバッグに入ってたやつ、それか」

と迂闊。


ひよりはポッキーの袋を抱えたまま、「んんん」とのぞみに向かってポッキー語で返事する。


「……3つある──そうよ」


「3つ!? 何入れてんだ!?」


「ポッキー……チュッパチャプス……スルメ」


「お菓子専用かよ!」


北斗は微笑みながら、のぞみに質問を投げる。


「他におすすめの駅弁はありますか?」


「もちろん!水上駅の『SL弁当』!蒸気機関車の形の容器に入ってて、見た目が最高だよ!」


「……味は?」


「見た目が最高!」


「北斗は味の話聞いてるだろ!」


るいは黙って聞いていたが、ふと呟いた。


「……のぞみさん、駅弁の容器、全部取ってあるんですか?」


「もちろん!家に棚があるよ。台車の写真と並べて飾ってる!」


「……こいつの部屋、博物館かよ」


迂闊がまたツッコむと、のぞみは満面の笑みで言った。


「違うよ!“のぞみ資料館”だよ!」


「自分で命名してるのが一番怖いわ!」



──しばらくして、迂闊が何かを思い出したように口を開いた。


「そういえば、のぞみ。前にこんなことあったよな?」


──日曜の午後、高校近くのイオンのフードコート。

模試帰りののぞみと迂闊が、トレーを手に席を探していた。


のぞみ(ハンバーグを見つめてうっとり)

「このデミグラスの深み……やっぱ“俺のフレンチ”って違うわ〜。

銀座の味が、ここにあるって感じ!」


──そこへ、クラスメイトの女友達・まひるが偶然通りかかる。


「あれ?のぞみじゃん。模試帰り?……って、何食べてんの?」


「これ、“俺のフレンチ”のハンバーグ!

肉汁がジュワッて出てくるの!

銀座の味が、フードコートに降臨したって感じ!」


──まひる、のぞみのトレーをじっと見て、静かに一言。


「……ねえ、のぞみ?それ、“俺のハンバーグ亭”と“俺のフレンチ”間違えてない?

それに……今食べれるそれ、元は冷凍だよ(笑)」


──のぞみはフォークを止めて固まる。

そして、顔が真っ赤に染まった。


「……うっさい!」


──バシッ!


「なんで俺!?」


フードコートに響く笑い声。

のぞみの“銀座ランチ”は、冷凍庫の夢とともに崩れ落ちた。



──意識を車内に戻すと、ひよりが迂闊の袖を引いていた。


「どうした、ひより?」


ひよりが「んんんん」と、ポッキー語で迂闊に話をふる。


「そういや、ひよりがこの前出してくれたあの干し肉……味は独特だったけど、あれ、美味かったぜ!」


──ガッツポーズを決める迂闊。


ひよりはポッキーをくわえたまま、無言で首を傾げる。


「……それ、友達が飼ってる蛇のエサだよ。カエルの肉──だって」(のぞみが通訳)


「……は?」


「後で友達のところに持っていこうと思って置いてたの。

お兄のテーブルの上に。

そしたら、お兄が“うまいうまい!”って勝手にバリバリ食べてた」

(のぞみが通訳)


「ちょ、待て待て待て!俺、蛇のディナーを横取りしてたの!?」


のぞみとひよりが揃って笑う。


北斗は真顔で言った。

「……カエル肉は高タンパクですが、ヒト向けではないのは健康に少々不安がありますね」


車内は爆笑とツッコミの嵐。

迂闊の尊厳は、蛇のエサに打ち砕かれた。



──その頃、車窓の外では、田園風景が広がっていた。

列車は、静かに高崎へ向かっている。

笑い声と駅弁のうんちくが、車内に心地よく響いていた。


次は、高崎駅(高崎線)──。



次回予告

高崎駅のホーム。

迂闊の視線が通過列車に吸い込まれる──

窓の向こうに見えた“誰か”が、記憶の奥をざわつかせる。

次回「通過列車と静かな歪み」

止まった風、揺れる心──迂闊の過去が、静かに動き出す。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ