第4話:恋の積載オーバー
翌朝。
のぞみは、教室の自席で時刻表を広げていた。
(今日の感情ダイヤは、乱れないわ……絶対に。
昨日の非常停止ボタンは……あれは、事故。
信号トラブル——復旧済み、よし!
それに……私の独り言センサー、異常——な〜し!)
胸の奥が、ほんの少しだけ“ざわっ”とする。
——遅れなければ大丈夫。
そう言い聞かせるのは、もう癖になっていた。
だが——。
トン
ビクッ!!
「のぞみ、ったく、お前なー……。
なに朝っぱらから一人でぶつぶつ言いながら指差し呼称してんだよ」
「え!? あ、迂闊くん?
お、おはよう——今日は珍しく早いね……」
「うっせー!
……おはよ、のぞみ。
昨日の路線、マジで景色よかったな。
あとさ、お前って鉄道詳しいよな。なんか……すげーよ」
「え。そう……かな?」
「いや、俺、鉄道とか全然わかんねーけどさ。
お前が語ってると、なんか……貨物列車みたいに重みあるっていうか」
「ねえ、貨物列車みたいに重みあるって——なにそれ……。
私のこと褒めてる? それとも……けなしてる……?」
「のぞみ、お前っ、今怖えよ。全然目が笑って無えって!
ほっ、褒めてる!
てか、のぞみってさ……なんか、可愛いよな。
そのお前がいつも被ってる車掌風の帽子とか、時刻表とか、マジで似合ってるしっ」
のぞみの心拍数が跳ねる。
褒められることに慣れていない心が、
どこか落ち着かないリズムを刻む。
胸の奥が、また小さく震えた。
——昨日の“非常停止ボタン”の感覚が、一瞬だけ蘇る。
「ちょ、ちょっと待って……、そんな急行で褒めるのやめて!
私、各駅停車で心を開くタイプなのにっ!」
「じゃあ、俺、各駅で褒めてくわ。
次は“帽子かわいい”駅な」
「ち、違うよ!そ、そういう意味で言ったんじゃないよ……」
「『赤井〜、赤井〜♪
次は顔が『赤井駅』に止まりま〜す♪』だよな?」
「ち、違うよ!——迂闊のバカ……っ!」
教室が静まり返った後——
クラスメイトのヒソヒソ話。
「なあ、さっきのあの二人……お前どう思う?」
「え、迂闊と速杉さんの会話だよね?う……ん」
「あれって、絶対、急行で告白だったよな……?」
「山陽くん、もしかして……キミにも速杉さんの鉄道言葉……伝染ってない?」
のぞみは、聞こえないふりをしながら時刻表を閉じた。
指先が、ほんの少しだけ強くページを押さえていた。
次回予告
次回、「恋は回送列車……じゃない?」
のぞみ、ついに「しゅき…」と早発(フライング発車)しかける!?
迂闊の「俺が時刻表、書き換えていいか?」にのぞみは——
恋の超速運行、ついに始発駅へ!




