第39話:罰ゲームと鉄オタと……るいの一言
──横浜駅。
市営地下鉄ブルーラインの青い改札を抜けた五人は、一気にJR線の巨大な喧騒へと放り出された。
地下深くから湧き上がってきたような生ぬるい熱気が肌にまとわりつく。
JR線への乗り換えは直結ではなく、各路線の利用客が行き交う広大な連絡通路を歩く必要がある。
彼らはまず、切符売り場を通過し、最も人通りの多いJR中央通路へ向かっていた。
「……重っ……なんで俺がこれ持ってんの……」
迂闊は、のぞみとひよりの泊まり用バッグを両肩に食い込ませ、ヒーヒー言いながら人波を縫って進む。
のぞみのバッグは、鉄道グッズとカメラ機材でパンパンに膨らみ、黒くて重い。
ひよりのバッグは、なぜかポッキー5箱と袋買いのチュッパチャプスがぎっしり詰まっており、シャカシャカと独特の音を立てていた。
「罰ゲームでしょ?さっきの地下鉄車内でのじゃんけん、忘れたの?」
「忘れたい……この荷物ごと、この通路の隅っこに置いていきたい……」
「がんばってください迂闊くん。筋トレだと思えばいいですから。大宮まで」
「うるせえ!」
北斗は爽やかに笑うが、手に持つのは小ぶりなリュック一つ。
手伝う気は微塵もないらしい。
周囲は、駅弁屋の香りやカフェの看板、旅行者と通勤客の波で、情報が氾濫していた。
五人はJRの「中央南改札」を通り抜け、京浜東北線ホームへ上がるエスカレーターに並んだ。
──その時、のぞみが突然、高速で動くエスカレーターの前で立ち止まり、進行方向とは逆のホームに停車している車両の足元にしゃがみ込んだ。
「みんな、ちょっと待って!ここ、絶対撮るべき!」
「なんだよ……急に危ねぇだろ……」
と、迂闊は重い荷物で体勢を崩しかけながらもツッコむ。
「これ……台車の塗装、今日の太陽光でめっちゃ映えてる!この光の反射!」
のぞみはスマホを取り出し、車輪のアップを真剣な眼差しでインスタ用に撮影し始める。
足元の薄汚れたコンクリートと、磨かれた台車のコントラストが、彼女には芸術に見えているらしい。
「インスタ映え〜♡」
「……こいつの感覚、絶対普通の女子高生と違う」
迂闊は、額の汗を拭うこともできずに重力に耐えながらツッコんだ。
ひよりは黙って、ポッキーの袋を抱えていた。エスカレーターのステップの上、彼女は何も言わず、ただ袋の赤い印字を見つめている。
その表情は、どこか遠い場所を見ているようだった。
「……ひよりちゃん、それ、食べるの?」
「……んん」
「じゃあ、僕が開けようか。まだ発車まで少し時間がある」
「……んん」
北斗とひより──会話はそれだけ。
まるで、二人の間にだけ通じる静かな線路があるようだった。
るいは、少し離れた位置、エスカレーターの壁にもたれてスマホを見ていたが、
迂闊がホームに上がりきると、すっと自然に一歩、距離を取った。
「……なんか、俺、嫌われてる?」
京浜東北線の青いアナウンスが響く中、上野東京ライン直通の快速がホームに滑り込む。
車内は混雑していたが、運良く五人分の席が並びで空いていた。
「よし、ここ座ろう!ひより、ポッキーは膝に乗せて!」
「……んん」
のぞみは「この車両、E233系だね。座席の色がちょっと違う」と言いながら着席。
北斗は「では、私はドア付近に立っておきます。混雑緩和のためにも」と席を譲る。
迂闊は、重い荷物から解放され、ドサリと座席に腰を下ろした。
──列車が動き出し、しばらくして、るいが立ち上がった。彼女は、静かに迂闊の袖を軽く引いた。
「……ちょっと、来てください」
「え?俺?」
「はい。少しだけ二人で」
迂闊は戸惑いながら、るいの後を追って車両の連結部近くへ移動する。
ドアの開閉ボタンを囲むようにして、二人は立った。
──沈黙。
車窓の外を流れる横浜の街並み。
商業ビルやマンションが、列車に背を向けるようにして遠ざかっていく。
迂闊は、るいの研ぎ澄まされたような横顔をちらりと見る。
「なあ……るい、さっきからずっと俺に冷たくないか?俺、なんかしたか?」
るいは、ゆっくりと顔を向けた。
その目は、真っ直ぐに、静かに迂闊を見ていた。
連結部の揺れだけが、二人の間の張り詰めた空気を揺らしている。
「迂闊さん……あなた、お姉ちゃんのことを知っていますよね?」
──その一言で、迂闊の心臓が激しく跳ねた。まるで、急ブレーキがかかったかのように。
次回予告ッ!
ポッキーは4本、黒歴史は無限!いわくつきのキャンディで青春爆走!
るいの一言が、迂闊の心に急ブレーキをかける?
次回「見かけは残念でも中は甘いモノ」──揺れる車内、笑いとキュンが交差する!




