第33話:旅の前に確かめたいこと
時は現在に戻る。
放課後の駅前。
マクドナルドの店内は、制服姿の学生たちでほどよく賑わっていた。
窓際の席に、のぞみ、迂闊、北斗、ひより、るい──五人が集まっていた。
目的は、電車旅の行き先を決めること。
「ポテトSとオレンジジュースのSセット、ください」
ひよりが一番に注文を済ませる。
「ぼくは……ポテトSと烏龍茶Sのセットで」
「お支払いは別々でよろしいですか?」
カウンターの店員が訊ねる。
「え〜と……」
るいが、店員にお金を差し出そうとするひよりの方を向きながら、財布を取り出す。
「二人ともちょっと待って」
のぞみがすっと前に出て、レジに手を伸ばす。
「ここは私が払うよ」
「えっ!?」
ひよりとるい、二人の反応に被せるように迂闊が大きく目を見開く。
「お前なんでこいつらに奢ってるんだよ!」
のぞみは涼しい顔で言い返す。
「何、嫉妬? あなたお子さま?」
そして、にやりと笑う。
「安心して。ひよりちゃんとるいくんの分だけじゃないよ。昨日、お父さんが“みんなで話し合うなら”ってお金くれたの」
「そんな、悪いですよ。僕、お金持ってきてますから」
と、るい。
「んんん」
ひよりもるいと同じくポッキー語で遠慮する。
「本当に大丈夫だよ。
誘ったのは私なんだし、ね、二人とも私の顔を立ててお願〜い!」
「ひよりちゃん……どうする?」
るいは少し困ったようにひよりに目配せする。
すると、ひよりはポッキーを上下に振り嬉しそうにぴょんぴょん飛び跳ねながらのぞみにお辞儀をした。
「じゃ、二人ともきまりだね♪」
のぞみはパチッとウインクする。
「のぞみ先輩、ありがとうございます!」
「るいくん、そんなかしこまらなくていいよ。それに、わたしは先輩つけなくていいから」
「わかりました。ありがとうございます。
のぞみさん」
「るいくん、いい子いい子〜♪」
のぞみはるいの頭をポンと叩いた。
「なんだ、そういうことか」
迂闊は納得したように頷き、すぐさまメニューを見直す。
「じゃあ俺は、このビッグマックセットのポテトLコーラLで」
「ちょ! しれっと高いの頼むな!」
のぞみが即座にツッコむ。
「それに今ランチでもないのにガッツリ食うな!」
「冗談冗談」
迂闊は笑いながら、ポテトMとコーラLのセットを選び、自分で支払いを済ませる。
「まったく、しょうがないね……」
のぞみがしぶしぶ財布を開こうとすると──
「ちっちっ」と、迂闊はニヤつきを隠すように人差し指を振った。
「いくらお前のお父さんからのお金でも、女の子からお金はもらう訳ないだろ!」
迂闊はさもスマートに奢りを断るイケメンを演じているが、要するに自分の飲食代を自分で払うという、極めて当たり前の主張である。
にもかかわらず、のぞみは何を盛大に勘違いしたのか、一瞬固まり、顔を少し赤くする。
「僕も、自分で払います」
北斗が静かに言う。
「のぞみさん。でも、お父さんにはちゃんと“食事に使って、ありがとうございました”って、お礼を伝えてくれますか?」
「……うん。伝える」
のぞみは頷き、少しだけ微笑んだ。
結局、のぞみはひよりとるいの分だけを支払い、残りのお金は旅費に充てることにした。
トレイを持って席に戻ると、ポテトの匂いがふわりと漂う。
窓の外では、夕暮れの空に電車が滑り込んでくる。
その音が、まるで旅の始まりを告げるベルのように聞こえた。
ポテトをつまみながら、のぞみがスマホを取り出す。
「さて、旅の目的地だけど──一泊二日で行ける温泉地、どう?」
「それ、日にち跨いだら切符5枚じゃ足りねえぞ!」
迂闊が即座にツッコむ。
しかし──
「ふふふ……」
のぞみが微笑みながらバッグからもう一束の封筒を取り出す。
「鉄オタの私がそんなの知らないはずないじゃん。実は──じゃ〜ん!」
封筒の中には、もう5枚の青春18きっぷ。
「パパがね、偶然“もう5枚も貰えたよ”ってくれたの!すごくない?」
「マジかよ……のぞみパパ、神か」
迂闊が感心しながらポテトを口に放り込む。
のぞみがスマホを操作しながら言う。
「さて、旅の目的地だけど──一泊二日で行ける温泉地、何か候補ある人?」
「どうせなら、なるべく遠くがいいよな」
迂闊がポテトをつまみながら言う。
「でも、青春18きっぷは一人2枚。往復分しかないから、夕食の時間……遅くとも19時までには着ける場所じゃないといけませんね」
北斗が冷静に条件を整理する。
「それなら……ここ!」
のぞみが画面をみんなに見せる。
「新潟の越後湯沢温泉。新羽駅から朝一で出れば、夕方には着ける。雪国の温泉街って、ロマンあるよね〜♡」
「越後湯沢って、スキー場があるところ……ですよね?」
るいが訊ねる。
「んんんん、ん〜♡」
ひよりは目を輝かせる。
「そう。しかも、駅から徒歩圏内にある『湯沢グランドホテル』って旅館が、学生にも優しい価格で、夕食バイキング付き!」
のぞみが得意げに説明する。
そして、スマホを操作しながらふと呟く。
「それにこの青春18きっぷ、全て冬季期間用だし──今の季節、冬ならやっぱり雪の温泉街でしょ。雪見風呂って、憧れない?」
「おお……それ、いいじゃん」
迂闊が感心する。
「露天風呂もありますし、部屋も和室で広め。今なら男女で和室二部屋。二人と三人でも予約とれますね」
北斗が補足する。
「じゃあ、越後湯沢温泉に決定でよさそうですか……?」
るいが確認する。
「賛成ー!!」
「うっしゃー!!
全会一致で決定ね♡
とりあえず予約は私がしておくね」
のぞみが笑顔で宣言した。
「でも……」
るいが、少し不安そうに口を開く。
「旅行とか宿泊って、未成年だけだと校則とか……大丈夫なのかな」
「あ、確かにそうね……」
「それ、実は僕も気になっていて調べました」
北斗が頷く。
「一般的な中学校の校則では、保護者の同意があって、事前に申請すれば可能らしいですよ」
「じゃあ、ちゃんと説明しよう」
のぞみが真剣な顔になる。
「るいくんのご両親に、私がちゃんと話す。旅のこと、計画のこと、全部」
「俺も行く。るいの親に“変なやつじゃない”って証明しないと」
迂闊が胸を張る。
「あんたのその根拠の無いやる気が一番心配なんだけど……」
のぞみが小声でツッコむ。
「僕も行きます。
じゃあ、今日の帰り、るいくんの家に一緒に行きましょう」
北斗が静かにまとめる。
──そして、日が落ちる前。あたりは紅く染まる。
るいくんの自宅マンションの前。
インターホンを押すと、ドアがゆっくり開く。
そこに現れたのは──
長い髪を後ろで束ねた、落ち着いた雰囲気の女性。
るいくんと目元がよく似ている。
「こんにちは。るいの母です──」
その瞬間、迂闊は言葉を失った。
「似てる……」
彼女の姿に、何かを思い出したように。
あるいは、何かに気付いてしまったように。
のぞみと北斗が、迂闊の横顔をちらりと見る。
その表情は、いつもの迂闊とは少し違っていた。
次回予告
──次回、第34話『知らないはずの、面影』
旅の前に、もうひとつの扉が開く。
アクセス(青春18きっぷ使用)
行き(約10時間)
1. 新羽駅 → 横浜駅(市営地下鉄ブルーライン)
2. 横浜駅 → 大宮駅(京浜東北線)
3. 大宮駅 → 高崎駅(高崎線)
※このタイミングで名物駅弁「だるま弁当」を購入
4. 高崎駅 →水上駅(上越線) → 越後湯沢駅
※車内で昼食として駅弁を楽しむ
帰り(約10時間・別ルート)
1. 越後湯沢駅 → 高崎駅(上越線)
※高崎駅で昼食用の駅弁を購入(行きとは別の種類を選ぶ)
- 上州牛めし弁当:群馬県産の牛肉を使った人気弁当
- 鳥めし弁当:甘辛く煮た鶏肉とご飯の定番駅弁
- 峠の釜めし(横川駅発祥):陶器の器に詰められた名物弁当(高崎駅でも販売あり)
2. 高崎駅 → 小田原駅(高崎線 → 東海道線)
3. 小田原駅で途中観光(小田原城・商店街)
※夕方、小田原駅で夜食用の駅弁を購入
- 鯛めし弁当
- 小田原かまぼこ弁当
4. 小田原駅 → 横浜駅(東海道線・快速)
5. 横浜駅 → 新羽駅(市営地下鉄ブルーライン)
※夜食は車内でピクニック風に楽しむ。




