第30話:恐怖の山手線ゲーム
放課後、のぞみの部屋。
畳の上に青春18きっぷが5枚。そして、集まった5人。
「なあ、みんな。駅名しばりで勝った奴が旅の行き先を決めるってどうかな?」
迂闊がニヤリと悪だくみのような笑みを浮かべ、提案する。
「駅名しばり?」
のぞみは首をかしげる。
「そうだ!山手線ゲーム形式で駅名を順番に言っていく。詰まったら罰ゲーム!どうだ?」
迂闊は得意げに胸を張る。
「あのぉ……罰ゲームって何をするんでしょうか?」
るいが不安そうに尋ねると、迂闊は指を立てて高らかに説明した。
「翌日の学校で俺が考えたヤツを実行!
①先生に『この問題、恋愛で例えてもらえますか?』って真顔で聞く。
②クラスメートの異性に『今日だけ、恋人ってことでいい?』ってお願いする。
③保健室で『恋の病って診てもらえますか?』って頼む。どうよ?」
「それはちょっと…いや、かなり恥ずかしいと思いますが……」
北斗が静かに眉をひそめて言う。
「しかも、のぞみと北斗は鉄道詳しいから、神奈川県内縛りでハンディな!」
迂闊の悪だくみは止まらない。
「えー!なんで私と北斗くんだけそんな縛り!?」
のぞみが頬を膨らませて抗議する。
「だって、実際詳しいだろ?ゲームは公平にしないとな〜」
迂闊はそう言ってほくそ笑む。
「キー、迂闊のくせにムカつく!」
そして──
「じゃあ、始めまーす」
のぞみがパンと手を叩く。
ひよりはポッキーをくわえたまま、静かに座っている。
第1回戦
「横浜!」(のぞみ)
「川崎!」(北斗)
「新百合ヶ丘!」(るい)
「大船!」(迂闊)
そしてそしてひよりの番。
ひよりは無言のままポッキーを右上45度に傾ける。
「ひより、脱落な」
「ちょっと待って!」
のぞみが反対する。
「うんうん、ポッキーの角度が“渋谷”だね!」
のぞみが即座に代弁。
「はぁ!?角度で駅名決めるとか、そんなのありかよ!」
迂闊が机を叩いてツッコミを入れる。
「ひよりちゃん、無口だからさ。
ポッキーで意思表示してるの。今のはぜったい渋谷の角度よ」
のぞみが自信満々に言い返す。
「それ……のぞみ、おまえの勝手な脳内翻訳じゃねえか!」
「ふ〜ん。じゃあこの際、多数決でみんなに聞いてみよっか」
のぞみが微笑む。
すると──
るいがおずおずと手を挙げ、北斗も「僕も、有りでいいと思います」と静かに賛成。
ひよりは無言のまま、ポッキーを上下に動かし、賛同を示す。
「ったく、わかったよ……ひよりは特別枠ってことで……」
「じゃあ次、隣のるいくんからね」
のぞみがるいの耳元に顔を寄せ、小声で囁く。
「“藤沢市にある駅”言って。今ならいける」
「えっ、あ……藤沢駅!」
るいが慌てて言う。
「おいおいおいおい!今の完全にヒント出してただろ!」
迂闊がたまらず立ち上がる。
「るいくん、中学生だし。ちょっとくらいハンディあってもいいじゃん」
のぞみがさらっと流す。
「ずるいって!これ絶対俺が負ける流れじゃん!」
「まあまあ、迂闊くん。のぞみさんの言うように二人は中学生なんですし、少しくらい多めにみてあげてもいいと思いますよ」
北斗が穏やかに諫める。
「くぅぅぅ……!ったく、しかたねぇな……!」
そして次のターン──
迂闊が駅名に詰まる。
「えっと……えっと……あれ?神奈川って……あれ……」
「アウトー!」
のぞみが即座に宣言。
「早くあみだくじ貸せ!」
迂闊は頭を抱えながら紙を広げる。
「おー!出ました!罰ゲームは……①だね」
のぞみがにっこり。
「先生に恋愛で例えてもらえかぁ。
自分で罰ゲーム考えておいてなんだけど、俺、明日社会的に死んだな……」
「僕、迂闊くんの死を最期まで見届けますので安心してください」
北斗が静かに言う。
「安心できるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
迂闊の叫びが部屋に響いた。
第2回戦
「じゃあ、第2回戦ね!」
のぞみが気分良く手を叩く。
「逗子!」(のぞみ)
「茅ヶ崎!」(北斗)
「辻堂!」(るい)
ひよりは無言のまま、ポッキーを真下に向ける。
「これは……“根岸”だね!」
のぞみが即座に代弁。
「また角度かよ!!」
迂闊が力の無いツッコミで呆れる。
ひよりはポッキーを嬉しそうに上下に揺らす。
そして──
「えっと……えっと……あれ?神奈川って……えーと……」
「迂闊、アウトー!」
のぞみが即座に宣言。
「はい、あみだくじ!」
のぞみが待ってましたとばかりに紙を広げる。
「……頼む、②だけはやめてくれ……!」
「おー!出ました!罰ゲームは……③!」
のぞみが悪魔のようににっこり。
「保健室で『恋の病って診てもらえますか?』って!?俺、保健の女の先生に一生顔合わせられないって!!」
「迂闊くんはそういう趣味だって、僕から後で保健の先生にちゃんとフォロー入れときますので安心してください」
北斗がいつもの調子で静かに言う。
「だから余計に安心できねえって……」
最終戦
「じゃあ、これがラストね」
のぞみが宣言。
「磯子!」(北斗)
「藤棚!」(るい)
「……」ひよりはポッキーを左斜め上に傾ける。
「これは……“新杉田”ね!」
のぞみが即座に代弁。
「はいはい、また角度デスネー」
迂闊は魂の抜けたようなため息混じりに皮肉を呟く。
そして──
「えっと……えっと……あ、だめ!」
のぞみがまさかの詰まりを見せる。
「のぞみ、アウトー! うっしゃー!!」
迂闊が満面の笑みで叫び、盛大なガッツポーズを決める。
「まあまあ迂闊くん……最後たまたま勝てたからって大人気ないですよ」
北斗は冷静だ。
「うそでしょ!?私が!?」
のぞみは部屋の隅で体操座りしながら頭を抱える。
「ほら、あみだくじ!」
迂闊が勝者の顔で紙を差し出す。
のぞみが引こうとした瞬間──
「その罰ゲーム、僕が代わりにやります」
北斗が静かに言った。
「え……」
のぞみと迂闊が同時に目を見開く。
「のぞみさん、ちょっといいですか?」
「え、北斗くんどうしたの?」
「実は××××」
北斗はのぞみにヒソヒソと耳打ちをする。
「うん……いいよ」
のぞみはふっと笑って答えた。
それから──
ひよりと北斗とるいは家に帰った。
のぞみの部屋にはのぞみと迂闊、二人だけに。
「ねえ、迂闊?」
「なんだよ」
「明日が楽しみね」
「罰ゲームのことか!全く、おまえって奴は」
「ねえ、ところで……、私たち、肝心の旅の行き先、決め忘れてない?」
「あ……」
次回予告
次回、「不幸だー!」。
教室で三人を待っていたのは──まさかの展開。
迂闊は、北斗は果たして罰ゲームを乗り切れるのか!
そして、のぞみと北斗のヒソヒソ話が意味するものとは……?




