表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/9

第3話:感情の非常停止ボタン

それから……のぞみの学校と家との行き帰りに、迂闊が当然のように着いてくるようになった。

のぞみは最初こそ「迷惑車両」と言い張っていたが、気づけばその存在を“前提”としてルートを組み立てている自分がいた。


そんなある日の放課後。


のぞみは、いつもの帰宅ルートを脳内で再構築していた。


「乗車時間、徒歩4分。乗り換え時間、1分。乗車率、快適。よし、定刻通り」


胸の奥で、いつもの“確認”が小さく鳴る。

遅れなければ大丈夫。

遅れなければ——。


だが——


「なあ、のぞみ。たまには遠回りしようぜ」


隣を歩いていた迂闊が、唐突に言った。


「は?」


「いや、こっちの路線、景色いいんだよ。川沿いでさ、夕焼けとか反射してて。

俺、お前が休みの日に一人で乗っててさ、寝過ごしてたまたま通ったけど……なんか気持ちよくてよ」


「寝過ごして気持ちよかったって……寝坊をしれっと美化して正当化すんな!」


のぞみは、思わず合図笛を取り出しかけたが——

手が止まる。


迂闊が、まっすぐにのぞみを見て微笑んでいたから。


「……遠回りって、たしかに定刻外だよな。

でもさ、たまにはいいだろ?

俺、のぞみと一緒なら、どの路線でも乗ってみたいし」


その言葉に、のぞみの心拍数が再び跳ね上がる。


胸の奥が、ほんの一瞬だけ“ざわっ”と揺れた。

——遅刻したあの日と同じ場所が、でも違う理由で震える。


(……このドキドキ、この路線と私たちが、単線運行してるってこと……?)



ふたりは、川沿いの路線に乗った。

窓の外には、夕焼け。

反射する光が、のぞみの時刻表に差し込む。


「この路線、景色いいな」


「それ、“複線ドリフト”の名所だから。鉄道ファンの間では、ゆ、有名よ……」


迂闊は、鉄道の専門用語を理解していないのに、

不思議と“聞く姿勢”だけは真剣だった。


「へえ。じゃあ、俺たちも今、複線ドリフトしてるってことか?」


「……は?」


「だって、のぞみのルートと俺のルート、今、並走してるじゃん。

でもさ、ちょっとずつ距離が縮まってる気しないか?」


「大丈夫、それは無いわ……あんたのドリフト、制御不能すぎんのよ」


「ツンドラかよ!

はぁ……あんたにツンデレ期待した俺が馬鹿だったわ」


のぞみは、頭の中の時刻表をそっと閉じた。

そして……初めて、感情の“非常停止ボタン”に手を伸ばす。


胸の奥が、また小さく震える。

——押したら、何かが変わってしまう気がした。


「なあ、それ……押したら、どうなるの?」


迂闊は笑って言った。


「え? な、なんでーー!?

私の心の声、なんであんたに聞こえてんのよー!」


「お前って、いつもぶつぶつ独り言を言うし……。

それに、お前の声デカいから全部聞こえてたんだけど……」


「う、うそー!!

もういい、押す!私、絶対に非常停止ボタン押す——!!」


「ちょ、待っ!馬鹿、それ本物だって!!押したらマジでこの電車止まっぞ!?」


震えるのぞみの手が非常停止ボタンに触れかけた、その瞬間——。


迂闊はのぞみの手を取り、

自分のほうへグイっと引き寄せる。


想定もしていなかった、まさかの壁ドンの体勢。

鼓動や瞳の虹彩の輝きが伝わるほどに、至近距離で見つめ合う二人……。


ドクンドクンとのぞみの心臓は粗く脈打ち、

彼女の脳内から“運行管理センター”が警告を出す!


《感情制御システム:非常停止ボタンへの接触を検知。恋愛列車、脱線の恐れあり》


《恋の非常停止ボタン、作動中……》


のぞみの脳内に「車内アナウンス」が流れる。


《まもなく、ドアが閉まります。

ご乗車の方は、お乗り間違えのないようにご注意ください》


《恋の急行列車、まもなく発車しま〜す!》



おまけ


迂闊「俺さ、のぞみと一緒なら、どの路線でも乗ってみたいんだ」


のぞみ「迂闊くん……残念だけど、あんたの路線、まだ私の時刻表には載ってないみたいなんだけど」


迂闊「まだ?……なあ、今『まだ』って言った?」


のぞみ「うっさい!」


つづく



【今週の鉄道豆知識】複線ドリフトって、何だろう?


今回のお話に出てきた「複線ドリフト」、みんなは知ってるかな?

これは、並行して走る2つの線路が、まるで車の「ドリフト」みたいにカーブでグッと離れたり近づいたりする様子を指す言葉だよ。

鉄道写真では、ここぞというシャッターチャンスになる人気の撮影スポットなんだ。

色々な場所にあるから、みんなも探してみてね!

ではまた!



次回予告


次回、「恋の積載オーバー」

迂闊が鉄道知識をツンデレ風に褒める!?

のぞみ、褒められ慣れてない感情が暴走——

信号、全赤。恋の運行、非常事態発生!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ