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第27話:鉄道イケメン舞踏会 サフィール侯爵

※今回は厨二病全開のぞみ一人称視点になります。


瑞風公爵とのダンスを終え、私はふらりと立ち止まった。

心臓の音と腹の音が、まだ暴走列車のまま。

夢の中くらい静かにしてほしいものだが、そうはいかないらしい。

この舞踏会、どうやら鉄道と恋と羞恥が混線している。


会場の照明がふわりと青く染まり、空気が変わった。

また来たか。次の車両。


ゆっくりと歩いてくる青年。

深いロイヤルブルーのタキシードに、胸元にはサファイアのブローチ。

髪は柔らかくウェーブがかかり、瞳は宝石のように澄んでいる。

歩くたびに、彼の周囲だけ空気がきらめいて見えた。


見た目だけなら王子様。

だが、口を開いた瞬間、幻想は崩れた。


「お前の瞳、悪くない。踊るぞ」


……タメ口。しかも命令形。

クールキャラというやつか。

舞踏会での第一声がそれとは、なかなかの車両故障。


「俺はサフィール。踊り子って呼ばれてる。特急並みに速いから、乗り遅れんなよ」


踊り子。列車名。職業ではない。

そして“乗り遅れんなよ”は、舞踏会で言うセリフではない。

この夢、どこまで鉄道に毒されているのか。

というか、私の脳内どうなってる?


私は黙って手を差し出す。

すると、サフィール侯爵は手袋を外し、指先でそっと包み込んだ。

冷たくもなく、熱すぎもせず。

“指定席”のように、ぴったりだった。


彼は私の手を引いて、ゆっくりとダンスの輪へと導いていく。

その足取りは見かけの雰囲気からは意外に静かで、優しい。

定刻に合わせてわざとゆっくり準備しているような気がするが、気のせいだろう。

いや、気のせいであってほしい。


音楽が変わる。三拍子。

ステップは水面を滑るように軽やか。

身体が自然と動き出す。

夢の中なのに、妙にリアルな感触。

この夢、予算かけすぎでは?


……と思ったのも束の間。

サフィールのステップがどんどん速くなってくる。

なんだよこいつ?

私の足がついていかない。


結果、謎の盆踊りが始まった。


私の手は優雅に、しかし足は田舎の夏祭りだ。


この動き、恥ずい。お願い……誰か止めて。


すると背中に手が添えられる。

その瞬間、私の口が勝手に動いた。


「ちょっとぉ〜ん♪」


……私は口うるさいご近所のオバハリアンか。

しかも声色が絶妙に裏返ってこの上なくキモい。

自分で自分の反応に驚いた。


「は……?」

サフィール、まあ当然そう反応するわな。



会場が静まり返る。


死にたい……。


しかし、サフィール侯爵は眉ひとつ動かさずに言った。


「お前の反応、さては急ブレーキのつもりだな?」


それ、無い。どういう感性してたらそこにブレーキでてくんの?


「ま、俺の運転は定速だけど……」


定速。

この男、どこまで鉄道の速さで押し通すつもりなのか。

むしろそのブレなさ、ちょっと尊敬する。


「お前の心、指定席にしてもいいか?」


指定席。

座りたい。

こちとら、あんたに急かされて足クタクタなんだ。

むしろ今すぐ座らせてほしい。

できれば個室で。

あと、トイレ付きだとありがたい!


脳内にふかふかの座席が回転しながら浮かぶ。

気づけば、私は本当に座りかけていた。

もちろんサフィールの両手をイスにして……、

「どっこいしょういち」とこしかける私。


「お前……何してんの?」


「いや、指定席って言ったから……」


「俺の手、座席じゃねぇぞ」


「え、でも座り心地よかったし……」


「褒めるな」


……私は何をしているんだ。

夢の中でまで、座り心地をレビューしてる場合か。

しかも星5つ。


そして、ふと周囲に目をやると——

背景の貴族たちが全員、変装を捨てて駅員姿に。

駅員のいい歳したオッサン達がみんな真顔でこちらに向けて拍手してくる。


こいつら誰一人顔が笑っていない。

たぶん、拍手の訓練だけで3ヶ月かけてる。


何この罰ゲーム?


笑えよ……お願い、笑って?


その瞬間——


ぷぅぅぅ……


下半身から、ベルが暴発。

そして、遂に今まで必死に我慢していた排気音がっ!

夢の中でさえ、羞恥は容赦なく襲ってくる。


サフィール侯爵は眉ひとつ動かさず、静かに言った。


「……排気音を確認した。お前、普段から車両点検しとけよ」


「えっ!?あ、これはたぶん偶然!

きっとそう!」


笑顔を作るが、顔が引きつってしまう。

お願いだから、早く終点に着いてくれ。

そもそもこの夢、長すぎんか?


私は、サフィール侯爵の腕の中で、ぎこちなく踊り続けた。

背筋は伸ばしているつもりだが、内心は崩壊寸前。

シュールな雰囲気の中、羞恥心というレールの上を、心臓と腸が同時に暴走している。


彼の瞳は、相変わらず宝石のように澄んでいる。

その瞳が、何もかも見透かしているようで、怖い。


でも、ちょっとだけ——ほんの少しだけ——ときめいている自分がいる。

排気音を出した直後なのに。

ときめく神経、どうかしてる。

でも、夢だから許される。

……たぶん。


夢って、ほんと自由。

私の羞恥心も、たぶん無賃乗車してる。


夢の中の私は、どうかしている。

まあ、現実の私は、もっとどうかしているが……。



次回予告

次回、「あと一枚、誰乗せる?」。

鉄道舞踏会の夢から目覚めたのぞみ、現実は青春18きっぷの乗車メンバー選抜会議!

迂闊と北斗を誘い、放課後はひよりも合流。

のぞみの部屋で旅行プランを広げながら、最後の一席をめぐって議論は脱線寸前!

友情?恋?それともツッコミ枠?

次回、日常編も感情フル乗車で発車します!


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