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第24話:父からの乗車案内

ある日曜の夕方。窓の外は、少しだけ秋の気配をまとっていた。

風がカーテンを揺らし、遠くで犬の鳴き声が聞こえる。

のぞみはリビングのローテーブルにうつ伏せになりながら、いつものように時刻表を広げていた。


ページの隅には、色褪せた付箋が何枚も貼られている。

ペンを持ったまま、何度も同じページをめくっては戻り、まためくる。

その手が、ふと止まった。


「……」


何かを書こうとしていたはずなのに、言葉が浮かばない。

最近、ブログの更新も滞っている。

書きたいことはあるはずなのに、うまく形にならない。

誰かに読まれているのかも、もうよくわからない。


そのとき、キッチンから湯気の立つマグカップを持った父がやってきた。

のぞみの隣に腰を下ろし、そっとマグを置く。

カップの縁から、ふわりとコーヒーの香りが漂った。


「お疲れさん。……ブログで悩んでるのか?」


父の声は、いつも通り穏やかだった。

のぞみは少しだけ顔を上げて、苦笑する。


「うん……ちょっとね。最近、うまく言葉が出てこなくて」


「そうか。まあ、そういう時もあるさ」


父はマグを手に取り、ひと口飲んだあと、ポケットから小さな封筒を取り出した。

封筒は少し折れていて、角が丸くなっていた。


「そうだ。これ、会社の後輩が“使いそびれたから”って譲ってくれてな。よかったら使ってみるか?」


のぞみが封筒を受け取って開けると、そこには見慣れた切符が入っていた。

——青春18きっぷ。未使用の5回分。


「えっ……これ、ほんとにいいの?」


「もちろん。高校生のうちにしかできない旅ってあるだろ。

時刻表ばっか見てるお前が、実際に乗ってみるのも悪くないと思ってな」


のぞみは、時刻表をそっと閉じた。

紙の端が、少しだけ温かく感じた。

父の言葉が、静かに胸に染みていく。


「ありがとう、お父さん。

うれしい……ありがたく使わせてもらうね」


「おまえなら、そう言うと思ったよ」


父はマグを手に取りながら、窓の外を見た。

風が少し強くなって、木の葉が揺れている。


「誰とどこに行くかは、お前たちで決めなさい。

友達と計画を立てて乗ってみるのも、きっと楽しいぞ」


「うん」


のぞみは、少しだけ笑ってうなずいた。

父の言葉は、いつも急がない。

でも、ちゃんと届く。


その夜、のぞみはブログの下書きを閉じた。

何度も書き直していた文章は、もう触れなくていい気がした。

代わりに、新しいノートを開く。


ページは真っ白だった。

タイトルはまだ決まっていない。

でも、のぞみはペンを持って、ゆっくりと一行目を書いた。


『青春18きっぷ:5人分の空席あり』


書き終えたあと、のぞみは少しだけ考え込む。


「誰に一緒に来てもらおうかな……。

私と、迂闊と、北斗くん、ひよりちゃんも……これで四人。

あと一人は、どうしようかな……」


窓の外では、風が止んでいた。

その静けさの中で、のぞみの胸の奥に、小さな期待がふくらんでいく。


「まだ誰にも言ってないけど……この旅、絶っっっっ対楽しいやつ!」


次回予告

次回、「鉄道イケメン舞踏会 ラビュー卿」

銀髪イケメンが“特別車両”でのぞみをダンスにご案内!?

途中下車禁止のときめき暴走、読者のツッコミ乗り遅れ厳禁です!

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