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第22話:ありがとうの発車ベル

のぞみの部屋の前。

迂闊は、深く息を吸い込んだ。

濡れた髪からは、まだ雨の匂いが残っている。

手の中には、のぞみに突き返された記念切符。

それを、もう一度だけ、ちゃんと渡したいと思っていた。


「のぞみ……ごめん」


声は小さく、でも真っ直ぐだった。

ドアの向こうで、気配が動いた。


ゆっくりと、ドアが開く。


のぞみは、目を赤くしながら立っていた。

顔はむくんでいて、声を出すのも少し苦しそうだった。


「あんたがお父さんと話す声、私の部屋まで聞こえてたよ」


その言葉に、迂闊は少しだけ目を伏せた。


「そりゃね、欲しくても手が届かなかったものが安く買えるのは、私だって嬉しいよ。

でもさ……やっぱ言い方ってあるじゃん?」


「……のぞみ」


「でも……私こそ、わがまま言ってごめん。

だけど、それだけはあんたにもわかってほしかったんだ」


のぞみは、そっと手を差し出した。

その手は、少しだけ震えていた。


「だからもう私達……仲直り……しよ?」


迂闊は、ゆっくりとその手を握った。

その瞬間、のぞみはふと違和感を覚えた。


「……あれ? 迂闊の指、なんかガサガサしてない?」


顔を上げると、迂闊の目の下に、うっすらとクマが浮かんでいた。

いつもは眠そうなだけの目が、今日は少し赤く、疲れて見える。


「……もしかして、寝てないの?」


迂闊は、少し照れたように笑った。


「いや……チケット探し方とか何もわからなくってさ。

ネットで調べてたら時間かかっちゃって。

骨董屋も回って、最後は代引きでネット注文して、駅前のチケット屋で買えたけど……

なんか要領悪くてごめん」


のぞみは、迂闊の目と手を見つめたまま、言葉を失った。

そのチケットを触りすぎてカサカサになったであろう指先と、目の下のクマ。

それは、自分のために費やされた時間の痕跡だった。


「……バカ。あんた、ほんとに……バカ」


のぞみは、涙をこぼしながら笑った。

その笑顔は、少しだけ照れていて、でも確かにあたたかかった。


「でも……ありがと♪」



迂闊は、そんなのぞみの言葉に何も言わずに頷いた。

この手は、もう絶対に離さない。

迂闊はそう誓った。


次回予告

次回、「ふたり発車、虹の架線をくぐって」。

雨が止み、ふたりは並んで歩き出す。

記念切符に込められた“気持ち”が、未来への乗車券になる——。

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