表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/23

第20話:紙切れと、涙の値段


「……あんたなんか、絶交よ!」


のぞみの声が、教室の空気を切り裂いた。

その言葉は、冗談でもツッコミでもなく、真っ直ぐに迂闊の胸を撃ち抜いた。


次の瞬間、のぞみは記念切符を迂闊の胸に突き返した。

その動作は、まるで“思い出”を拒絶するように鋭かった。


「これ、返す。……私、こんなの欲しかったんじゃない!」


手渡された切符は、迂闊の手の中で軽く震えていた。

その紙片が、急に重く感じられた。


のぞみは走り去る。

足音が廊下に響き、空が急に暗くなった。

窓の外に、雨粒が落ち始める。

線路の向こうに、雷が落ちた。


迂闊は、教室の真ん中に立ち尽くしていた。

手の中には、のぞみに突き返された記念切符。

それが、やけに冷たく感じられた。


(……俺、あいつの気持ちを……クソっ!)


胸の奥が、じわじわと痛んだ。

のぞみの涙が、頭の中で何度もリピートされる。

「安く買えた」——その一言が、どれだけ無神経だったか。


(俺、あいつが大切にしていた“思い出”に、値段をつけちまったんだ……)


教室の静けさが、急に冷たく感じられた。

窓の外では、風が止まり、空が少しだけ暗くなったように見えた。



翌日も雨。

のぞみは学校を休み、自室のドアの前で体育座りしていた。

膝に顔を埋めて、シクシクと泣いている。

部屋の中は静かで、時計の音だけが響いていた。


「お母さんとの思い出を、あんなふうに言うなんて……許せない!」


あの切符は、のぞみにとって母と過ごした最後の夏の証だった。

それを「安く買えた」と言われた瞬間、思い出まで値引きされたような気がして、胸がきゅっと締めつけられた。



その頃、迂闊は切符を買った駅前のチケット屋の前を通りかかっていた。

雨に濡れたアスファルトが光っていて、店のガラス越しに見えるカウンターは静かだった。

店内の蛍光灯が、雨粒に滲んでぼんやりと揺れていた。


「おや、この前のお兄ちゃんだね!

チケットのプレゼント……反応、どうだった?」


店員が気づいて声をかけてくる。

迂闊は、なんとなく立ち止まり、傘を閉じたまま話を聞いた。




「そうだったのか……。気まずいことを聞いてしまってごめんね」


「そんな……伝え方を間違えた俺のせいですから!」


店員は、カウンターの奥に視線を落としながら言った。


「この仕事してるとね、目的はみんなそれぞれで……

“紙”の向こうに、いろんな人生が見えるんだよ」


その言葉が、迂闊の胸に刺さった。

のぞみの顔が浮かぶ。

あのときの涙。あの声の震え。


(……俺、あいつの“人生の一部”を、ただの紙切れとして扱ってしまったんだ。最低だ)


迂闊は走り出す。

土砂降りの中、傘をどこかへ置き忘れたのも気にせず、真っ直ぐにのぞみの家へ向かう。

シャツはすぐに肌に張り付き、靴の中まで水が染みていく。

でも、立ち止まる気にはなれなかった。


次回予告

次回、「このホームから先は君の番」。

のぞみの部屋の前、迂闊が差し出すのは、紙切れじゃなく“気持ち”そのもの。

雨上がりの空の下、ふたりのダイヤは再び重なり始める——。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ