第2話:乗り換えミスは恋の始まり
登場人物プロフィール
余裕院 宇勝
• 17歳。遅刻魔男子。
• 時刻表は「紙の無駄」と言い切る。
• 口癖:「電車って、乗れたらラッキーじゃん?」
• あだ名:迂闊
朝の通学路。
のぞみは、乗り換え案内を脳内でリアルタイム更新しながら、最短ルートで駅を目指していた。
「乗車時間、徒歩3分。乗り換え時間、1分。完璧」
その“完璧”という言葉に、自分でも気づかないほど小さな緊張が混ざる。
遅れた瞬間に胸がざわつくのは、もう癖になってしまっていた。
しかし——
「おーい、のぞみー!」
振り返ると、制服のネクタイがまだポケットにいる男子が、寝癖を風に乗せて隣のホームから手を振ってくる。
(げぇ、迂闊!? あいつ……なんでそこに!?)
「いや、隣の家だし。俺、いつも自転車だけど、今日はあんたと行こうとついてきたら、なんか改札通らずホームまで来れた」
「それ、無賃乗車ですから」
のぞみは呆れながらも、念のために運行図を確認する。
(やっぱり……ね。
つまり——こいつの通学ルート、“盲腸線”だ…!)
「はぁ……しょうがない。
このバカのために一本ずらすしかないわね……」
“遅れる”という言葉が頭をよぎり、胸が一瞬だけ冷たくなる。
のぞみはその感覚を振り払うように、歩幅を少しだけ早めた。
それでも、迂闊の歩幅が隣に並ぶと、胸の奥がほんの少しだけざわついた。
前途多難なトラブルに遭いながらも、無事のぞみと同じ電車に乗ることができた迂闊は、座席にドカッと座り、スマホを取り出す。
「さっきのホームから、乗車できると思ったら違ったぜ。失敬失敬!
ところであの路線……『膀胱炎』っていうらしいな」
「違う。お前だけ駅にたどり着けんで勝手に一人でオシッコもらしとけ!」
「なに、違うのか?」
「当たり前だ! “盲腸線”! つまり、《《行き止まり》》! わかった?」
しかし、その直後……。
「のぞみ……さぁ。声、デカ過ぎくね……?」
「え……!?」
…………。
車内はしんと静まり返る。
のぞみの《《勝手におしっこ漏らしとけ》》発言は、車両全体に響いていた。
のぞみの顔が一気に熱くなる。
その瞬間、胸の奥がまた“ざわっ”と揺れた。
——遅刻したあの日も、こんなふうに周囲の音が急に遠くなった。
(やだ……また、変な感じ)
そんなのぞみに向かって、迂闊は笑いながら言う。
「まあ……でもさ、のぞみと一緒に乗ってると、なんつーか俺……楽しいんだよね。
俺、乗り換え下手だけど、あんたの隣の席は、不思議と乗り心地いいんだ」
その言葉に、のぞみの心拍数が跳ねあがった。
(このバカ、乗り換え下手の遅刻常習犯なのに……
私の心臓、なんで一瞬ドキッとしたの?
私の心、回送列車じゃないのに〜!!)
【今週の鉄道豆知識】盲腸線って、何だろう?
今回のお話に出てきた「盲腸線」は、終着駅が他の路線と繋がっていない、行き止まりになっている路線のことだよ。
人間の盲腸に似ていることから、鉄道ファンの間でこう呼ばれるようになったんだ。
正式な用語じゃないけど、みんなも路線図を見るときは探してみてね。
ではまた!
次回予告
次回、「感情の非常停止ボタン」
迂闊が「たまには遠回りしようぜ」と言い出す!?
のぞみ、初の“定刻外”行動へ——
感情の非常停止ボタン、作動なるか!




