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竜帝は番に愛を乞う  作者: 浅海 景


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反対

「人族の番を陛下の伴侶として認めるわけには参りませぬ」

決然とした強い口調に、ルーは目の前が真っ暗になったように感じた。



ドレス姿のルーを気遣って、アレクシスはゆっくりとした歩調で城へとエスコートしてくれた。

アレクシスの瞳の色に合わせたドレスは、白菫色から菫色へのグラデーションとなっており、歩くたびに見え隠れするアレクシスの色についつい視線が向いてしまう。


くすりと笑う気配に顔を上げると、優しい菫色の瞳が愛しくて堪らないと言うように蕩けている。

そんなアレクシスの耳元で光るピアスは黄色がかった薄茶色のダイアモンドだ。希少な宝石だが地味な色なので、竜帝に相応しい装飾品ではないと思うが、アレクシスはルーの瞳の色に一番近いからと愛用している。


そのピアスと対になるようなブラックダイアモンドをあしらったネックレスをルーは身に付けていた。耳に穴をあけるピアスはもちろん、イヤリングでさえも長時間使用すると耳を傷める可能性があると懸念を示されて、ルーが身に付けているのはネックレスだけだ。


指輪も用意しているらしいが、それはルーが固辞した。古参の竜族たちは儀礼を重んじると聞いていたので、顔合わせの前に堂々と婚約者である証を身につけるのは相手を蔑ろにしていると捉えかねられないと思ったからだ。

城に入ると人の姿はなく、もしかして事前に人払いをしてあるのだろうか、と考えられる程度の余裕はあった。


応接間に入った途端、空気が変わりルーの緊張は一気に高まる。


室内にいた4人の男性は片膝を付き深々と頭を下げているのに、探るような気配を感じて圧倒されそうになっていると、アレクシスから椅子に座るよう視線で示された。


「改めて私の番を紹介しよう。ルー・エメリヒ嬢だ」


アレクシスの言葉にそのまま顔を上げた男性のうち、一人だけアレクシスと同じぐらいの若い青年の姿だった。濃紺の髪色と透き通った空のような瞳が、品定めするように細められた気がして、ルーは慌てて目を逸らす。

折よく一番端にいた男性が小さく一礼したのを見て、そちらに視線を向ける。


「陛下、番を得られましたことは本来慶事ではございますが……」


一旦声を切った男性は、ルーを一瞥する。その視線は決して好意的なものではない。


「人族の番を陛下の伴侶として認めるわけには参りませぬ」


自分でも思いがけないほどのショックを感じて、ルーは反射的に俯いた。これまでアレクシスの使用人たちから否定的な視線や言葉を感じていなかったため、緊張しながらもどこかで楽観視していたのだろう。

最悪の事態を想定出来ていなかったルーの頭に様々な思いが駆け巡る。


「私の大切な番に、何か不満があるとでも?君たちがどう思うと彼女が私の唯一であることは変わらない」


冷ややかで抑揚のない声に空気は凍り付き、ずしりと重い気配が隣から漂っている。

思わず膝をついて許しを請いたくなるほどの威圧感は息苦しいほどだった。


「陛下、お気を鎮めてください。番様が怯えていますよ」


はっとしたようにルーを見たアレクシスの瞳に後悔と不安が揺らいでいる。

大丈夫だという代わりに首を横に振ると、アレクシスは小さく息を漏らしそっとルーの手を握りしめた。


「確かに爺様方の言い方は悪かったですけど、彼らの気持ちも汲んであげてくれませんか?先帝陛下にお仕えしていたからこそ慎重に検討すべきだと、こうしてご不興を買うことを承知でお伝えしているのです」


つらつらと語る青年の言葉は真摯なようで、どこか軽薄さをともなった響きを感じられる。


「エドヴィン、庇いたてするなら君も同じ意見だと見做すが」

「まあまあ、陛下。グラフ公の話を最後まで聞いてくださいよ」


エドヴィンと呼ばれた青年が両手を上げて降参のポーズを取ると、強張った表情のグラフ公がぎこちない様子で口を動かした。


「番が何よりも大切な存在ですが、人族はか弱い生き物であることを私どもはよく知っております。陛下にとって番が必要な存在なのかどうか今一度ご再考を」

「ルーは私の番で伴侶だ。再考の余地はない。下がれ」


間髪入れずに否定したアレクシスに、グラフ公は静かに頭を下げた。



「ルー、ごめん。嫌な思いをさせたね」


二人きりになるとアレクシスはルーを膝にのせて背後から抱きしめた。申し訳なさそうな声は胸が痛い。


「アレクのせいじゃないよ。重鎮の方々もアレクを心配しての発言だったのだろうし……」


気にしないでとは言えなかった。容姿や礼儀作法などアレクシスに不釣り合いな部分を指摘される覚悟はあっても、人族であることが反対される理由だとは思っていなかったのだ。

こればかりはどうしたって変えられるものではない。


「先帝陛下の番、私の母は兎族と人族の間に生まれた子だったんだ」


獣族と人族の間に生まれた子であること自体、問題がなかった。だがアレクシスの母、レネは生まれた時から心臓が弱く、成人するまで生きられるか分からないと言われるほど身体が弱かった。

先帝から番として見初められた時、健康を理由に断っても何度も求婚してくる先帝にレネは折れる形で承諾したそうだ。

竜帝の伴侶となり徐々に健康を取り戻すまでになっていたレネは、しばらくしてアレクシスを身籠った。


「先帝陛下は母体に負担が掛かり過ぎるからと、母が子を産むことに反対したんだ。だけど結局母の説得に折れて私を産んで、体調を壊して1年経たずに儚くなってしまった」


それから先帝は喪に服したあと、感情が抜け落ちて人形のようにただ淡々と仕事をこなしながら、アレクシスが成人したと同時に隠居した。

今は、番との思い出を集めた部屋でずっと引き篭もるように暮らしているらしい。


「人族の血が混じっているから虚弱だったと思い込んでいるのだろう。私はもうルーを選んだし、ルー以外の伴侶などいらない。だから側にいて、私から離れないで」


ぎゅっとしがみつくように腰に回された腕に力がこもる。反対されたことでルーが身を引いてしまうと思っているのだろうか。


(それとも、反対されたのが悲しかったのかもしれない……)


そんな風に思って、ルーはアレクシスの手に両手を重ねた。


「私もアレクといたいから、ずっと側にいるわ」


アレクシスの体温を感じながら、ルーはどうしたら古参の重鎮たちに認めてもらえるか考えていた。


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