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竜帝は番に愛を乞う  作者: 浅海 景


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顔合わせ

翌日、朝食後にルーはアレクシスとともに応接間に向かった。

部屋に入ると、使用人たちは一糸乱れぬ動作で深々と頭を下げる。


「顔を上げていい。私の番、ルー・エメリヒ嬢だ。彼女の言葉は私の言葉として聞くように」


注がれる視線の多さに怯みそうになるが、肩に添えられた温もりが勇気をくれる。


「よろしくお願いします」


何とか笑顔を浮かべると、硬い空気が少しだけ和らいだような気がした。前列にいた初老の男性が一歩前に出て、片手を胸に当て一礼する。


「執事を務めておりますクレマンと申します。番様のご到着を使用人一同心待ちにしておりました。ご主人様、番様を得られましたこと心よりお慶び申し上げます」


クレマンはその言葉が本心からものだと分かるような、慈愛に満ちた眼差しを向けている。親しみの込められた気配は、まるで祖父が孫に接するような温かさがあった。


「ありがとう」


アレクシスもまた柔らかな微笑みで返すと、何人かの侍女は顔を赤らめている。無理もない反応だとルーは思ったが、マヤとテレサの表情は冷ややかだ。


「奥様の専属使用人をご紹介いたします。オルガ、カミラ、ご挨拶しなさい」


優美な白い騎士服を纏った凛々しい雰囲気の女性が、歩を進めるとルーの前に跪く。


「オルガと申します。奥様の剣となり盾となることを誓います」


(まだ、妻ではないのだけど……!)


奥様と呼ばれたことはもちろん、初対面なのに騎士の忠誠を捧げられて戸惑うルーに、アレクシスは耳元で囁いた。


「許すと一言声を掛けてあげるといい」


そんな偉そうな、と思ったが、ルーの返事がなければオルガはずっと跪いたままだろう。何も答えないということは、ルーが護衛騎士として相応しくないと判断したことになり、オルガにも恥を掻かせてしまうことになる。


「……許します」


優雅に一礼し一歩下がると、栗色で目がぱっちりと大きな女性が前に出た。


「カミラと申します。奥様の専属侍女として精一杯努めさせていただきますので、よろしくお願いいたします」


咄嗟にマヤのほうを見てしまったルーをアレクシスが宥めるように肩を撫でた。


「マヤはずっとルーの専属だよ。だけど一人じゃ心許ないし、マヤの苦手分野を補う形でもう一人侍女を用意したんだ」


良かったと安堵しかけたが、カミラに対して失礼だったのではないかと思い至り、慌ててカミラの様子を窺うと、静かに頭を下げている。


「カミラ、よろしくね」


カミラが一礼して下がると、アレクシスはルーを連れて部屋を出た。あくまでもルーの顔を認識させるための顔合わせだったので、使用人全員を覚える必要はないということらしい。


「私はこれから城のほうで執務を行うけれど、また迎えに来るからね」


午後は竜族の重鎮たちとの顔合わせが入っている。先代竜帝の頃から仕えている古参の臣下たちだと聞けば、礼儀作法や挨拶の方法などが問題ないか気になってしまう。

エルクセリア行きが決まってから、ルーはテレサに礼儀作法について学び直したいと相談していたが、卒業試験の勉強もあるのでエルクセリアに戻ってから講師を手配してくれることになっていた。


(第一印象が大切なのに、落胆されたらどうしよう……)


よぎった不安を飲み込んで、ルーは笑顔でアレクシスを見送った。



「奥様、それではご準備いたしましょう」


アレクシスと入れ違いに、にこやかな笑みをたたえたテレサが部屋にやってきた。その背後にはマヤとカミラ、そしてオルガの姿があった。


「テレサ、その奥様というのは、まだ早いんじゃないかしら?以前の呼び方か、名前で呼んでもらってもいいのだけど」


番様というのはあまり好きではないので、名前で呼んでもらうのが一番いいだろう。そう思っていたのに、テレサは毅然とした表情で首を振った。


「ご主人様の大切なお相手の名前など、恐れ多くて呼べませんよ。私たちであれば多少は大目に見てくださるのでしょうけど、男性の使用人が呼べば馘首されてしまうかもしれません」


だからこれまでもお嬢様と呼んでいたのだと言われて、ルーは唖然とした。


「番を得た者は狭量になりがちです。特にご主人様は想いが通じ合ったばかりで、しばらくは気持ちが昂った状態かと思いますので、あまり刺激しないほうがよろしいかと」


マヤの言葉にカミラとオルガも頷いている。

穏やかな性格のアレクシスがそんなことをするだろうかと思ったものの、ルーはすぐに忘れてしまった。

それどころではなくなったからだ。


(気持ちよかったけど、恥ずかしかった!!)


まずは肌の状態を整えるためにと二人掛かりで頭の先からつま先までピカピカに洗われ、お風呂上りには香油を使って全身をもみほぐされた。おかげでスッキリしたが、恥じらいなどどこかに行ってしまったような気がする。


高位貴族であれば当たり前のことなのかもしれないが、男爵家で使用人のような生活をしていたルーにとって、他人に身体を洗ってもらう経験すらなかったのだ。

アレクシスの元に身を寄せてからも、慣れていないからという理由で断っていたのだが、アレクシスの未来の伴侶としてエルクセリアに来た以上は、そういう待遇にも慣れる必要があるとテレサから告げられた。


「マヤさん、あまり色を重ね過ぎるとかえってドレスを台無しにしかねません」

「装飾品については最低限で構わないので、胸元を飾るネックレスだけ合わせましょう」

「髪はハーフアップにしてまとめたほうが、首周りがすっきりするわね」


ドレスについてはカミラの得意分野らしく、幾つかのドレスの中から1つに絞ると、マヤやテレサの意見を聞きながらも装飾品やリボン、靴などを合わせていく。


そうして準備が整いお茶を飲んでいると、アレクシスが戻ってきた。


「……ルー、綺麗だよ。いつも可愛いけどそんな風に着飾った姿も愛らしいね。はあ、どうして他の男に見せるために連れて行かなければいけないのだろう……」


満面の笑みを浮かべたかと思うと、悩まし気な表情でそんなことを言い出したアレクシスに恥ずかしさよりも嬉しさが勝る。


「アレクの番だって紹介してもらいたいから、連れて行ってもらえないと困るわ」

「……抱きしめられない時に限って、どうしてそんな可愛いことを言うのかな。……可愛くて狡い」


ちょっと良く分からない理由で顔を覆いうずくまってしまったアレクシスに、ルーはどうしたら元の状態に戻ってもらえるのか頭を悩ませたのだった。

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