告白
随分と早い返事に驚いていると、クレイが焦れたような目でルーを見つめている。真実を知りたいと思う気持ちは、お姫様を案じるクレイの方が強いのだ。
それなのにルーに届いた手紙だからと開封することなく、それでもいつ来るか分からないルーを待ち続けることが出来ず屋敷までやってきたのだろう。
「良かったら一緒に読みましょう」
ルーが読む間待たせるのも悪いとそう提案すれば、きゅっと眉を寄せたものの反論の声は上がらず、首肯した。
クッションを間に挟んで横に座り、慎重にペーパーナイフで開封する。
時候の挨拶を省いた手紙は丁寧な謝罪から始まり、竜帝と婚約を結んだことはなく事実無根であること、可能であれば直接会って謝罪の上、誤解を解きたいという旨の内容が綴られていた。
無言で手紙の内容に目を通したあと、ルーはそっとクレイの様子を窺う。
一度だけでなく二度、三度と目を通したあと、クレイは大きく息を吐いた。
「……僕が間違っていたみたいだ。番様には申し訳ないことをしたと反省している。ごめんなさい」
クレイの認識と異なる内容にどんな反応を示すかと心配していたが、自分の非を認め素直に頭を下げられて、ルーはどんな反応を示して良いか分からず戸惑ってしまう。
「私のことは気にしなくていいけど、クレイは大丈夫?」
「うん。あの方が今どんな心境なのかは分からないけれど、手紙を書ける程度には健やかでいらっしゃることが分かったから」
眉を下げたまま力なく笑うクレイを見て、ルーも小さな笑みを浮かべる。手紙を書いたことで余計な波風を立てる可能性もあったため、本当に良かったと胸を撫で下ろす。
誤解が生じた原因はお姫様に会って話をすれば解決するだろう。
部屋の扉がノックされたのは、ルーが日程について言及しようとした時だった。
「ルーの友人が来ていると聞いたので挨拶をしておこうと思ってね」
そう告げたアレクシスの微笑みは何故か氷のように冷たく感じられて、ルーは目を瞬いた。気のせいだろうかとクレイを見ると、顔色が紙のように白い。
「ルー」
手を差し出されて反射的に手を重ねると、そのまま引き寄せられたかと思うと身体が浮く。
くるりと半回転するように抱き上げられ、そのまま対面のソファーへと座った。尤もルーはソファーではなくアレクシスの上だ。
「あ、アレク……」
「友人であっても異性相手に距離が近すぎるのは良くないね。そう思わないかな?」
アレクシスの声は穏やかだが、クレイは表情を強張らせたまま動かない。
「おや、返事がないね。君がルーを友人と見做していないという意味だと捉えても?」
「――そ、そのような……ことは決して、ございません。申し訳ございません!」
震えながら絞り出すような声で告げたクレイは、アレクシスの視線から逃れるように頭を下げ続けている。以前クルトやメリナから庇ってくれた時のような剣呑な気配はないものの、張り詰めた雰囲気にルーは堪らず声を上げた。
「アレク、ごめんなさい。一緒に見たいものがあって私が隣に座ってしまったの。クレイのせいじゃないわ」
「……ルーが自分で側に……」
「…………ひっ!も、申し訳ございません!僕が悪いんです。僕が番様に余計なことを言いました!」
ルー以上に耐え切れなくなったのか、クレイは怯えたように身体を震わせながらも、これまでのことを包み隠さず打ち明けたのだった。
「君はルーが私の番だと知っていて、傷つけようとしたのだね」
「……はい。心得違いで番様には申し訳ないことをしたと思っております。ただこれは私が勝手にしたことで、かの方は一切関係ございません」
淡々としたアレクシスの口調には不快さが滲んでいて、クレイはびくりと肩を震わせたもののしっかりとした口調で答えた。
「誤解があっただけで、危害を加えられたわけでもないわ。だからクレイを咎めないでほしいの」
クレイのおかげで自分の気持ちと向き合い、アレクシスへの想いに気づくことが出来たのだ。だがルーの言葉にお腹に回された腕に力がこもり、苦しげな吐息が落ちる。
「っ、アレク!マヤ、お医者様を呼んでちょうだい」
「医者なんて必要ないよ。私が必要なのは……」
耳元で告げられる声は辛そうに掠れていて、熱を帯びている。再び浮遊感を覚えたかと思うと、ルーはアレクシスに抱えられていた。
「アレク、下ろして!体調が悪いのに、無理をしては駄目――」
「嫌だ」
いつになく乱暴に私室の扉を開けたアレクシスだが、壊れ物を扱うかのように慎重にルーをソファーに下ろす。自分のことよりもアレクシスをベッドに寝かせるほうが先だと立ち上がりかけたが、アレクシスはルーの手を取って跪いた。
「ルー、どうしたら君は私のことを好きになってくれる?ルーが望むことを何でも叶えるからどうか私を選んで。どうしようもないくらい君を愛しているんだ」
懇願するような眼差しとともに指先に口づけが落とされた。熱を帯びた菫色の瞳が鮮やかで、ぞくりとするような色気が漂っている。
アレクシスの言葉を理解するよりも先に、視線から伝わる想いに頬がかっと熱くなり、心臓が早鐘を打つ。
「わ、私もアレクが好き!」
贈り物と一緒に想いを告げるつもりだったが、きちんと想いを返したい。そう思ったのに、アレクシスは何故か憂いを帯びた表情で目を伏せた。
「……ごめん、暴走した。無理強いをするつもりはなかったのに」
離れかけた手を咄嗟に握りしめると、アレクシスは驚いたように目を瞠った。
「無理強いなんてされていないわ。ずっと側で寄り添って愛情を注いでくれたアレクが好きよ。自分に自信がなくて、気づくのに時間が掛かったけど、私にとってアレクは誰よりも愛しい大切な存在なの」
逃げていたばかりのルーの言葉をすぐに信じてくれなくても構わない。今度はルーがアレクシスに愛情を伝える番なのだ。
「……ルー、本当に?後で間違いだったと言われても知らないからね」
返事の代わりに微笑むと、不安そうにしていたアレクシスの表情が蕩けるように甘くなり、頬や額にたくさんの口づけを降らせたのだった。




