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竜帝は番に愛を乞う  作者: 浅海 景


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婚約者

翌日、カフェテリアでルーは周囲を見渡した。


昨日クレイに買い物に付き合ってくれたお礼を伝えたところ、それなら一緒に昼食を摂ろうと誘われたのだ。

それがお礼代わりになるのかと困惑したものの、クレイは返事をする前にさっさと立ち去ってしまった。


「番様、マヤちゃん、こっちだよ」


大きく手を振るクレイの隣には、渋面を浮かべたブルーノが立っている。思わずマヤを見るとこちらも同じような表情だ。


「クレイ様、あの、こちらの方は――」

「クレイって呼んでよ。ブルーノはマヤちゃんと親戚なんだってね。せっかくだから一緒にと誘ったんだよ。駄目だった?」


本人の前で駄目だとは言いづらいが、マヤには嫌な思いをして欲しくない。


「ごめんなさい。駄目ではないけれど今回は――」

「良かった。じゃあ一緒に食べよう」


ご遠慮させてください、と続けようとしたルーの言葉を遮るようにクレイは朗々と告げる。流石にこれは故意だろうと断ろうとしたが、クレイだけでなくブルーノも大人しく腰を下ろした。この状況では立ち去るのは感じが悪く、またお礼代わりであるのに拒絶するのは良くないだろう。


「お嬢様がお嫌でなければ、私は問題ありません」


マヤのその一言でルーは申し訳なく思いながらも、席に着いたのだった。


食事中も賑やかなのはクレイだけで、ブルーノは視線こそルーたちに向けているが終始無言であり、マヤはルーの世話に専念している。

そうなると必然的に相槌を打つのはルーになる。


授業内容から最近の流行など、クレイは話題に長けていて退屈しないもののやはりどこか空気が重い。

慣れないながらも話題を振ったり、質問を返したりとそちらに専念しているとマヤから食事を摂るように促されたが、あまり食べる気にもなれずマヤにお願いして食べてもらう。

食事も終わり、そろそろ失礼しようと考えていた時、クレイが徐に切り出した。


「マヤちゃんとブルーノは喧嘩でもしているの?番様は僕が見ているから話をしておいでよ。番様もそう思うでしょう?」

「え……ええ。マヤがそうしたいならだけど」


うっかり返事をしてからマヤの様子を窺うと、少し間が空いてから首を横に振った。


「話すことなどございませんし、ルー様のお側を離れるわけにはまいりません」

「そこのテラス席なら声は聞こえないけど、目は届くでしょう?さっきから番様に気を遣わせてるし、そういうのは侍女としてあまりよろしくないんじゃない?」


痛いところを突かれたように、マヤは僅かに俯き唇を噛む。ブルーノはそんなマヤをじっと見つめた後に、口を開いた。


「話があるから少し時間を取って欲しい。番様、貴女様の侍女をお借りすること、お許しいただけないでしょうか?」

「マヤ、私のことは気にしないで。もし話を聞きたいならそうして欲しいわ」


逡巡する素振りを見せたマヤだったが、すぐに戻りますと告げてからテラスへと移動した。もしかしてクレイが昼食を摂ろうと言いだしたのは二人の関係を案じてのことなのだろうか。

そう考えた矢先のことだった。


「過保護だねえ。まあ陛下の大切な番様だから無理もないけど、可哀そうだよね」


変わらない口調なのに少しだけ温度が下がったような気がして、ルーはクレイの言葉の意味を推し量ろうとじっと見つめた。


「番様は天然なのかな?さっきもマヤちゃんに昼食の残りを押し付けていたよね。あれ、自分は小食だけどマヤちゃんは大喰らいだって言っているようなものじゃない。体型とか気にする年頃の女の子なんだから、そういうの止めたほうがいいよ」


思わぬ指摘にルーの頭は真っ白になった。いつもそうしていたし、マヤも気にした様子もなく気にしたことなどなかったのだ。


「違っ……私、そういうつもりじゃ……」

「慌てなくていいよ。僕は分かっているけど、他の人だったら誤解されちゃうかもって話。それより陛下に贈り物は渡した?僕も手伝ったから反応が気になってさ」


唐突な話題転換に咄嗟に反応できず言葉に詰まった。先ほど感じた冷やかさは気のせいだったのだろうかと思いながら、強張った口を何とか動かす。


「ごめんなさい。まだ、渡せてなくて……」

「もしかして刺繍入れたりするの?恋人や想い合った婚約者にはそういうひと手間を掛けることが多いらしいね」


まだ心臓がどくどくと脈打っているが、表情に出さないようそっと息を吐く。クレイはルーを非難したわけではないし、忠告をしてくれたに過ぎない。


「あまり上手ではないし、あのデザインに重ねるのはちょっと難しい気がして」

「だよね。得意じゃないなら今後もやめた方がいいよ。比べられるのは嫌でしょう?」

「え……?」


職人と素人を比べるはずがない。だがそうすると一体誰と比較されるというのだろう。


「あ、もしかして番様は知らないの?うわっ、僕としたことがやらかした!」


ぎゅっと眉を寄せて、しまったという表情を浮かべるクレイにひどく嫌な予感がした。それなのにルーの口からは勝手に言葉がこぼれる。


「何のこと……?」

「あのさ、僕から聞いたって絶対言わないでね。多分、誰も口にしないだろうから教えてあげるけど、公になっていないだけで陛下には婚約者がいたんだよ。優しくて聡明で、陛下の隣にいても遜色ない綺麗なお姫様。でも番が見つかったから婚約は無効になったんだ。可哀そうだよね」


知らされた事実を前に表情を取り繕う余裕もなく、ルーの耳にクレイの言葉がいつまでも繰り返されていた。


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