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竜帝は番に愛を乞う  作者: 浅海 景


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買い物と同級生

みんなは優しくしてくれるのに、ルーが上手く出来ないから迷惑ばかり掛けている。

家族に別れを告げたことで、強くなったと勘違いしていたのだ。アレクシスがいなければ口答えすることなど出来ず、ずっと家族の顔色を窺いながら生きるしかなかったのに。


番になったら何をしないといけないかと聞いた時、アレクシスはただ愛されていればいいと言った。

それならばルーはその通りにするべきなのだ。


「アレク、おはよう。……昨日はごめんなさい」

「謝ることなんてないよ。ルーを悩ませてしまったけど、私のために考えてくれたことは嬉しかったからね」


アレクシスの返事にルーは笑顔を作った。責められないことが逆に心苦しいことがあるのだなと心の片隅で思う。

だけどいつもメリナは笑っていたから、ルーも同じようにしようと決めた。

そうすればきっとアレクシスは喜んでくれるから。


「お嬢様、おかげで父と話をすることが出来ました。ありがとうございました」


馬車に乗り二人きりになると、マヤがそう切り出してきた。その口調は淡々としつつも、どこか晴れやかな響きがあった。


「私は何もしていないけど、マヤが元気になって良かったわ」

「まだ少し心の整理が必要なのですが……自分の中で区切りがついたら、話を聞いていただけますか?お嬢様には知っていて欲しいと思うのです」


躊躇いがちな声と僅かに強張った表情から、マヤが緊張しているのだと分かった。半ば無意識にルーはマヤの手に触れて大きく頷いた。


「無理をしなくていいけど、マヤが話してくれるなら嬉しいわ」

「はい、いつか必ず」


マヤの返事を聞いて、少しだけほっとする。自分のことは上手くいかなくても、マヤの問題が解決したのなら、それは喜ばしいことだ。


「今日の帰りに、少し街に寄っても大丈夫かしら?昨日アレクに渡せなかった贈り物を買いたいのだけど」

「勿論です。ご主人様はお喜びになりますよ」


ファビアンが教えてくれた物を贈ればいいのだ。難しいことなんて何もない。

それなのに、ハンカチ一枚にしても予想以上に豊富な品揃えを前に思い悩む羽目になるとは思ってもみなかったのだ。


「こんにちは、陛下の番様。普通に店で買い物しているからびっくりしちゃった」


シルバーブロンドのふわふわした髪と青空を彷彿とさせる瞳の少年から、親しげに声を掛けられてルーは驚きに目を瞠る。


「どちら様ですか?」

「僕はクレイ・ファルケ。一応同じ学年なんだけど見たことない?」


すぐにマヤが庇うように前に出て不信感を露わに問いかけたが、クレイはけろりとした表情で言った。

人懐こそうな笑顔や態度は印象的だが、目を逸らされるのが嫌で最近はあまり意識的に周囲に目を向けることを止めていたこともあり、見覚えはない。


「……ごめんなさい」

「謝らなくていいよ。じゃあ改めてよろしくね、番様」


にっこりと笑みを浮かべるクレイに対して、気分を害さなかったことにほっとしたルーだが、マヤは警戒したように眉を顰めたままだ。


「買い物の途中ですので、失礼いたします」

「良かったら案内しようか?僕は生まれも育ちもディルニス王国だから店には詳しいし、センスが良いってよく言われるから一緒に選んであげるよ」


会話を終わらせようとしたマヤに、クレイは飄々とした態度で会話を続けようとする。せっかく声を掛けてくれた同級生に、あまり嫌な思いをさせたくはない。


「ファルケ様、ありがとうございます。お気持ちだけで十分ですわ」

「うーん、王都だし治安は悪くないんだけど、まだこの国には不慣れでしょう?女の子が二人だけで出歩くのはちょっと心配なんだよね。マヤちゃんは強いんだろうけど、護衛には見えないからさ」


ともすれば軽薄と捉えられる口調や態度だが、思っていた以上に真面目な理由で声を掛けてくれたらしい。

無碍にするのは躊躇われて、マヤに視線で訊ねると渋々といったように頷いた。


「それでは、少しお付き合いいただいてよろしいですか?」

「もちろんだよ。というか番様に敬語を使われるとこっちも畏まらないといけないから、砕けた口調で話してくれない?学園内では一応身分差は問わないんだし、名前も敬称とかいらないよ」


堅苦しいことは嫌いだとばかりにクレイは口を尖らせているのを見て、自由奔放で人々の中心だったメリナを思い出す。


「分かったわ。じゃあよろしくね」


ルーの言葉に、クレイは笑顔で応えたのだった。


「これはどう?シンプルだけど縁が華やかだから胸元に差しておくとアクセントにもなるよ。もしくはこっちかな。深みのある青が清涼感のある青との組み合わせが美しいよね」


クレイが選んだ品はどちらも素敵で、センスが良いというのも頷ける。先ほどまでルーが見ていたのは、レースを縁取った淡色のハンカチだった。


元々自分のお金でないので、刺繍などを施し少し手を掛ければちゃんとした贈り物になるのではと考えていたのだ。

だがクレイの言う通りお洒落で上質な品物のほうが実用性もあり、もらって嬉しいだろう。素人の刺繍なんて自己満足でしかない。


「お嬢様、あまり他人の言うことは気にしなくて良いですよ。お嬢様が選んだ物ならご主人様は何でもお喜びになりますから」


マヤの言葉にクレイはいち早く反応する。


「僕のセンスを疑うなんてひどいなあ。マヤちゃんは何を買うの?完璧な贈り物を選んであげるから教えてよ」

「私に買い物の予定はありません。そもそも仕事中ですので」


マヤの切り捨てるような口調にもクレイは気にする様子がなく、最初はひやひやしていたルーも大丈夫だろうと気を抜きかけた時のことだった。


「あ、そうなんだ。仲が良さそうに見えたけど、ただの主従関係なんだね」


クレイの言葉は間違っていない。それなのに表情を取り繕えないほどにショックを受けている自分がいた。

いつだってマヤは侍女として丁重な態度を崩さなかったのに、親しい間柄になったような気になっていたのだ。

マヤだってアレクシスの命令だからルーの側にいてくれているにすぎないのに。


「……これにするわ。お会計を済ませてくるね」


クレイが選んだ品を手にして、ルーは足早にその場を離れた。勘違いしていた自分が恥ずかしくて、マヤの顔を見ることが出来なかった。


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