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竜帝は番に愛を乞う  作者: 浅海 景


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18/20

決心

「ルー、少し話をしようか」


翌日、朝食を終えるとアレクシスからそう切り出されたルーは執務室へと案内された。少し古い紙とインクの匂いは中央図書館の歴史資料室を思い出させたが、そこはもうアレクシスによってすっかり様変わりしている。


竜帝ならば国の所有地であっても買い取ることなど容易だっただろう。違和感を覚えつつもスルーしてしまった鈍い自分に落ち込みながらソファーに座ると、すぐに若い男性が入ってきた。


「お初にお目に掛かります、お嬢様。アレクシス様の従者兼秘書を務めておりますファビアンと申します。以後お見知りおきください」


落ち着いた物腰と柔らかな声音に嫌悪が混じっていないことに、胸を撫で下ろす。いくらアレクシスが番だと言っても、ルーのような凡庸で不釣り合いな女では忌避感を抱かれても仕方がないだろう。

内心までは窺えないが、それを表に出さないでいてくれることは有難い。


「ルーの祖父母に君が置かれている境遇を伝えたところ、とても後悔していて孫ではなく養女として引き取りたいと申し出があったよ」


血の繋がりがあっても、祖父母という立場は親よりも弱く、このままではルーを救い出せないと養子縁組を望んでいるそうだ。


「お祖母様には酷いことを言ったのに……」


そんなことを望む資格があるのだろうかと逡巡するルーにアレクシスが語ってくれたのは、信じられないことばかりだった。


祖母はルーから拒絶されたことで音信不通になったわけではなく、それ以降も手紙などで連絡を取ろうとしていたそうだ。しかし返信がなく、ルーの両親が破棄しているのではないかと思いながらも、領地の近況と共に送り続けていたらしい。


様子を見に行きたかったが、祖父が病気がちのため長期移動が難しく、また祖母は領主代行として多忙を極めていた。だがそれでも行くべきだったと領地を訪れたアレクシスの配下から話を聞いた二人は、深く悔いていたという。


「自分たちが動けない代わりに毎年誕生日祝いを贈っていたそうだよ」


アレクシスはきっと予想しているのか、少しだけ躊躇いがちにそう告げた。

もちろんルーがプレゼントを受け取ったことは一度もない。祖父母からも両親からもだ。

悲しみがじわりと胸に押し寄せるが、アレクシスが隣からそっと触れてくれた手の温もりにふっと気持ちが楽になる。


「ルー、私はこれ以上ルーをあの者たちに近づけたくない」


(私、とても大事にされているわ……)


祖父母と話をしているのなら、もっと強くこうすればいいと主張してもいいのに、アレクシスはずっとルーの意思を尊重してくれている。ファビアンもアレクシスの言葉に同意するように言葉を重ねた。


「僭越ながら申し上げますと、あの者たちはお嬢様が竜帝陛下であられるアレクシス様の番と知っておりますので、そう簡単には手放さないでしょう。ですが、この国の法で16歳以上の子女は本人の意思があれば養子になることが可能です。お嬢様のご祖父母様からは既にご署名を頂いております」


ファビアンが差し出した書類には、力強い筆跡の署名がありそれだけでルーを受け入れる確固たる意志と愛情が感じられるようで、目頭が熱くなる。


アレクシスはルーが落ち着くまで急かすことなく、ただ見守ってくれていた。



「それからルーの妹についてだけれど、流石に何もなかったことには出来ない」


少しだけ温度を下げた声でそう告げながらも、アレクシスは心配そうにルーを見ていた。メリナの仕出かしたことを考えれば、庇う気にはなれず、ルーは無言で頷く。


事実無根の噂を流し、令息たちを唆したのはメリナだった。さらにルーから引き離すためにクルトにマヤを攻撃させ、ルーにもマヤを傷付けるよう示唆したことで、竜帝の配下に積極的に危害を加えようとしたと見做された。

マヤがいなければ、そして短剣が偽物でなければ、傷ついていたのはルーだけではない。


(ただ、メリナが我儘に振舞うようになった原因は私にもあるから……)


メリナは両親の言動から、ルーには何をしてもいいと思い込んでしまったのだろう。さらにルーがあの日メリナの提案を断っていたら、妹はこれほどまでに自由奔放に振舞っていただろうかと思うと、自責の念が芽生える。

ルーが家族になろうと望んだことで、メリナを歪めてしまったのではないだろうか。


「ルーは頑張っていただけで何も悪い事なんてしていないよ。君の妹は自らの意思でルーを貶め傷付けようとした。ルーが気に病むことなんて一つもないんだよ」


何も言ってないのに、表情だけでルーの悩みに気づき懸命に慰めようとしてくれるアレクシスはどれだけルーを甘やかすつもりなのだろう。


しっかりしよう、そう思った。

一人でも立っていられるように、与えられた優しさを誰かに分け与えられるように。


家族に縋って生きていくのは、辛くて悲しくて、でも変わらないことは楽でもあった。

アレクシスはルーを否定することはなかったが、それでは駄目なのだともう分かっている。


支えてくれる人たちに恥じないよう強くなりたい。

そう決心したルーはアレクシスにあることを願ったのだった。

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