第4話:桃色両想い
「いいか東雲。将来アイドルになったら、スキャンダルにだけは注意するように」
「き、気が早いよ。まだなれるかも分かんないのに」
「お前にその気がなくても、男と一緒に歩くだけで炎上するからな。気をつけろよ」
「分かったってば。大体私なんかが、男の人となんて――」
*
「……な、何の冗談だよ」
「冗談でこんな事言わないよ」
ほんのり頬を赤く染め、俺を見つめる東雲の表情は、確かに真剣だった。
「私、辻くんのことが好き。私の夢を笑わずに、真剣に応援してくれた辻くんのことが……ずっと好きだった。だから、付き合って」
「ば、馬鹿を言うな!」
ぐっと東雲は顔を近づけてくる。その大胆な行動に、焦る俺。
「アイドルが恋愛なんて無理だろ!? バレたらどうなると思ってるんだ!」
「バレなきゃ大丈夫だよ。ていうか実際隠れて彼氏作ってる子、多いって聞くよ?」
「そんなこと聞きたくなかったなあ!!」
「安心して。ウチのグループにはそんな子いないから……たぶん」
「だったら尚更ダメだろ! センターのお前がそんなことしちゃ」
「でも私たち、両想いなんだよ。だったら結ばれるべきだよね?」
なんでこいつこんなグイグイ来るんだよ。昔の東雲からは考えられない……芸能界はこうも人を変えるのか?
「両想いとは言えねえよ……。俺はお前を、アイドルとして応援してるだけだ」
「……私のこと、好きじゃないの?」
「『推し』なんだよ。だからこそ、お前と付き合うことなんてできない」
「……」
俺がはっきりそう言うと、東雲は沈黙し、崩れ落ちるようにまたベッドに座った。
「……振られちゃった」
「やめてくれ……振ったつもりはない」
「じゃあせめて、LINEだけでも交換しよ? また離れても連絡取れるように」
「いやそれも、流出とか怖いだろ……」
「心配しすぎだよ。ロックかけてるし、どこから漏れるっていうの?」
「し、知らねえけど……。流出するだろうが! なんか度々! 芸能界!」
どこから漏れるのかなんてこっちが聞きたい。週刊誌専属のハッカーでもいるのか?
「万が一そうなったら、友達だって説明すれば大丈夫だよ。変なやり取りするわけじゃないし」
「……分かったよ」
「やったっ」
ようやく笑顔を見せる東雲。もうどうにでもなれ。
QRコードを読み取ると、友達一覧に『東雲桜』が追加された。
当たり前だけど『サクラ』名義じゃないのが、プライベート感あってドキドキするな……。
東雲は満足したようにスマホをしまうと、「今日はありがとね」と立ち上がった。
「久しぶりに会えて嬉しかったよ」
「ああ……俺もだよ」
「うん。次はもう、いつ会えるか分からないけど」
「いいよ。お前は仕事に専念しろ。俺は勝手にテレビやライブでお前を見てるから」
「……あはは、ありがとう」
そして東雲は「ん~」と両手を挙げ、大きく伸びをした。
「はー、明日は雑誌の取材とCM撮影と、ミューステの生放送だあ」
す、すごい予定だ……。俺なんて高校行ってバイト行って、帰ってミューステ見るだけなのに。
改めて、住む世界が違うことを実感する。
本来画面越しで、もしくは客席から遠くで眺める存在。それがアイドルだ。
だからこんな間近で会うことなんて、きっともうないだろう。
でも、それでいい。
男の影が少しでもあったら、アイドルは終わりだ。過去の事例はいくらでも見てきた。あの日、親父のパソコンの中で。
そんなくだらないことで東雲の夢が終わってしまうなんて、あっていいはずがない。
「それじゃね」
そう言って、部屋の扉に向かう東雲。
元同級生にして、現役人気アイドルとの邂逅。夢のような時間が終わろうとしていた。
……本当に、それでいいのか?
「まて、東雲」
俺は東雲の肩を掴んで、強引に振り向かせた。
すぐ近くに、彼女の顔。
「な、なに、辻くん」
「お前さ……」
ああ、そうだ。
まだこの時間を終わらせるわけにはいかない。
きっとこの再会は、この言葉を彼女に伝えるための巡り合わせだったのだ。
「本当はもう、アイドル辞めたいんじゃないのか?」




