第3話:偏愛レボリューション
「ああ……おめでとう」
そう口にした瞬間、不覚にも涙が出そうになった。
あの頃、自信なさげに将来の夢を書き直そうとしていた東雲が、今こうして夢を叶え、念願のアイドルになり目の前にいる。
すまん、流石にエモすぎるわ。
なんか照れくさくてそっけない態度とってたけど、もう泣きそうです、俺は。
「ところで辻くんは最近、どうなの?」
俺の気持ちなぞ知る由もない東雲は、話題を変えた。しかもフリーな世間話。感情追いついてないって。
「別に、普通に高校生してるけど」
「そっか。辻くんももう、高校生なんだね。何年生?」
「二年……いや、お前も同じだろ」
「私は違うよ。籍はあるけどほとんど学校行ってないし、高校生とは言えないかな」
籍があるなら言えるのでは……。まあ学生という肩書がしっくりこないのも当然か。もう立派に仕事してる芸能人なわけだもんな。
「どう、楽しい? 高校生活は」
「普通だけど……」
「彼女できた?」
「いいや」
「まあいたら『普通』なんて感想にはならないか。じゃあ平凡な日常を送ってる君に、『非日常』のプレゼント」
余計なお世話だ。
と、東雲は持っていた小さなカバンから何やら封筒を取りだし、俺に渡してきた。
「……なにこれ?」
「来月のアリーナ公演の、関係者席チケット。土曜だし、遠いけど電車でも行けるから、来てくれると嬉しいな」
「は? いらねえよ」
「そんな冷たい事言わないでよー。生のライブって、全然迫力違うよ?」
小悪魔的な微笑を見せる東雲。そんな顔もできるようになったんだな。
「じゃなくて。もう持ってるから」
「えっ?」
俺は財布から、チケットを取りだし見せる。
「……えっ!? な、なんで持ってるの!?」
「抽選通ったからだろ」
「す、すごいね。最近はファンクラブ入ってないとなかなか取れないのに」
「そんなもん、二年前の設立当初から入ってる」
「えーっ!?」
東雲は驚いた様子で、大声を出して立ち上がった。
「は、早く言ってよぉ。もしかして、結構ライブ来てくれてたりするの?」
「まあ、行ける限りはな」
そう言って俺も椅子から立ち上がり、クローゼットの方に移動する。そしてその扉を開く。
「ちなみに全CD全ライブBD全グッズ揃ってる」
「めっちゃファンじゃん!!」
扉の奥には大量のパッケージが並べられ、引き出しを引けば溢れるほどのグッズが出てくる。
まさかこのコレクションを、本人に見せることになるとはな。
「そ、そんなにスイスイ好きでいてくれてたの……? えっ、誰推し!? 誰推しかだけ教えて!」
「お前に決まってんだろ! 誰が元同級生を差し置いて別のヤツを推すんだよ」
「そ、そっか。そうだよね。うわ、嬉しいなあ……」
「あと全グッズって言ったけど、お前に関するグッズだけな。流石に全メンバー集めるほどの金はなかった」
「ううん、全然いい。むしろ、その方がいい……」
グループのセンターとしてあるまじき発言をしたように聞こえたが、聞き流すことにした。
「ずっと……。ずっと応援してくれてたんだね、辻くん……」
「当たり前だろ……俺はお前の最初の『客』で、『ファン』なんだから」
それこそエモい台詞を言ってしまい、自分で恥ずかしくなる。
そんな俺の言葉を受け、
「わ、私も……」
東雲も感極まったのか、泣きそうな顔をして声を震わせた。
「私もね……実は昔から、辻くんのことが好きだったんだ……」
「そうか……」
「辻くんも私のこと、こんなに好きでいてくれたんだね。ということは私たち、両想いってことだよね……?」
「うん……ん?」
「ねえ辻くん。今、彼女いないんだよね? じゃあちょうどよかった」
……あれ? さっきからこの人、なに言ってる?
東雲の顔を伺うと、彼女はニコッと微笑んだ。
だけどその大きな瞳の奥は、どろりと黒く濁っているように見えた。
「私たち、付き合おうよ」




