第2話:プレイバック
六人組アイドルグループ『スイーティー☆スイート』(略称『スイスイ』)。
結成三年。昨年デジタルリリースされた『甘々ハピネス』がSNSで大きくバズり、若者を中心に大人気のグループへと成長した。
そして今、俺の部屋でベッドの上に腰を下ろし、キョロキョロ周りを見渡している少女が――
「わー、辻くんの部屋だ。懐かしいなあ」
――スイスイ不動のセンター、『サクラ』。本名、東雲桜。
「お家、誰もいないの?」
「両親は仕事で夜まで帰ってこない」
「そうなんだ。挨拶したかったのに」
残念そうな顔をする東雲だが、俺としてはむしろ助かった。こんな状況、親に知られたら大騒ぎになる。
なんでテレビで見るような人気アイドルが、俺の部屋にいるんだよ。平日の学校帰りに。
いや外で立ち話もなんだということで、俺が部屋に上げたんだけどさ。
「たまたまこの辺で撮影があってね。明日には東京に帰るんだけど、せっかくだから来ちゃった」
「……周りにバレたりしなかったか?」
「さっきみたいに変装してたから大丈夫。それにしても辻くん、声低くて格好良くなったね。声変わり大成功じゃん」
「そりゃどうも」
「あれぇ、もしかして照れてますー? ふふふっ」
「お前は声じゃなくてキャラが変わりすぎだ」
「そぉ? ていうか辻くん、久しぶりに会った私に、なにか言う事ないの?」
俺は勉強机の椅子に腰をかけ、東雲の方を向く。
「……元気してた?」
「あははっ、なにそれ。見ての通りだよ」
見ての通り。そう言う東雲の姿を、俺は改めて観察する。
昔はボサボサに伸びきっていた髪が、綺麗に整えられ可愛らしく編み込まれている。顔を隠していた前髪も、今は眉にかかる程度だ。
よって、整った顔立ちがよく見える。大きな瞳に小さな鼻と口。それら美しいパーツが、しっかり施されたメイクにより一層際立っていた。
いや、印象変わりすぎだ。
元の素材も良かったのだろうが、芸能人になって垢抜けまくっている。
それに比べたら俺の声変わりとか、恥ずかしいくらいどうでもいいな。
「ほんと、懐かしいね。よくこの部屋で一緒にライブ映像見たり、それを真似して踊ったり歌ったりしたよねえ」
「踊ったり歌ったりはお前だけだろ」
「うん。辻くんは、私のお客さんだったね」
恥じらいながら踊る東雲に対して、「そんなんじゃプロになれないぞ」と野次を飛ばしながら、手拍子をした過去を思い出す。
「まあ、お客さんにしては口うるさかったけどねー」
「おいおい、俺は客というより講師のつもりだったよ。お前のパフォーマンスを見て、色々アドバイスしてやったろ」
「そうだね。それに、ネットで芸能界のことを調べてくれたりもしたよね」
「親父のパソコンでな」
「辻くん、なんか小学生にしては大人びてたよね。私が上手く踊れなくて泣いたりしたときもさ――」
思い出話に花を咲かせる俺たち。東雲は全然変わってしまったのに、こうして話していると、あの頃に戻ったように錯覚する。
「本当に、色々なことを一緒にしたよね。楽しかったなぁ……」
東雲は遠い目をした後、俺をじっと見つめ、微笑んだ。
「ねえ、辻くん。私、プロのアイドルになれたよ」




