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第三話:始まりの一歩と運命の出会い

夜の闇は、絶望に沈む者にとっては心を蝕むとばりだが、今の俺にとっては好都合な隠れ蓑だった。ユニークスキル【自動素材探知】。この新たな力は、俺の世界の見え方そのものを根底から覆してしまった。


スキルを発動させると、視界の端々で、今までただのガラクタや雑草にしか見えなかったモノたちが、価値を示す光の点として輝き始める。俺は夜が明けるまで、まるで宝探しに夢中になる子供のように、街の裏路地や石垣の隙間を巡り続けた。


崩れた壁の隙間に自生していた希少薬草「銀葉草」。排水溝のヘドロの中に埋もれていた、誰かが落としたらしい銀貨。古い建材置き場の片隅で、他の鉱石屑に紛れて微かな光を放っていた「魔鉄鋼」の欠片。どれもこれも、以前の俺の【アイテム鑑定】では、一つ一つ手に取って集中しなければ見つけられなかったものばかりだ。しかし、今の俺には、それらがどこにあるのか一目でわかる。


夜明け前、俺の鞄は、集めた素材でずっしりと重くなっていた。薄汚れた服も夜露と泥で酷い有様だったが、心は不思議と晴れやかだった。空が白み始め、街が朝の喧騒に包まれる頃、俺は商人ギルドの門を叩いた。冒険者ギルドは避けたかった。ガイアスたちの顔など、もう見たくもなかったからだ。


「ほう、こりゃ珍しい。月の雫草に、状態のいい銀葉草がこれだけ揃っているとは。兄ちゃん、なかなか腕のいい採集家なんだな」


薬草店の主人は、俺が差し出した薬草の束を見て目を丸くした。魔鉄鋼の欠片も、鍛冶屋の親方に持ち込むと、「こんな純度の高いもんは久しぶりに見たぜ!」と相場以上の値で買い取ってくれた。


すべてを換金し終えた時、俺の手には金貨三枚と、銀貨十数枚が握られていた。追放される前の俺が一ヶ月働いても手にできるかどうか、という大金だ。


「……すごい」


これが、【スキル錬成】の力。俺がゴミ同然のスキル珠から生み出した、たった一つのスキルの成果だった。

俺はまず、安宿の一室を借りた。そして、何よりも先に熱いスープと焼きたてのパンを注文した。温かい食事が喉を通るたびに、凍てついていた体と心がゆっくりと溶けていくのを感じる。追放されてから、まともな食事はこれが初めてだった。不覚にも、スープの塩気で涙腺が緩み、俺は必死にそれをパンで拭った。


腹を満たした後は、仕立て屋で新しい服を買い、武器屋で最低限の護身用ダガーと頑丈な冒険者用の鞄を手に入れた。鏡に映った自分の姿は、もはや昨日までの薄汚れた雑用係ではなかった。まだ頼りなさは残るものの、確かな希望を宿した一人の冒険者の顔がそこにあった。


宿に戻った俺は、ベッドの上でこれからのことを考えた。あの勇者パーティに戻る気は毛頭ない。この街「フロンティア」は王都から遠く、ガイアスたちの影響も及びにくいだろう。ここで、俺は俺の力で生きていく。


そのためには、【スキル錬成】をさらに活用する必要がある。だが、そのためには素材となるスキル珠が不可欠だ。高価なスキル珠は買えない。狙うは、誰も見向きもしないような低品質のスキル珠。どこに行けば、そんなものが手に入るだろうか。


翌日、俺は街で情報収集を始めた。酒場で冒険者たちの話に耳を澄ませたり、道具屋の主人にそれとなく尋ねてみたりした。その結果、一つの情報を掴んだ。この街の裏通りには、正規のルートでは売れないような品々――いわゆる「ジャンク品」を扱う市場があり、そこでは時折、欠けたり魔力が弱まったりしたスキル珠が格安で出回るという。


そしてもう一つ。その市場の奥では、さらに非合法な「奴隷市場」が開かれているという、気分の悪くなるような噂も。


奴隷制度。人を人として扱わず、モノのように売買するこの世界の闇。俺は強い嫌悪感を覚えた。しかし、背に腹は代えられない。スキル珠を手に入れるためなら……。俺は深くフードを被り、顔を隠して、太陽が傾き始めた頃に裏通りへと足を踏み入れた。


そこは、表通りの活気とはまるで違う、淀んだ空気が漂う場所だった。怪しげな露店が軒を連ね、行き交う人々も皆、一癖も二癖もありそうな顔つきをしている。俺は目的のジャンク品を扱う店を探しながら、市場の奥へと進んでいった。


そして、見つけてしまった。ひときわ大きなテントと、その周りを囲むように立つ屈強な見張りたち。紛れもなく、奴隷市場だ。中からは、奴隷商人の甲高い声と、買い手たちの下卑た笑い声が漏れ聞こえてくる。


帰ろうと思った。こんな場所に、長居は無用だ。しかし、その時だった。テントの入り口から、鉄の檻に入れられた一人の少女が引きずり出されてきた。


「さあさあ、お立ち会い! こいつは見てくれだけは一丁前のエルフだが、ちょいとワケありでね! 病気持ちの欠陥品だ! だから今日は特別に、銀貨一枚からくれてやるよ!」


奴隷商人の声に、周囲から嘲笑が漏れる。檻の中の少女は、長く美しい白銀の髪を汚し、痩せこけた体で小さく蹲っていた。着せられたぼろ布からは、痛々しい痣や傷が覗いている。だが、俯いた顔を上げた瞬間、俺は息を呑んだ。翡翠のように澄んだ瞳。その奥には、深い絶望と、それでも消え失せてはいない、微かな抵抗の光が宿っていた。


彼女の姿が、昨日までの自分と重なって見えた。誰からも価値がないと決めつけられ、尊厳を踏みにじられる理不尽さ。俺は無意識に、彼女に向けてスキルを発動させていた。


「【自動素材探知】……!」


鑑定とは違う。もっと広く、深く対象を知るための力。すると、俺の脳内に、断片的な情報が流れ込んできた。


=================

名前:ルナ

種族:エルフ

状態:呪病(進行性)、衰弱、魔力枯渇

スキル:【精霊魔法(初級)】(呪病により使用不可)

=================


「(病気じゃない……呪いだ!)」


奴隷商人は気づいていない。これはただの病ではない。彼女の魔力を蝕み、命を少しずつ削っていく悪質な呪いだ。だが、それは同時に、彼女が本来【精霊魔法】という希少な才能を持っていることの証明でもあった。


(この呪い、俺の【スキル錬成】なら……例えば、『治癒』と『解呪』のスキルを組み合わせれば、解けるかもしれない……!)


突拍子もない考えだった。だが、不思議と確信があった。俺のスキルなら、この少女を救える。

救わなければならない。

俺がガイアスたちに見捨てられた時、誰かにこうして欲しかったと願ったように。価値がないと切り捨てられた者を見過ごすことなんて、今の俺にはできなかった。


「さあ、どうだい! 銀貨一枚だ! 誰かいないのか!」


奴隷商人が不機嫌に叫ぶ。誰も手を挙げない。病気(呪い)のエルフなど、買ってすぐに死なれては金の無駄だと判断しているのだろう。


俺はポケットの中のなけなしの財産を握りしめた。金貨三枚と銀貨十数枚。これを失えば、俺はまた一文無しに戻る。だが、迷いはなかった。


俺は人混みをかき分け、前に進み出た。そして、ありったけの声で叫んだ。


「――金貨三枚!!」


しんと静まり返る市場。下卑た笑い声も、ひそひそ話も、すべてが止まった。奴隷商人も、周りの客も、皆が驚愕の表情で、フードを被った俺を一斉に振り返る。


病気持ちの奴隷一人に、金貨三枚。それは、常軌を逸した金額だった。

檻の中の少女、ルナが、か細く震えながら、その翡翠の瞳でまっすぐに俺を見つめていた。その瞳に宿ったのは、驚きと、そしてほんのわずかな、信じられないものを見るような戸惑いの色だった。

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