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第二話:絶望の淵と覚醒の光

降りしきる雨は、俺の体温だけでなく、心の奥底に残っていたなけなしの希望さえも奪い去っていくようだった。冒険者ギルドの前で呆然と立ち尽くす俺、アルト・シュヴァイツァーの姿は、雨に濡れた捨て犬のように惨めだったに違いない。


「どうして……」


何度も同じ言葉が、声にならない声となって喉の奥で震える。

勇者ガイアスに理不理尽な責任を押し付けられ、パーティ『光の剣閃』から追放された。それは、単にパーティを追い出されたというだけではない。俺の冒険者としてのすべてを、生きる意味さえも否定された瞬間だった。


パーティに貢献したい一心で、毎日必死に鑑定スキルを磨いた。戦闘の合間にはポーションを配り、野営の準備や食事の用意、装備のメンテナンスまで、雑用の一切を引き受けてきた。いつか、戦闘で役に立たない俺でも、皆から「ありがとう」と言ってもらえる日が来ると信じていたからだ。


だが、現実は違った。彼らにとって俺は、便利な雑用係であり、都合のいい責任のなすりつけ先でしかなかった。ゴードンは死に、ガイアスはプライドを傷つけられた。その怒りと不満の捌け口として、最も立場の弱い俺が選ばれた。それだけのことだ。


聖女リナの悲しそうな瞳が脳裏に焼き付いて離れない。彼女は俺を庇おうとしてくれた。だが、ガイアスの一喝で黙ってしまった。彼女を責めることはできない。あの傲慢な勇者に逆らえば、次は彼女がどうなるか分からないのだから。


ずぶ濡れのまま、当てもなく街を彷徨う。もう夜も更け、街の門は固く閉ざされている。宿に泊まる金もない。装備も、なけなしの報酬も、すべて奪われた。薄汚れた服のポケットに入っているのは、銅貨数枚だけ。


「これから、どうすれば……」


雨風をしのげる場所を探して、俺は裏路地へと足を踏み入れた。ゴミの腐臭が漂う、じめじめとした壁に背中を預け、ずるずるとその場に座り込む。冷たい雨が容赦なく体力を奪い、空腹で腹の虫が鳴く。情けなくて、悔しくて、涙さえ出てこなかった。


冒険者になるのが夢だった。伝説の魔獣を討伐したり、古代遺跡の謎を解き明かしたり……そんな輝かしい未来を思い描いていたはずなのに。現実は、この薄汚い路地裏で行き倒れることになりそうだ。


(ああ、もう、どうでもいいか……)


寒さと疲労で、意識が霞んでいく。瞼が鉛のように重い。このまま眠ってしまえば、少しは楽になれるのかもしれない。俺の人生は、ここで終わりなのか……。


そう諦めかけた、その時だった。


《生存への渇望を確認。ユニークスキル【スキル錬成】を解放します》


頭の中に、直接、凛とした女性の声のようなものが響き渡った。


「……え?」


幻聴かと思った。しかし、その声はあまりにも明瞭だった。俺が混乱していると、目の前に淡い光を放つ半透明の板――まるでゲームのステータス画面のようなものが現れた。


=================

名前:アルト・シュヴァイツァー

職業:なし(元アイテム鑑定士)

LV:1

HP:8/25

MP:3/15


スキル:

・【アイテム鑑定】

・【スキル錬成】《NEW》

=================


「スキル……錬成?」


見慣れないスキル名がそこにあった。【アイテム鑑定】は俺が生まれつき持っているスキルだ。だが、【スキル錬成】などというものは、今まで見たことも聞いたこともない。俺は恐る恐る、その文字に意識を集中させてみた。すると、詳細な説明文が浮かび上がる。


《スキル:【スキル錬成】》

・世界で唯一のユニークスキル。

・二つ以上のスキル珠、またはスキルブックを素材として、新たなスキルを創造する。

・素材の組み合わせ、術者のイメージにより、生成されるスキルは変化する。


「スキルを……創造する?」


にわかには信じがたい内容だった。スキルとは、神から与えられるものであり、後天的に増やすには、魔物からドロップする「スキル珠」を吸収するか、高価な「スキルブック」を読むしかない。それを、自らの手で創り出すなど、常識では考えられない。


「でも、素材となるスキル珠なんて、俺は持っていない……」


追放される際、俺が持っていた数少ないポーションや素材だけでなく、ダンジョンで手に入れたスキル珠も、すべてガイアスたちに取り上げられてしまったのだ。せっかく手に入れたかもしれない奇跡の力も、これでは宝の持ち腐れだ。


またしても絶望が胸を支配しかけた、その時。ふと、汚れたズボンのポケットに、何か硬い感触があることに気づいた。

ごそごそと手を入れてみると、出てきたのは、くすんだ色をした小さな珠が二つ。


それは以前、パーティの荷物整理をしていた時に、ゴードンが「こんなゴミ、邪魔だ。お前が捨てておけ」と投げつけてきたものだった。どちらもひび割れ、魔力もほとんど感じられない最低品質のスキル珠。あまりに価値がなさすぎて、俺も捨てるのを忘れ、ポケットに入れっぱなしにしていたのだ。


震える手で、俺は【アイテム鑑定】を発動させる。


=================

【探索:石拾いのスキル珠(欠片)】

・地面に落ちているただの石ころを見つけやすくなる。

=================

【生活魔法:火点けのスキル珠(欠片)】

・指先にマッチ棒程度の小さな火を灯すことができる。

=================


やはり、どちらも冒険者が使うにはあまりにも役に立たない、子供の遊びのようなスキルだった。

だが、今の俺にとっては、これが最後の希望の綱かもしれなかった。


「……やってみるしかない」


俺は二つのスキル珠を両方の手のひらに乗せ、強く握りしめた。そして、脳内で先ほど覚醒したばかりのスキルを強くイメージする。


「スキル、【スキル錬成】!」


その瞬間、手のひらにあった二つのスキル珠が眩い光を放ち始めた。光は徐々に強まり、温かい魔力が俺の体を包み込む。

(どんなスキルがいい……? 今の俺に必要なのは……金だ。生きるための金を手に入れる力。もっと効率よく、価値あるものを見つけ出す力が欲しい……!)

俺は必死に願った。鑑定する力と、何かを探し出す力。この二つが合わされば、きっと……!


《【アイテム鑑定】と【探索:石拾い】を素材として錬成を開始します》

《術者のイメージを反映……再構築……成功しました》

《ユニークスキル【自動素材探知】を生成しました》


頭の中に響く声と共に、手のひらの光が収束していく。そして、光が消えた後には、今まで見たこともない、虹色に淡く輝く一つのスキル珠が残されていた。


ごくり、と喉が鳴る。これが、俺が初めて創り出したスキル。

俺は躊躇なく、そのスキル珠を自分の胸に押し当てた。珠はすうっと光の粒子となって、俺の体に吸い込まれていく。


《スキル【自動素材探知】を習得しました》


新たな力が体に満ちるのを感じながら、俺は早速スキルを発動させてみた。


「【自動素材探知】!」


すると、世界が一変した。

今までただの汚い路地裏にしか見えなかった視界に、いくつもの淡い光の点が浮かび上がって見えたのだ。ゴミの山の影、ひび割れた石畳の隙間、崩れかけた壁の蔦の中……。

その中の一つ、特に近い場所で輝く緑色の光点に、俺はふらふらと引き寄せられるように近づいた。


それは、瓦礫の隙間にひっそりと根を張る、一株の小さな薬草だった。


「これは……月の雫草つきのしずくそう?」


夜間にしか咲かず、解毒剤の材料として銀貨数枚で取引される希少な薬草だ。こんな街の路地裏に生えているなんて、普通なら誰も気づかない。だが、俺の目には、それが価値あるものだとハッキリと見えていた。


俺は慎重にそれを摘み取ると、ポケットにしまい込んだ。視線を上げると、まだ街のあちこちに、大小さまざまな色の光点が輝いている。金、銀、銅、緑……おそらく、その色や輝きの強さが、価値を示しているのだろう。


「すごい……これがあれば……」


絶望の底に突き落とされた俺に差し込んだ、あまりにも強すぎる一筋の光。


「やり直せる……いや、あいつらを見返してやれる……!」


俺は濡れた頬を乱暴に拭った。もう涙は流さない。空を見上げると、いつの間にか雨は上がり、厚い雲の切れ間から、静かな月光が差し込んでいた。その光は、まるで俺の新しい門出を祝福してくれているかのようだった。


まずは、この力で当面の資金を稼ぎ、生活の基盤を整える。そして、いつか必ず――。


俺は新たな決意を胸に、光が示す方へと、力強く一歩を踏み出した。無能と罵られ、すべてを奪われた鑑定士の、本当の物語は、今この瞬間から始まるのだ。

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