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第十七話:王国の報復と独立への道

王国騎士団がフロンティアから撤退したという報せは、街に一時的な勝利の歓喜をもたらした。俺たち《アルカディア》は、街の自由を守った英雄として、市民から惜しみない賞賛を浴びた。だが、俺だけは、その歓声の裏で、これから訪れるであろう本当の嵐の気配を感じ取っていた。


案の定、王国からの報復は、軍事侵攻という最も分かりやすい形ではやってこなかった。それは、より陰湿で、じわじわと生命線を締め上げるような、経済的な圧迫という形で始まったのだ。


まず、王都とフロンティアを結ぶ全ての街道が、王命によって封鎖された。表向きは「周辺の魔物活性化による安全確保」とされていたが、その真の狙いは明らかだった。王都からの物資――特に、この辺境では産出されない塩や砂糖、高度な医療品、そして良質な鉄鉱石などの供給が、完全に断たれたのだ。


街は、瞬く間に混乱に陥った。塩の価格は数日で十倍に跳ね上がり、薬師ギルドの棚からは回復薬が消えた。冒険者ギルド本部からも圧力がかかり、フロンティア支部は《アルカディア》への高ランク依頼の斡旋を停止せざるを得なくなった。


数週間も経つ頃には、街の空気は一変していた。当初、俺たちを英雄と讃えていた市民たちの間から、不安と不満の声が囁かれるようになった。


「《アルカディア》が王国に逆らったせいだ……」

「このままじゃ、街は干上がるぞ」

「俺たちの生活は、どうしてくれるんだ……」


ギルドハウスにも、その不穏な空気は影を落としていた。俺たちを慕って集まり始めていた冒険者たちも、将来を悲観し、一人、また一人と街を去っていった。


「アルト様……」


ルナが、心配そうに俺の顔を覗き込む。彼女は、俺が街の人々から非難されることに、心を痛めているのだ。


「私のせいです。私が、あの騎士団長に逆らったから……」

「違う!」


珍しく、ミコトが声を荒らげた。


「悪いのは、自分たちの都合で、アルトを無理やり連れて行こうとした王国の連中だ! あんたも、アルトも、何も悪くない!」


だが、その言葉とは裏腹に、ミコトもまた、悔しそうに拳を握りしめている。

俺は、そんな仲間たちの頭を、そっと撫でた。


「二人のせいじゃない。これは、俺が選んだ道だ。そして、俺が終わらせなければならない問題だ」


俺は立ち上がると、ギルドハウスに残ってくれた数少ない仲間たちと、噂を聞きつけて集まってきた街の代表者たち、そして不安そうな顔をした領主代理の前に立った。


「皆に約束する。俺が、この問題を必ず解決する。王国に頼らずとも、この街が自立できるようにしてみせる。いや……必ず、以前よりも豊かな街にしてみせる、と」


その場にいた誰もが、俺の言葉を半信半疑で聞いていただろう。だが、俺には確信があった。俺の【スキル錬成】は、戦闘や武具作りだけが能じゃない。この絶望的な状況さえも覆すだけの、無限の可能性を秘めているのだから。



その日から、俺たちの反撃が始まった。王国の狙いが経済封鎖による兵糧攻めならば、俺たちはこの街を、一つの独立した国家のように機能させてやればいい。


最初の課題は、食料問題だ。フロンティア周辺の土地は痩せており、大規模な農耕には向いていない。俺は早速、街の外れにある使われていない農地へと向かった。そして、ジャンク屋で買い集めておいた二つのスキル珠を錬成する。一つは、岩や土を操る【土魔法(初級)】。もう一つは、生物に僅かな活力を与える【生命魔術(微弱)】。


(狙うは、大地そのものの生命力。痩せた土を、あらゆる作物が豊かに実る、祝福された土壌へ……!)

「【スキル錬成】!」


生み出されたのは、【豊穣の土壌】という、農業に特化したユニークスキルだった。俺はそのスキルを、街の農夫たちに協力してもらい、広大な土地に発動させた。すると、乾いてひび割れていた大地が、まるで呼吸を始めたかのように潤いを取り戻し、見る見るうちに豊かな黒土へと変わっていったのだ。そこに撒かれた種は、信じられない速度で芽吹き、数週間後には、季節外れの豊かな収穫が街にもたらされた。


次に、資源の問題。俺は【アイテム鑑定】と【探鉱】のスキルを錬成し、新たなスキル【鉱脈探知】を創り出した。このスキルで街の周辺の山を調査すると、これまで誰も気づかなかった巨大な岩塩の鉱脈と、高純度の鉄鉱石の鉱床が、次々と発見された。


そして、医療問題。俺はルナに、彼女が持つエルフの【精霊魔法】と、俺が錬成した【高等薬草学】のスキルを組み合わせることを提案した。

「ルナの優しい魔力なら、きっと薬草の力を最大限に引き出せるはずだ」

「はい、アルト様!」


錬成によって生まれた【霊薬精製】のスキルは、ルナの才能を新たなステージへと開花させた。彼女が精製するポーションは、王都で売られている高級品さえも遥かに凌駕する品質を誇り、街の医療水準を劇的に向上させた。


食料、資源、医療品。王国が断ってきた生命線を、俺たちは自らの手で、それも以前より遥かに太く、強固なものとして再構築してしまったのだ。街は、不安と不満の空気から一転、驚異的な速度で活気を取り戻していく。


そして、俺は次なる一手、独自の交易路の開拓へと乗り出した。


「目指すは、東の獣人連合だ。王国とは長年対立している。俺たちと手を組む利点は、大きいはずだ」


問題は、フロンティアと獣人連合の間には、『嘆きの山脈』と呼ばれる、高ランクの魔物が跋扈する危険地帯が広がっていることだった。これまで、この山脈を越えて交易を行おうとした者は、誰一人として帰ってこなかったという。


だが、今の俺たち《アルカディア》にとっては、もはや障害ではなかった。

俺たちは、街で精製した高品質なポーションや、ハガネが鍛え上げた武具を荷馬車に満載し、自ら護衛となって、前人未到の交易路へと出発した。


道中、幾度となく強力な魔物の群れに襲われたが、その全てを俺たちの完璧な連携で退けた。ミコトが前線で嵐のように敵を粉砕し、ルナの矢が空と死角を支配する。俺は二人に的確な指示を出し続け、ハガネは『マスター、そこの岩陰に奴らの親玉がおるぞ!』と、俺の探知スキルさえも見抜けない敵の奇襲を教えてくれた。


数週間の旅の末、俺たちはついに獣人連合の首都にたどり着いた。

最初は、人間である俺たちを前に、獣人たちは強い警戒心を見せた。だが、パーティの一員であるミコトが堂々と前に出て、自分たちの素性を明かすと、状況は変わった。彼女の持つ誇り高い獣人の魂と、その身に纏う【百獣の爪牙】から放たれる圧倒的な覇気は、獣人たちに、俺たちがただの人間ではないことを理解させた。


俺たちが提示した交易品――特に、ハガネが鍛え、俺がスキルを付与した『錬成武具』と、ルナが精製した『霊薬』は、獣人連合の長老たちを驚愕させるのに十分だった。彼らは、俺たちが王国と敵対していることを知ると、喜んで同盟に近い形での交易協定を結ぶことを承諾してくれた。


王国に頼らずとも、いや、王国を介さないからこそ、フロンティアは独自の力で豊かになっていく。王国の経済封鎖は、皮肉にも、辺境の街を一つの独立した経済圏として、驚異的な速度で発展させる結果となったのだ。


この報せは、すぐに周辺国へと伝わっていった。南のドワーフ王国、西のエルフの森……彼らもまた、王国の一方的なやり方に不満を抱いていた国々だ。彼らから、次々と《アルカディア》へ、そしてフロンティアへ、使者が送られてくるようになった。


俺、アルト・シュヴァイツァーの名は、もはや単なる一冒険者ギルドのマスターではなかった。王国に屈せず、辺境の地から新たな時代の流れを創り出す、『辺境の小王』。いつしか、俺はそう呼ばれるようになっていた。


王都では、自分たちの愚策が最悪の結果を招いたことに気づいた国王と貴族たちが、俺の存在を、もはや無視できない、国家を揺るがす脅威として認識し、新たな対応を協議し始めていることなど、この時の俺はまだ知る由もなかった。

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