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第十話:錬成武具の衝撃

伝説の鍛冶師ハガネを仲間に加え、広大な屋敷を手に入れた俺たちは、いよいよギルド《アルカディア》の設立に向けて本格的に動き出した。幽霊屋敷と恐れられていた館は、俺たち四人(一人はハンマーだが)の手によって、活気あふれる拠点へと生まれ変わろうとしていた。


まず取り掛かったのは、屋敷の大掃除と改装だ。ミコトがその怪力で瓦礫や不要な家具を運び出し、ルナが風魔法で隅々まで埃を払い、俺は壊れた箇所を【スキル錬成】で作り出した補強材で修復していく。何百年もの間、時が止まっていた屋敷に、少しずつ人の温もりが戻っていくようだった。


そして、その中心となっていたのが地下の鍛冶工房だ。


『おいマスター! 炉の火力が足りん! もっと純度の高い炎の魔石を錬成できんのか!』

「わかった、わかった! 今やるから、そんなに急かすなよ!」

『わしに言わせれば、おぬしの手際はカタツムリが這うよりも遅いわ!』


ミスリル製のハンマーに宿ったハガネは、口うるさい親方そのものだった。彼女は宙に浮かびながら工房内を飛び回り、俺に次々と指示を出す。俺は彼女の要求に応えるため、【スキル錬成】をフル回転させた。炎の魔石と風の魔石を組み合わせて燃焼効率を極限まで高めた【蒼炎石】を創り出し、ただの鉄だった金床を、魔力を帯びたミスリルとアダマンタイトの合金へと錬成し直す。


俺の規格外の素材創造能力と、ハガネが持つ神代の知識が組み合わさることで、工房は一日一日、その姿を変えていった。それはまさに、奇跡の工房ワークショップが誕生する瞬間だった。


改装と並行して、ハガネが宣言していた通り、ミコト専用の武具の開発が進められていた。

「ミコトの拳は、あまりにも強力すぎる。普通の籠手じゃ、一撃で衝撃に耐えきれず自壊してしまうだろうな」

『うむ。じゃから、ただ硬いだけでは意味がない。相手に与える衝撃を倍加させ、なおかつ本人への反動を完全に殺す。そんな矛盾した性能を両立させる必要があるわい』


俺とハガネは、何日も夜を徹して議論を交わした。そして、一つの結論にたどり着く。


「衝撃を吸収するスキルと、衝撃を反発させるスキル。この二つを、素材そのものに練り込むんだ」

『ほう! 面白い! やってみる価値はある!』


俺はジャンク市場を駆け回り、必要なスキル珠を探し出した。【物理耐性(劣化版)】と【反発カウンター】。どちらも冒険者からは見向きもされない低品質のスキル珠だ。俺はこれを、先日創り出した最高純度の『魔鋼石』と共に、錬成陣の中心に置いた。


「いくぞ、ハガネ!」

『おう! 任せろ、マスター!』


俺は全神経を集中させ、スキルを発動させる。

「【スキル錬行】!」


眩い光が工房を満たす。俺は、ハガネの知識を頼りに、魔鋼石の分子構造に二つのスキルの概念を直接刻み込んでいく。それは、もはや鍛冶というより、神の領域に近い作業だった。


『炉の温度を上げろ! 魔力の循環が滞る!』

「くっ……!」


ハガネの声に導かれ、俺は必死に魔力を注ぎ込む。数時間にも及ぶ格闘の末、光が収まった時、そこには今までに誰も見たことがない、異質な輝きを放つ金属塊が完成していた。


『……できたわい。スキルを宿す金属……わしが生涯を懸けて追い求めた夢の素材が、今ここに……』


ハガネの声は、感動に震えていた。

その素材を使い、今度はハガネがその神業を披露する番だった。宙に浮かんだミスリルハンマーが、まるで生きているかのように躍動し、燃え盛る金属を叩き、鍛え上げていく。火花が散り、甲高い金属音が工房に響き渡る。その光景は、あまりにも幻想的で、俺もルナも、ただ息を呑んで見守ることしかできなかった。


そして三日後。ついに、その武具は完成した。


漆黒を基調としながらも、光の角度によって橙色の紋様が浮かび上がる、流線型の美しい籠手ガントレット。それは、ミコトのしなやかな腕にぴったりとフィットするように設計されていた。


「これが……私の?」


ミコトは、恐る恐るその籠手を装着する。すると、籠手は彼女の魔力に呼応するかのように淡く輝き、まるで体の一部であるかのように完全に馴染んだ。


『名は【百獣の爪牙ベスティア・クロウ】。おぬしだけの、魂を宿す武具じゃ』


ハガネが、誇らしげに言った。



ギルドハウスの改装が一段落し、ミコトの専用武具も完成した。機は熟した。俺たちは満を持して、冒険者ギルドへと向かい、ギルド設立の申請書を提出した。


ギルドマスターの厳ついドワーフは、俺たちが提出した書類と、担保として提示した屋敷の権利書を見て、最初は半信半疑の顔をしていた。だが、俺たちのこれまでの圧倒的な依頼達成率と、潤沢な資金を見て、最終的には納得せざるを得なかったようだ。


「……よかろう。本日をもって、貴様らのギルド《アルカディア》の設立を正式に認可する。ただし、他のギルドとの揉め事は起こすなよ。健闘を祈る」


こうして、俺たちのギルドは、辺境の街フロンティアに正式に誕生した。追放されてから、わずか二月あまり。俺の人生は、信じられないほどの速度で動き出していた。


ギルド設立の祝杯を挙げる間もなく、俺たちはその足で新たな依頼を受けた。ギルドとしての最初の仕事だ。それは、近郊の渓谷に巣食うワイバーンの討伐依頼。危険度が高く、数週間もギルドに張り出されたままになっていた厄介な案件だった。


「最初の仕事にはちょうどいい。俺たちの力を、この街の連中に見せつけてやろう」


渓谷に到着すると、鋭い風切り音と共に、巨大な影が空から舞い降りてきた。全長十メートルはあろうかという、鱗に覆われた飛竜、ワイバーンだ。その咆哮が、谷全体を震わせる。


「ルナ、牽制を! 俺が弱点を探る!」


ルナの放つ魔法の矢が、ワイバーンの翼や脚を的確に狙い、その動きをわずかに鈍らせる。俺は【アイテム鑑定】の上位互換として錬成した【構造解析】スキルで、ワイバーンの防御構造を分析する。


「……わかった! 首の付け根、逆さに生えている鱗の下が一番装甲が薄い!」


「そこか! もらった!」


俺の報告が終わるよりも早く、ミコトが地を蹴っていた。彼女は、切り立った崖を獣のような身軽さで駆け上がると、ワイバーンの頭上へと跳躍した。


「グルアアアア!」


ワイバーンが、空中のミコトをその巨大な顎で食いちぎろうとする。だが、ミコトは冷静だった。彼女は迫り来る牙を、新しく手に入れた籠手、【百獣の爪牙】で正面から受け止めた。


ゴォンッ!!


鈍い衝撃音。信じられないことに、ミコトの小さな体は、ワイバーンの噛みつきをびくともせずに受け止めていた。


「なっ……!?」

「効かない。あんたの力、全部こいつが吸い取ってる」


籠手に宿る【物理耐性】のスキルが、ワイバーンの強大な顎の力を完全に吸収していたのだ。そして、ミコトは不敵に笑うと、吸収した力をそのまま乗せて、拳を振り抜いた。


「そして、倍にして返す!」


【反発】スキルが発動する。ミコトの拳から、ワイバーンの力を倍加させた衝撃波が放たれた。それは、俺が報告した弱点、首の付け根へと寸分の狂いもなく叩き込まれる。


ズドォォォォンッ!!


今まで聞いたこともないような、凄まじい破壊音が渓谷にこだました。ワイバーンの巨体は、まるで子供のおもちゃのように宙を舞い、そのまま地面に叩きつけられる。その首の付け根は、内側から爆発したかのように、無残に砕け散っていた。


圧倒的、だった。あのワイバーンを、ミコトが、たった一撃で。

これが、【スキル錬成】と【神代鍛冶】が生み出した「錬成武具」の力。常識を、世界の理さえも覆す、規格外の武具の誕生の瞬間だった。


ワイバーン討伐の報は、すぐに街中に広まった。そして、それ以上に冒険者たちの間で話題になったのは、ミコトが装着していた漆黒の籠手と、俺たちのギルド《アルカディア》の名だった。


「あの《アルカディア》の獣人が着けていた籠手、一体何なんだ?」

「ワイバーンの牙を正面から受け止めて、逆に一撃で沈めたらしいぞ」

「馬鹿な、そんな武具があるわけない。伝説級の魔法武具でも不可能だ」


噂は噂を呼び、憶測は憶測を呼んだ。俺たちが、既存の武具の概念を覆す、未知の力を持っているらしい。その噂は、やがて他の大手ギルドや、武器商人たちの耳にも届くことになる。


それは、俺たちのギルド《アルカディア》が、大きな注目と、そして新たな嵐の中心になろうとしていることの、紛れもない前兆だった。

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