第8話 ペットショップの誠意と飼い主の気持ち
「ふむ…。これは先天性の病気ですね。うちならペットショップの保証金の範囲で手術までできますよ」
大病院の先生が診断書を渡しながら、さらりと言った。
「保証金?」
初めて聞く言葉に、私は思わず聞き返す。
「はい。先天性の病気が見つかった場合、販売価格の半額まではペットショップが負担してくれるんです。うちはそのショップと提携しているので、手術代は直接請求しちゃいますよ」
……えっ、そんな制度があるの!?
今まであれほど必死に悩んでいたのは一体なんだったのか。
「ただ、心臓の手術なのでリスクも――」
「私、この手術で失敗したことないですよ。お腹は切るので術後は絶対安静ですけどね」
先生は軽い調子で笑って言った。
その軽さが逆に怖い。ほんとに大丈夫なの…?
* * *
半信半疑のまま、私たちはペットショップへ向かった。
診断書と病院で聞いた話を伝えると、店員さんは快く半額負担を受け入れてくれた。
ただ、「病院から直接請求」のくだりで、一瞬だけ表情が曇ったのが気になったけれど…。
それでも、先生の腕は信用できると店員さんから太鼓判をもらえた。
――なら、この人に任せるしかない。
(癒し猫もいるから、入院中のルイくんもきっと寂しくないだろうしね!)
* * *
残る問題は、入院前夜の対応だ。
大抵は食事禁止になるため、どこかでつまみ食いされると困る。だから檻に入れておく必要があるのだが――
飼い主の不安なんてどこ吹く風。
ルイくんは檻をカジカジ、カジカジ……。
……ちょっとは成長しな?w
* * *
入院は3日間。
短いはずなのに、ルイくんの存在感はすでに絶大で、家から姿が消えただけでお通夜のように空気が重くなった。
――もしルイくんに何かあったら、ルイくんロスで瀬田川家が崩壊するのでは?
そんな不安すらよぎる。
* * *
しかし、家族の心配をよそに、ルイくんはケロっとした表情で退院してきた。
あまりのノー天気っぷりに、思わずひっぱたいてやろうかと思ったけど……お腹の傷を見たらその気は失せた。
手術は麻酔を使うとはいえ、お腹を切られてカラーまでつけられるのだから、不安やストレスも大きいだろう。
「お疲れ様。そしてもう少しだけ、不便だけど我慢してね」
私がそう思っても、ルイくんはお構いなし。
家に着いたら真っ先に遊びだすこの根性、ほんとなんというか……。
カラーのせいで食事や水飲み、移動は大変そうだったけれど、あっけらかんとした表情のおかげで、私たちも必要以上に心配せずに済んだのは救いだった。




