第10話 仁義なき看守の監視任務
「こら! サチ!!」
洗面台の下で粗相したサチを、檻に入れようと私は必死に追いかけていた。
家中を駆け回るサチを追い続け、ようやくテレビの脇に追い詰めることに成功する。
私はジワリジワリとサチに近づいた。
サチは追い詰められると、ただのじゃれる猫ではなく、本気で攻撃してくる猫に変貌する。
その攻撃力は全然違う。本気モードのサチの爪は、冗談抜きで肉が抉れるレベルなのだ。
追い詰められたサチは、人の顔をジッと見つめーーー
テレビの脇でジョーーーー……。
最後の抵抗でもう一発やりやがった。
「……おいおい、勘弁してくれ~…」
ため息をつきながらサチを捕まえ、私はテレビの脇と洗面台の掃除を始める。
猫は一度用を足した場所を覚える。
(匂いが残るから、という説もあるが……。)
匂いの強めの洗剤でゴシゴシと洗い、乾かした後に消臭スプレーをしっかり吹き付ける。
実はこの作業、思っている以上に手間がかかるのだ。
* * *
こうして捕獲されたサチは、監獄へと入れられることになった。
しかし、サチはじゃれるのが大好きな子でもある。
私は夜寝る前に、猫たちをひとしきりじゃらしてから眠るのが日課になっている。
だから、檻の中にいるサチは、この時間になるとそわそわと落ち着かなくなるのだ。
ーーーその姿を見ると、やっぱり可哀想に感じてしまう。
「運動は、ちょっとくらいした方が良いよね?」
私はつい、サチを檻から出してあげる。
警戒心を隠さず、慎重に少しずつ檻から出てくるサチ。
だが、私がレーザーポインターを点けると、状況は一変する。
サチは赤い光を追いかけて一目散に走り出した。
短い脚で必死にポインターを追うサチの姿は、何度見ても可愛らしい。
じゃれるのが大好きな彼は、反応が誰よりも素早くて激しい。
こちらまで楽しくなり、つい夢中で遊んでしまう。
そんな時だったーーー。
1階で寝ていたルイが、物音を聞きつけて私たちのもとへやってきた。
「お? ルイ君もやる気になったかな?」
私は試しに、ルイの方へレーザーポインターを動かしてみる。
だが、ルイは光には目もくれずーーー
サチを追いかけ回し始めた!!
「ちょっと! ルイ!!」
私は慌てて、サチを追うルイをさらに追いかける羽目になった。
サチは1階へ駆け降りる。
ルイもそれを追って1階へ駆け降りる。
私も必死に後を追いーーー。
リビングを駆け巡ったサチは、再び階段を駆け上がり2階へ。
そしてそのまま、自ら檻へと飛び込んでいった。
さらに追いかけてきたルイも、その勢いのまま檻に入り込みーーー
サチ用に置いてあった餌を、当然のようにムシャムシャと食べ始めた。
「ぐるにゃん」と可愛らしい声をひと鳴きすると、満足したように檻から出ていく。
その後、私はそっとサチの檻を閉めた。
……ルイ看守はサチの逃亡を絶対に許さない。
檻から勝手に出た(ことになっている)サチの餌まで没収する、容赦のなさ。
鬼畜の看守っぷりである。
もちろん、後でサチには新しい餌を入れてあげたけどね。w




