第1話 出会い
登場人物(と猫)
ノル
ノルウェージャンフォレストキャットの愛称。世界的に見ても巨大な猫。寒い森を生き抜くための3層毛を持つ、由緒正しき“北欧のもふもふ”。
ルイ(ノルウェージャンフォレストキャット)
この物語の中心猫物。
私(瀬田川由比)
都内のOL。生き物全般が好き。
ママ(瀬田川霞)
私の母。2人で一軒家暮らし。
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第1話 出会い
ある夏の日、私はママとペットショップにいた。
目的は、気まぐれで始めた庭の小さな池に入れるメダカを買うこと。
最初は池に水とアイリスを入れて、ホテイソウを浮かべるだけだったのだが、「何か外で飼える生き物が欲しい」と思ったのが始まりだった。
けっこう大きめのペットショップは、1階が哺乳類で地下が水生生物専門。
私たちは動物全般が好きだったので、まずは哺乳類売り場をざっくり見て回った。
しかしちょうどお昼時で、猫売り場の猫たちは休憩中。ほぼスルーすることにした。
犬の売り場も見たが、実はうちでは犬を飼うつもりはもうない。
ペットといえば犬と猫が定番だが、犬の世話は結構大変だ。
外でも室内でも散歩は必須。餌も決まった時間に与えなければならないし、旅行などの際はペットシッターに預けなければいけない。
吠える声は大きく、爪を立てて歩くので室内なら床が傷つく。
嫌いではないが、日中家にいない私と年老いたママでは飼いきれないのだ。
* * *
地下でメダカを20匹ほど買い、餌と水草を購入した私たちは、帰路につこうと再び1階へ上がった。
その時間には猫の休憩が終わっており、ちょうど見ることができた。
うちにはすでに猫が4匹いる。どうせ見ても買うつもりはない―――はずだった。
軽く眺めていた私の視線の先に、タビー・ブラウン(茶トラ)のノルウェージャンフォレストキャットが映った。
目が合った瞬間、彼は一言。
「にゃん」
私はその檻へ、なんとなく近づいていった。
――ノルウェージャンフォレストキャット
生後……2か月!?
思わず声が出てしまった。
ペットショップの猫は、生後3か月はブリーダー(親元)にいるものだと思っていた。
子猫は――
・生後1~2週間で目が見えるようになる。
・生後1か月ほどで乳離れが始まり、離乳食を食べ始める。
・次の1か月で先天性の病気検査や健康チェックを行う。
・その後、ペットショップに出される。
そんな認識だった。
なぜ3か月待つかといえば、子猫には突然死というリスクがあるからだ。
販売直後に死んでしまえばクレームになりかねないので、慎重になる。
それなのに、この子は生後2か月で店頭に出ている――。
私はじっくりとノルを観察した。
端正な顔立ちだが、必死に檻をかじっている。
(ハンサムだけど、頭は悪そうだな……w)
ペットショップの闇の一つに「販売中の猫は餌が制限される」というものがある。
大きくなりすぎると子猫として売りにくくなるからだ。
この子はギリギリで検査を終えた直後に来たようで、餌制限の期間は短い。
つまり―――
今日からうちに来れば、制限なくご飯を食べられる。
ノルウェージャンフォレストキャット、本当に“大きく育つ”かもしれない。
私は迷わなかった。
すぐにママを呼び、この端正な顔立ちでちょっとおバカそうなノルを購入したのだった。




