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第一章 炎の夜、失国 六 小さな灯
崩れた家の前で、女が膝をついていた。瓦礫の下から、幼子の手が見える。
「誰か、誰か……!」
近くの兵は門へ走っており、誰も立ち止まれない。女の指が血で滑る。
ミコトは踊り場からその姿を見つけ、足が勝手に階を駆け下りていた。
(結界を離れれば、弱る。それでも——)
彼女は護符を一枚、瓦礫の隙に滑り込ませた。
「狐火、灯って。熱ではなく、光だけ」
ふっと、柔らかな灯が生まれ、狭い空間を満たした。
子の手がぴくりと動き、女の指が確かにそれを握る。
「……ここにいるよ、怖くないよ」
その一瞬だけ、城の喧噪は遠のいて見えた。
(守れた——ひとつだけでも)
背後で爆ぜる音。踊り場の手すりが砕け、ミコトは顔を上げた。
東土塁の彼方、黒鉄の旗がついに前進を始める。




