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第一章 炎の夜、失国 五 裂け目
五撃目の砲声は、音ではなく圧だった。
東土塁の結び目が眩い白を吐き、次の瞬間、音もなく裂けた。
結界の膜がそこだけ薄くなり、矢の束が雨脚を変えて城内へ突き刺さる。
「伏せろ!」
ミコトは体を投げ出し、護符を扇のように広げて薄膜を仮接ぎする。
血が掌に滲む。指先の感覚が遠のく。冷たい汗が背に流れた。
「姫様!」近衛が駆け寄る。
「大丈夫。——まだ、結べる」
彼女はひとつ深く息を吸い、目を閉じた。
背後の喧噪が遠のき、鈴の音だけが耳奥で鳴る。
(見える。糸の流れ。結び目のほつれ。手順は——こう)
薄い光の糸が指の間に現れ、彼女は、それを結ぶでもなく「撚り直す」。
桜色が一段濃くなり、矢の何本かは弾かれた。
だが、その瞬間を軍師は見逃さない。
「右側面、魔導砲。交互射。……ひとつずつ、呼吸を奪え」
二門が交互に吐く。祈りの呼吸と砲の鼓動をずらし、結び直しの間隙を叩く。
結界は薄い紙を連ねたように脆く揺れ、城の石は熱で鳴いた。




