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第一章 炎の夜、失国 四 群像:城壁の上で
若い弓兵は乾いた喉で唇を舐め、父の形見の腕布を握った。
(怖い。でも、矢は飛ぶ。弦は鳴る)
彼は狙いを下げ、弓を引いた。最前列の旗持ち——鉄の面頬の目の隙間。
矢は風を裂き、面頬に当たり、火花を散らして弾かれた。
「くそっ、鉄張りか!」
年長兵が肩を叩く。「怯むな。狙いは関節。膝、肘、首の付け根」
女水汲みは桶を抱えて走る。火薬庫へ、負傷兵へ、井戸へ。
(わたしは祈れない。でも、この水は祈りになる)
桶の水面に、薄く桜色の光が揺れた。結界の反射。
「姫様……」口の中で、誰に聞こえない声を落とす。
老臣は城内の回廊で小祈祷の文を配り、子どもらを地下蔵に誘導する。
「声を出さぬ祈りこそ、長く続く」
震える手を袖の中に隠し、足を止めない。
——皆が、各々の位置で「結ぶ」ことをしていた。




