実家暮らしの31歳配信者だけど、視聴者に愛されすぎて人生イージーモードになった件ナハハハ
広末直哉、通称ヒロちゃんは、三十一歳の春を実家の二階で迎えていた。パソコンのファンが回る音と、階下から聞こえる母の声だけが、彼の世界を満たしている。
「今日もよろしくお願いしやす」
配信を始めると、いつものようにコメントが流れ始める。「ヒロちゃんおはよー」「今日は何するの?」「声がいいね」。彼はそれらを読み上げながら、心の中で複雑な思いを抱いていた。
画面に映る自分の顔を見ると、どうにも落ち着かない。昔から「かっこいい」と言われることが多かったが、それが素直に嬉しいとは思えなかった。むしろ、見た目だけで判断される窮屈さを感じていた。
「今日はこのゲームでもやろか」
モンスターを集めるRPGを起動する。レベル上げが面倒で、普段はこういう面倒くさいゲームや長編ゲームを避けるのだが、視聴者のリクエストに応えることにした。
ゲームを進めていると、突然ホラー要素のあるダンジョンに入ってしまう。
「うわあああ!なんやこれ!…やばい、ちょまって…あかん!あかん!やばい、やばい!ガッ!やばい!!アッ ちょまって、やばい、まじで、クッ、落ち着け、クッ、ハッ、やばいっ…!」
関西弁が出てしまう。心拍数が上がり、手が震える。子供の頃から、こういう暗い場所や突然の音が苦手だった。
「ヒロちゃんビビりすぎw」「かわいい」というコメントが流れるが、彼にとっては真剣な恐怖だった。
「もうあかん、別のゲームにしよ。うんこ漏れるわ。」
結局、いつものパズルゲームに変更する。単純な操作のゲームなら安心できる。でも時々、迷路みたいなステージになると道に迷ってしまう。
「あれ?どっちから来たんやったっけ?」
方向感覚が全くない。現実でも、地元なのに時々道に迷うことがある。視聴者は笑っているが、彼は真剣に困っている。
配信の合間に、階下から母の声が聞こえてくる。
「直哉、昼飯できたで」
「はーい」と返事をしながら、彼は配信を一時中断した。
階下に降りると、兄の家族が来ていた。兄の娘、つまり彼の姪が元気に走り回っている。そして食卓には、大柄な父親が座っていた。
「ナオちゃん!はよ食べやんかい!」
姪がそう呼ぶと、彼は苦笑いを浮かべる。姪っ子の中でも「ちゃん」なのか、と思いながら。
「直哉」
父親が低い声で呼んだ。
「昼飯に行った牛丼屋にはお前みたいなしょぼくれたヤツがようさんいた」
いつもの調子だった。父親は元々こんな調子で、直哉のことを見下すような物言いをする。笑うこともなく、ただ冷ややかに息子を観察している。
「何しとるん?」と兄が聞く。
「配信や」
「まだしとるんか、頑張っとるんやな...」
兄の言葉には軽い諦めが混じっていた。直哉も分かっている。三十過ぎて実家で配信生活というのは、一般的には褒められたものではない。
父親は何も言わなかったが、その冷たい視線が突き刺さるように感じられた。まるで失敗作を見るような目で直哉を見ている。
でも、これが彼の居場所だった。
食事を終えて部屋に戻ると、配信を再開する。
「ただいまー。飯食っとった」
「おかえり」「何食べたの?」「コオロギ?」というコメントに、彼は少し心が軽くなる。こうして気にかけてくれる人たちがいる。
ゲームを続けていると、突然笑いが込み上げてくる。キャラクターがおかしな動きをしたからだ。
「ンナハハハハハハハハハハ」
「トンカツや!!」
特徴的な笑い声が部屋に響く。自分でも不思議な笑い方だと思うが、もう癖になってしまっている。
夕方になると、配信を終える時間だ。
「今日もありがとうございました。また明日も頑張りますんで。」
配信を切ると、急に静寂が部屋を支配する。
窓の外では、同世代の人たちが仕事から帰ってくる姿が見える。彼らには家族があり、社会的な地位がある。一方で直哉には、この小さな部屋と、画面の向こうの視聴者しかいない。
でも、それでもいいのかもしれない、と彼は思った。
この部屋で、この配信...いや、この作品で、誰かを少しでも楽しませることができているなら。誰かの日常に、小さな笑いを届けることができているなら。
直哉は明日の配信のことを考えながら、ベッドに横になった。
三重の夕暮れが、部屋を優しく染めている。
明日もまた、ヒロちゃんとして画面の中で笑うのだろう。それが、広末直哉という男の生き方だった。




