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龍の秘め事

挿絵(By みてみん)


琴吹が龍王院家に入り、天皇からの承認儀式を経て正式に公として龍王院家当主となって公務を執り行うようになった頃、龍王院家に事件が舞い込んできた。

「‥という事で以下の件は処理しました

それと‥朱雀王子家から一条塚の魂遷しの祭礼の依頼が来ております」

真十郎が朝食後の席で一連の報告の後に最後にそう言うと千代丸は青い顔をして取りかけたカップを置いた。その余りの動揺ぶりに琴吹は千代丸を見る。

「一条って言えば姫ちゃんの母上の実家だよね?

何でうちが祭礼やんのさ?」

先日教えられた一条家と朱雀王子家の関係を知っていた琴吹はそう返した。琴吹は真十郎に聞くが真十郎は口籠ったまま千代丸に視線を移す。

「先日お話ししたように一条家は宮家から信頼厚い公家の一族です

ですが一度だけ二つに割れた歴史があるのです

もう千年近く昔になりますが東宮と弟宮のどちらが次の天皇となるか争った時代がありました

その時、我々、四神四家も割れ、東宮側には朱雀王子家と一条尊明いちじょうたかあきら公を始めとする東宮派の公家のが付き、弟宮には我々、龍王院家と武藤司家、そして尊明公の息子の義明よしあき公を始めとする弟宮派の公家が付きました

虎蔵守家はその争いには参加せずに沈黙を守ったんです

その争いは熾烈を極めましたが武藤司家の裏切りにより結局は東宮派の勝利に終わりました

弟宮を始めその争いに加担した者は悉く処刑や御家断絶等の処分が下りましたが我が龍王院家は四神四家という事でその処分を免れ厳罰のみの処分で済んだので今もこうして残っています

そして宮家に忠義厚き一条家でありながら弟宮に付いた事で義明公も妻子共々、処刑されてしまいました

その妻というのが龍王院家の姫であった為に義明公は一族に反して弟宮に付かなければならなかったのです」

「うん‥其処まではこの間、一条家に纏わる話の中で聞いたから覚えてるよ」

其処で千代丸が話を切ると琴吹は返す。

「義明公は術者ではありませんでしたがとても霊力が高く、死して怨霊とならぬよう天皇となった東宮の命で龍王院家が力と御霊を封印したのが一条塚です

それは汚名を注ぐ為に盟友を封印せよという天皇からの罰でもありました

それ故に一条塚は龍王院家が徹底管理してきたのです

ですがその御霊は龍王院家の先代の代替わりの際に祭礼が滞り何処かへ消えてしまい、今は義明公の力だけが封印されているのみです

が、この話には我々、龍王院家の者だけが知っている続きがあるんですよ

処刑された義明公の妻子は実は偽物で本物は一族の者に隠され内々に当時は宮家の目の届き難かった今の関東方面に落ち延びていたんです

そして朱雀王子家に悟られぬよう優秀な眷属を付けて連絡を絶ちました

それから陰ながら眷属に守られ細々と義明の血を継いできたんです

我々、龍王院本家も不定期にその眷属から義明公と姫の子孫が無事であると時折、報告を受けていました

もしこの事が発覚すればその子孫は罪人として朱雀王子家に処分されてしまいますからこちらからは何も出来ずにその報告を受けるのみだったのです

しかし十年ほど前にその直系男児が行方不明になったと報告を受けてからまだその消息は掴めていません

我々も朱雀王子家に悟られないよう、内々に行方を追っていたのですが結局見つかりませんでした

もし普通に亡くなっているならそれに越した事はありません‥自然に途絶えたというだけの事ですので‥

ですがもし朱雀王子家に捕らえられているのだとしたら‥いえ、恐らく魂遷しという事は捕らえたのだと思います

そして一条塚に封印されている義明公の残された力の一部をその器である身体に移し、罪人として処分されるおつもりなのだと思います」

青い顔のまま千代丸が締め括る。

「それってつまりその器の人は殺されるって事?」

琴吹が聞くと千代丸は無言で頷く。

「義明公の子孫は自分がそんな境遇の血筋だとは知りません

そうする事でようやく宮家や朱雀王子家の目を掻い潜って生きてきたのですから‥

ですからもし捕らえられているならなぜ自分が処刑されなければいけないかも理解出来ていない筈です」

捕捉するように真十郎が言うと琴吹はその器の人物と自分を重ねていた。自分も降って湧いたような事実に混乱はしたが結局のところ、こうして十分な暮らしをさせて貰っている。しかしその人物はいきなり罪人として処刑される運命しかないというのは何とも哀れでしかなかった。

「それはあんまりにも可愛そう過ぎない?

何とかならないのかな?」

琴吹が言うと千代丸は更に俯いた。

「この件に関して当時、弟宮派だった我々が物申す事は出来ないんです

しかも逃亡に加担している事が知られればまた何かしら処分が下るかもしれません

こちらから否を唱える事も真実を打ち明ける事も出来ないんです」

少し声を震わせながら千代丸が言うと琴吹も言葉を失った。

「それでその魂遷しの祭礼って何時?」

「明日執り行うとの事です」

琴吹が聞くと真十郎は神妙な顔で答えた。

「それじゃ対策を練る時間も無いな」

琴吹も難しい顔で考え込みながら言う。何とか明希に相談出来れば何かしら方法があるかもしれないとも思ったが時間が無い上に明希は今、朱雀王子家の人間で下手に相談すれば悟られる可能性もある。琴吹は八方塞がりになった。

「何とか理由を付けて伸ばせないかな?」

「それは不可能です

公の祭礼を下手に遅らせようとすれば不信感を抱かれてしまいますので‥」

琴吹が続けると千代丸がそれに応えた。難しい顔で三人が考え込んでいると心がやってくる。

「失礼します、明日の祭礼の件で朱雀王子家から遣いが参っておりますが如何致しましょうか?」

その言葉にハッとして三人は心の方へ顔を向けてからもう一度お互いの顔を見合わせた。

「とりあえず遣いの者から話を聞いてみましょう

謁見の間では無く離れの方へ通して下さい」

千代丸は二人に言ってから心にそう指示した。心はそれを聞いてまた退室していき、そして三人は何の対策も無いままとりあえず離れの方へ向かう。千代丸は琴吹が迂闊な事を言わないように自分が話すから黙っているよう事前に口止めした。離れに来ると朱雀王子家の筆頭眷属で公に智裕の代理も務める鳳凰院家の当主、聖月みづきが頭を下げて待っていた。

「久しいですね聖月‥お元気でしたか?」

千代丸がそう声をかけると聖月は顔を上げて微笑んだ。

「はい、千代丸様もお元気そうで何よりでございます

そして琴吹様にもご機嫌麗しゅう存じます」

聖月が言うと琴吹も微笑んで返す。輿入れの時に手取り足取り教えながら琴吹に付き合ったのがこの聖月だったので見知った顔に少しほっとした。

「今回、一条塚の魂遷しとの事ですが器が見つかったのですか?」

腰を下ろすと千代丸は単刀直入に聞いてみる。

「はい、虎蔵守時生の件で色々調べておりまして偶然に見つかったのです

我々もまさか一条義明公の子孫が生き延びているとは思いもしませんでしたので驚きましたが‥」

聖月は微笑みながら返すがその目は千代丸の動向を探っている。千代丸と真十郎はそれにすぐに気付いたが琴吹は気付いていない。

「時に千代丸様‥義明公にはそちらの姫以外に側室が居られたのでしょうか?

公の記録にはそう言った事が残されておりませんのでこちらとしても少し戸惑いがありましてこうして伺わせて頂いたのですが‥」

相変わらず探りを入れるように聖月が続ける。

「どうでしょう‥我々も詳しくは前当主からは聞かされておりませんのでその辺は分かりません

ですがもう千年近く前の事ですから落とし種くらいは居たかもしれませんね」

「そうですか‥では智裕様にもそうお伝えしておきます」

千代丸が表情も変えずに当り障り無く答えると聖月も微笑んで返す。

「それと塚の周りに祭礼用の支度を本日よりさせて頂きますので明日の正午に琴吹様には魂遷しの祭礼の方をお願い致します」

聖月はそう言って頭を下げた。

「最後に少しだけ聞いても良いですか?」

聖月が下がる前に千代丸が仕掛けると聖月は不敵に笑みを浮かべて千代丸を見る。

「何でしょう?」

答える聖月の目は明らかに千代丸の失言を待っていた。

「その方は己の素性はご存じなのでしょうか?」

千代丸がただの興味だというくらいの定で質問すると聖月は少し肩透かしを食らったような表情をした。

「いいえ、全く‥己が罪人の家系だとは知らなかったようです

少し哀れな気もしますが我々もお役目ですので仕方ありません」

「そうですか‥」

「では私は準備がありますので失礼します」

更に聖月は仕掛けるも千代丸はそれに食いつかず諦めて聖月は頭を下げると去っていく。

「やはり探りを入れてきましたね」

完全に聖月の姿が見えなくなり、暫くしてから真十郎がようやく一息吐いて千代丸に言った。

「そうですね‥やはり薄々は義明公の妻子を逃したのが当家だと勘付いていたのかもしれません

たぶん誤魔化せたとは思いますがこれでもう迂闊な事が出来なくなってしまいました

明日の祭礼は予定通り執り行うしかないでしょう

後はもう一度、祭礼の後で考える他ありませんが最悪は知らぬ存ぜぬを通さなければ今度は当家も危うくなってしまいますからどうか琴吹様もそのおつもりで明日の祭礼には望まれて下さい」

千代丸の言葉にようやく琴吹はあのやり取りの中にそう言う駆け引きがあった事を知ると複雑な顔で頷いた。


翌日、一同は支度を整えると一条塚へ向かう。一条義明の墓標とはいえ名目は罪人である為に表立った場所では無く一条本家の墓地とは離れた人気のない寂しい場所にひっそりと建っていた。しかし祭礼の時には儀式場を作るのでそれなりに開けた場所になっていて控のテントも設置出来るほどの面積もある。琴吹達が到着した時には急ごしらえとは思えないほどの式場が作られていて外から塚は見えないようになっていた。

「ご苦労はんです」

到着してすぐに智裕が出迎えにきた。

「準備が整いますまで皆様、此方でお寛ぎ下さいませ」

智裕と一緒に出てきた久世が言うと一同は控のテントの方へ移動して出されたお茶を飲んでその時を智裕達と待つ事になる。

「これで一条の家もようやっと汚名を注ぐ事が出来るしそちらさんも潔白が証明できて宜しおしたなぁ」

智裕がにこやかに言うと少し琴吹は複雑な気分になった。

「それも智裕様が器を見つけて下さったお陰です

本当に感謝しておりますよ」

千代丸は打ち合わせ通り何も知らない定で智裕と話している。琴吹と真十郎も出来るだけ表情を崩さずただ黙ってそれを聞いていた。

「しかし虎蔵守の事を調べておいでの時に見つけられたとお伺いしましたがどういった経緯で見つけられたんですか?」

千代丸が先に仕掛けた。

「調べて見つけた言うても意外と近くにおったんです

初めて会うた時は神威が五人もおりましてな‥まさかその内の一人が義明公の器や気付きまへんでしたんや

せやけどその人物に虎蔵守がちょっかい出すんで疑問が湧いてきて調べてみたらなんと義明公の子孫でしてん」

智裕は相変わらず世間話するかのように答えたがやはり千代丸の動向を注意深く見ていると琴吹と真十郎は気付く。

「器は神威なのですか?」

少し千代丸が驚いたように聞き返した。

「そうです、もし義明公が其処らの女に産ませた落とし種やとしたら在り得へん事ですけど‥神威を纏う直系男子が出るんは余程の術者の家系しかありませんからなぁ」

相変わらず顔は笑っているが智裕の視線は鋭い。

「其処はやはり義明公の霊力の高さなのでしょうね

こうして怨霊とならぬように力を封印される程なのですから‥」

千代丸も負けじと笑顔で返す。

「準備が整いましてございます」

話している一同に従者が声をかけた。

「ほな行きましょか‥

せやけどホンマに冗談みたいな話でうちも発覚した時は笑うてしまいましたわ‥」

智裕が話しながら立ち上がると琴吹達も立ち上がり短い通路の先にある式場内に続くテントの脇の垂れ幕が上げられる。その先には儀式用の祭壇とその一番奥に1mほどの石碑があり祭壇と石碑の間には器になる人物が罪人用の結界で囲われ石碑の方を向いて座っていた。

「まさかダーリンが器やとはうちも思いもしまへんでしたわ」

琴吹達がその光景に驚いて固まる中、智裕は最後にそう言った。

「あの‥これは一体‥」

流石の千代丸も動揺しながら聞くが琴吹と真十郎は何が起こっているのか呑み込めずに言葉も無くただ固まっている。

「養子になって今は「三上」名乗ってますけどダーリン前は一条いう名字でしてん

せやから余計に気付くのが遅れたんです

ともあれ宜しゅうに儀式の方お願いしますえ?」

智裕は琴吹達に言うと祭壇の手前に設えられた席に腰を下ろす。他にも正装をした十数人が祭壇を囲むように座っていてどうやら宮家の人間も居るらしく見慣れない者も居た。

「四神四家だけでなく宮家の人間も居ますのでとにかくこの場は儀式を執り行う他ありません

琴吹様‥思う所はおありでしょうかどうかお家の為に此処は手筈通りに儀式の方を宜しくお願いします」

まだ不慣れな当主に指示を出す事を承諾して貰っているので千代丸は指示を出す振りをしながら琴吹にそう耳打ちした。琴吹はそれを聞くと少し表情を歪めながら小さく頷く。

そして儀式は執り行われ明希の身体に義明の力は降ろされた。

儀式が終わると智裕は動かずに座る明希の元へ行き呪文を唱えると明希の背中に罪人の紋を刻んだ。そして一番中央近くに座る宮家の人間の傍まで行くと平伏する。

「これにて罪人の証は刻み終えました

最早、この証がある限りお上に楯突く事は出来ません

故に今後の処遇は我ら朱雀王子家にお任せ頂けますよう宜しくお願い申し上げます」

地面に頭を擦り付け智裕が懇願するように訴える。

「そなたらの忠義しかと見届けた‥好きにするが良い」

そう言うとその一行は席を立ち、去っていく。他の者もその一行に同じように平伏し頭を下げて見送る。智裕達は宮家の人間が車に乗り込みその場から去るまで平伏し続けた。明希はその間も前を向いたまま動かない。

そして車が見えなくなるとその場にいた者は各々少しづつ顔を上げる。

「では皆様、儀式が終わりましたので速やかにご退席お願いします」

ざわつく式場に聖月が四神四家縁者にそう声をかけ退席を促すとそれぞれは足早に去っていく。人が居なくなると明希は結界を超えて平伏したままの智裕の元へと歩み寄って屈んだ。

「だからもう泣くなよ‥」

明希が小さく声をかける。

「明希ちゃん‥俺‥」

其処へ退席したように見せかけ残っていた琴吹が駆け寄ってきて涙を浮かべた。

「お前も気にすんなよ‥」

明希は何時ものように返す。

「もう宮家の監視も外れましたので大丈夫ですよ」

一同に歩み寄りながら聖月が言った。

「ダーリン、うちめっちゃ怖かったーーー!」

泣きながら智裕は明希にしがみ付く。明希は優しく抱き留めて困ったように微笑んだ。

「もしかして宮家からずっと監視されてたんですか?」

琴吹の後から千代丸が歩み寄り聖月に聞いた。

「どうやら我々が三上様の素性を掴んだ事を誰かが宮家にリークしたようでずっと監視されていてあのような行動に出るしか方法が無かったんです

ですからあんな無礼な真似をしてしまいました‥申し訳ありません」

丁寧に聖月が詫びる。

「いえいえ、ちょっと焦りはしましたけどね

ではまたゆっくり話を聞かせて下さい

我々も怪しまれぬ内に引き上げますので‥」

千代丸もホッとしたように返すと琴吹と真十郎を見て帰るように促しその場を後にする。琴吹は後ろ髪引かれる思いで明希と智裕を見てからそれに続いた。


数日後、明希は一連の説明の為に龍王院家を訪れた。

「俺も智裕も時生の奴が俺にちょっかいかけてくるのは俺が智裕のウィークポイントだからだと思ってたんだがどうやら端から俺の神威の力を煙たがってんじゃないかって智裕が疑い始めたんだよ

それで俺の家系を遡って何か時生に害の在るような縁者が居ないか探ってる内に一条義明に行きついたんだ

これには俺も流石に驚いたがな‥」

離れで千代丸、琴吹、真十郎にそう話しながら明希は煙草を蒸している。

「我々もまさか貴方が義明公の子孫だとは思いもしませんでしたので本当に驚きました‥ですが誰が宮家にリークしたのでしょう?」

千代丸が戸惑いながら聞く。

「多分、俺を排除する為に時生が仕掛けたんだろ‥罪人の家系でしかも直系男児の俺は本来、死刑だからな

けど智裕がお上に掛け合ってくれたんで何とかこうして生きてる訳だが殆ど綱渡りみたいな賭けだったらしい

罪人の紋を刻んで俺を生涯監視下に置く事と過去、罪人を逃がしお上を謀るという反逆の意志が龍王院家に無かったか宮家の監視付きで確認する事を条件に出されたそうだ

だからあんな探るような真似をして悪かったってまだ聖月の奴が落ち込んでたよ」

明希が答えると千代丸は一つ溜息を吐く。

「それであのような言動で挑発していたのですね‥」

「もしうっかりあんたらが俺を庇ったり義明の妻子を逃がしたとか喋ってたら俺はあの儀式の場で即座に智裕に死刑にされてたからな‥あんたらには本当に感謝してるよ

それに生涯監視ってのもまぁ、俺としちゃ今までと全く変わんねぇんだがな‥」

千代丸が言うと明希はそう言って笑った。

「そういう事ならちゃんと言っといてくれないと解んないじゃないか‥俺、明希ちゃんが俺のせいで死んじゃうってめちゃくちゃ絶望してたんだからな!」

泣きながら切れて琴吹が言う。

「だからこっちは監視されててそれどころじゃ無かったって言ってんだろうが‥お上に掛け合う前から監視が入ってどうしようもなかったんだよ」

明希はそれを見ながら呆れて答えた。

「罪人の紋は痛いですがとにかく命が拾えて何よりでした‥我々もこれでようやく安心出来ます」

千代丸が言うと明希は煙草を消し、少し頭を掻いてから座り直す。

「一度だけ言わしてくれ‥あんたらのお陰で俺はこの世に生を受ける事が出来た

義明に変わって礼を言わせて貰うぜ」

そう言って頭を下げた。

「無事にお役目が果たせて眷属達も本望でしょう

我等の方こそよくご無事で此処まで繋いでこられた事に感謝しますよ」

千代丸も泣きそうな顔で答えた。諸々の事情が分かると早々に千代丸と真十郎は琴吹の心情を察して二人を残し下がる。

「やっぱ姫ちゃん凄いな‥俺だったら絶対あんな風に振舞えないや‥」

琴吹は落ち込むように言っているがやはり明希に凭れ掛かりながら明希の身体を弄っている。

「今回はあいつにもかなり無理させちまったから暫くは大人しく言う事聞いとくよ」

明希はそう言いつつやはり琴吹の好きにさせていた。

「ねぇ‥罪人の紋ってどんなの?」

琴吹は聞きながら服を順に脱がせると大人しく明希は着ている物を脱いだ。

「何か普通のタトゥーみたい‥」

そしてその背中に描かれた罪の証にキスをしながら明希の股間を弄りつつ琴吹が言う。

「見た目はそうみたいだな‥俺は自分の背中だから見えねぇけど‥

でもこれがある限り宮家の者に危害を加えれば即死ぬそうだ

まぁ反逆どころか会う機会もねぇだろうからそんな心配はいらねぇがな‥」

そう言うと明希は琴吹の手をズボンから引き抜いて立ち上がる。

「そういう事なんで今日は大人しく帰るよ

今度またゆっくり相手してやる」

そう言うと脱いだ物を着直す。

「ちょっとくらい良いじゃん」

少し拗ねたように琴吹は言うが何時ものようにしつこく明希に絡み付きには行かなかった。やはりあの頭を下げたまま静かに泣く智裕の姿を見てしまったのが効いていた。自分ならあそこまで冷静に行動出来なかったろうと思うと智裕の明希に対する想いの深さを実感してしまうのだ。

「じゃぁな‥」

「うん、今度は相手してよ」

明希が言うと琴吹は返しながら少し微笑む。明希もそれに少し微笑んで返しながら部屋を出て行った。

その日、真十郎は翌朝まで琴吹に解放して貰えなかった。







              おわり


これでこのシリーズは終了ですが他にもAngel09to07のアフターストーリーが有りますので興味を持たれた方はAngel09to07の最終話あとがきリンクからどうぞです^^

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